初めての恋

神寺雅文

告白の先に見えたあの日の約束22

 僕らに先に気が付いたのは奈緒であり、名を呼ばれて顔を上げれた先に居たのが奈緒だと気が付いた時にはその背中に何かを隠した気配が薄っすら漂うだけだった。
「そっかそっか、そうだよね。じゃあ、あたしは別の場所で千春たちと食べるから――」「あ、待てよ奈緒!」「いいよ、自分でああ言ってるんだからほっとこうよ。あんな天邪鬼さんなんてほっておいてご飯食べよう? ね?」「春香はこのままでいいの? こんなの二人らしくない」「そんなの分かってる。でも、私は引けない、絶対に。みやちゃんが奈緒と食べたいならそうすれば。私は二人と違って独りでいるのなれてるから――」
 言葉を言い終える前に春香は踵を返し、中庭へと迷うことなく確かな足取りで歩んでいく。言葉とは裏腹にその歩みには不格好な覚悟が憑依していて、なんだか見ていられなかった。それに、このまま春香を独りにはできないとも思った。
「独りでいるの慣れてるから」脳裏にあの夢が浮かぶ。確かに、あのまま春香が一人でどこかに行ってしまったことが確かなのであれば、春香は僕と奈緒に比べて独りでいることになれていてもおかしくはない。だって、僕と奈緒はずっと二人で今でも泣いているのだから。「待ってよ春香! もう独りになんてしないから!」
 追いかける。遠ざかる春香の背を全力で追いかける。まるで今までの分を取り返そうとするように、僕は春香を追いかけるのだ。もう一人の幼馴染とは物理的にも距離が出来てしまうかもしれない。それでも、この時代の僕は春香を追いかけることを選んだ。
 だって、僕が好きなのは春香なのだから。奈緒もそれは分かっているはず。
 その僕の楽観的な考えは見事的中した。でも、脳が分かっていても心が言うことを聞かないのが恋愛というもの。まだ幼い僕らの心では完全に自我を抑え込み、相手のことを尊重する行動を完璧に遂行することは不可能だったんだ。それを思い知るのはまだずっと先であるが、間違いなく今日のこの瞬間が引き金となったことは間違いないであろう。

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