初めての恋

神寺雅文

解き明かされる過去33

「普段は人見知りとか言っておきながら、友達のことになると途端に頼もしくなるのよ」「そうなんですか? おかしいですね、私にはそうは見えませんよ。しつこいくらいでしたもん」「女の子に声を掛けるなんて無理無理、中学生の頃なんて結局最後まで声を掛けられなかった子いるくらいだよ」
 そういえば、伊藤ゆきこさんは元気だろうか。三年間、一度も会話する機会がなかったのが悔やまれる。いや、決して話掛けられなかった訳じゃなくて、彼女と話す接点がなかっただけだ。いやマジで。
「え~そうなんですか? 意外です。私はてっきり、ズカズカと土足で人の心の中に上がりこんでくる人だと最初は思ってました。もちろん、今は違います」「基本口下手だからね、許してあげて。本当に友達思いなのはあたしも春香も保証するから」「許すもなにも、たーくんの友達は私の友達です。次、何か皆さんに問題が起きたら誰よりも助けになりたいと思っています」「ホントに、じゃああたしたちも友達だね? 連絡先交換していい?」「もちろんです!」
 女子ってさ、連絡先交換するの本当に早いよね、関心してしまう。教科書の貸し借りでもするように、お互いのスマホを見せあい一分もしない間に登録完了だ。後ほど遅れて春香も交換していたのだから、僕なんかは関心しっぱなしである。
「雅君、いいかな?」「え、なに?」
 突然スマホを突き付けられても意味が分からない。優香さん、頬を染めそんな言葉を投げられては勘違いしてしまう。
「あんた、話聞いてたの? 連絡先の交換ってことよ。ほんと、抜けてるんだかバカなんだかわかったもんじゃない」「え、僕なんかと交換していいの? 親御さんに怒られない? どこの馬の骨のもんじゃあああああって!」「ふふ。少なくとも、お父さんもお母さんも雅君なら気に入ってくれると思います」「そっか、じゃあよろしくお願いします」
 ピロン。一カ月ぶりに聞く軽快なメロディー。電話帳に新たな女子の名前が登録された。グループ名のところに、拓哉の幼馴染兼拓哉の想い人と入力しておこう。
「たーくんのこと、サッカー部のことで何か知りたいことあったら聞いてくださいね」
 すっかり日も暮れた藍色の空の下、洗濯物の山が月を隠す中で優香さんが微笑んだ。それから遅れて春香が大量の洗剤を三軍の一年生を引き連れて持ってきたときは、優香さんがもっと破顔したのは言うまでもない。その美貌で一年生と虜にした春香に「私にもコツを教えてください」って言っていたのには僕もつられて笑ってしまった。当の春香は「え、え? 困ってたら手伝ってくれるって言われただけで私は……」と困惑していた。
 どうも、僕には縦社会よりもこちらの方が性に合っている様だ。早いところ問題を解決して、春香ともっと親密な関係を築きたいものである。顔を上げれば、今夜は満月であった。
 一朶の雲が月を隠すころには洗濯物も終わり帰路につくものの、翌日は生憎の雨であった。

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