初めての恋

神寺雅文

解き明かされる過去38

「なあ、電気消そうぜ? その方が面白くないか?」「なんだよ、少しでも逃げやすいようにってことか?」「暗いとそっちに不利だったらいいけど? まさか、出来ないとか?」「いいだろう」 扱いにくいのか、扱いやすいのかどっちかにしてほしい。燦々と輝くライトがこうも室内を照らしていると窓から外に光が漏れる。今日は生憎の雨模様だ。簡単に気が付かれてしまうだろう。
 どうして、自分から窮地に赴くことを選んでしまうんだろ。マゾなのかな。それ以上に拓哉とのことを助けたい思いのが強いから今回はイーブンにしとこう。
 照明が落とされ少しはボールがそれることが多くなり体の負担が減った。どれだけ耐えればいいか分からないがここは我慢比べといきますか。

 遠くでチャイムが鳴っているのが聞こえる。これで何度目だ。六回目だとしたら、昼休みになる。微かに大勢の人間の声が蠢いている様に聞こえなくもない。
「そろそろ、飯にするか」「アッキー、そいつを縛っといて」「あいよ〜」
 どうやら昼休みで間違いないようだ。四人が手提げ袋から弁当らしきものと飲み物を取り出している。そのうちの一人がボロ雑巾よろしく全身から力が抜けている僕をパイプ椅子に座らせまた拘束した。もう、逃げる体力もないっていうのにしつこい奴らだ。
「なあ、こいつの飯どうする?」「いつもはどうしてんだ?」「……、教室にある」
 そう返答すると誰ともなく一人立ち上がった。
「まてよ、どこに行く気だ?」「取ってきてやるよ」
 いやいや、待てよ。その優しさはかえってお前たちの首を締めるぞ。さっきからポケットのスマホが振動しっぱなしだ。奈緒か春香の鬼コールが続いているのだ。紛れもなく、この感じだと二人が僕を探していることは間違いない。
「バレるぞ、あんたらが普通科の教室、しかもあの子達がいる教室に僕の弁当なんて取りにいったら」「ああ、そうか。どうする寺嶋?」「お前、なんか怪しいな。何を企んでる?」
 本来悪ガキじゃないのか、ところどころで詰めが甘い三バカが指示を仰ぐような視線を寺嶋に注ぐと、終始冷静を保っている司令官殿が箸先で僕を指す。先端恐怖症だったら脂汗がでるぞバカタレ。行儀が悪い。
「べつに、このままお前らがやっていることが学園にバレたら、こうしてマネージャーにまでなった僕らの苦労が水の泡だからな。それに、優香さんや拓哉の悲しむ顔は見たくない」「偽善者ぶりやがっって、そういうところがムカつくんだよ!」「ぐっ」
 サッカー部のくせして投球もなかなかである。寺嶋の近くに転がっていたボールが今は僕の脇をバウンドしている。
「なあ、もうやめないか? 結構痛めつけたと思うぞ?」「もう三時間、これ以上は洒落にならない」「そいつが言うように、学園にバレたらまずいぞ。それこそ選手権に――」「お前らも俺を裏切るのか? 四人で決めただろ、拓哉に復讐するって」
 復讐ってどこまで馬鹿なんだこいつらは。日和る三人とどこまで強気な寺嶋との間に明らかな温度差が生まれている。まあ、普通ならここまでしたらタダではすまないと考えつくよな。
「いいんだぜ、別に俺はこのままやり続ける。お前らは戻れよ」「最後まで付き合う。約束だからな」
 約束とか誓いとか。運動部は魂で繋がる生き物だとは聞いていたが、ここまで来ると義理や人情に厚いを通り越し、ただ自分たちに「俺たちってこんなにもアツいんだぜ」って酔っているだけじゃないか。
 もちろん、嫌いではないがこのままでは共倒れになる。ここで寺嶋まで失うとサッカー部はいよいよ危ない。精神面でも技術面でも司令塔がいなくなることが、チームワークが物を言う団体スポーツでは致命的と言える。
「なあ、あんたらって一人じゃ何も出来ないのか?」「何だと?」「さっきから寺嶋にばっか聞いてるけど、自分たちで考えて行動したのことないのか?」「どう言う意味だ」
 三バカが立ち上がり僕を取り囲む。
「拓哉がいない、寺嶋もいない。ああ、どうしよう、このままじゃ負けちゃう。情けないとは思わないかって言ってんの」「んだと!」
 さすが運動部だ。高橋が代表して僕の胸ぐらを掴んで椅子ごと持ち上げやがった。

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