初めての恋
解き明かされる過去23
「お~い! ここだここ!」「あ! みやびなにやってんのよ! 降りてきなさい!」
周囲を巡視する二人に高みから声を掛けると、奈緒は開口一番でそう怒鳴った。隣の春香も何かを言いたげに得意げにする僕を見上げている。
「ごめんごめん、久しぶりに登りたくなってさ。誰もいないし怒られたりしいだろ」「そういう問題じゃないの! 何も無かったわよね?」「ダメだよ雅君、登って何かあったら私達どうしていいか分からなくなっちゃう」
猿の様に身軽に木から降り、二人の前に立つとそんな言葉が返ってくる。
「ごめん、気を付けます」
あまりにも二人が切羽詰まったような表情をするもんだから思わず謝罪してしまった。男なら木登りの一つや二つ簡単だって言うのに、幼子を持つ母親の様に二人は心配してくれたのだ。少々過保護的な気もするが、風で枝を靡かせる巨樹を顧みる。
「そういえば、奈緒も良く登ってたよな? 低学年とか中学年のころまで?」「知らないし……、覚えてない」
意外な返答が返ってきた。腕白ガールで有名な奈緒だ。昔の級友に聞いたらみんな目撃者に違いないのだが、奈緒はあくまでも白を切るらしくそっぽを向いてしまった。私はそんな男勝りな女の子じゃないと、春香に弁明でもしたいのであろうか。
その送信先の春香と言うと、樹の上をじっと見つめている。僕がさっきまでいた場所である。
「春香どうしたの? まさか、春香も登ってみたいとか?」「え、ううん、なんだか懐かしいなって思ったの」
春香のその言葉を聞いて、不意に水族館での思い出が蘇る。
「たしか、春香の思い出にもあるんだよね? 木登りする男の子と女の子のこと」「うん……」
病弱な春香の部屋に乗り込んでくるほどの腕白ボーイと腕白ガールか。一度会ってみたいものではあるし、この辺に巨樹と同等のモノが自生する公園が他にもあることが驚きである。
あれ? 疑問が浮かんだのはそれと同時期である。
この前、春香を自宅まで送った日は確かに夜で周囲の様子を調べたわけでもないので、明言は出来ないが公園をみた記憶がないのである。巨樹があるのであるなら、夜でも気がついてもいいはずなのだが。
「春香ん家の隣に木登りできるような木あった? この間暗かったから見えなかっただけかな?」「そ、それは――」
春香の返答を待っていると、それを遮ったのは奈緒である。
「今はそんなこといいじゃない。 拓哉君のことで呼び出したんでしょ?」「そうそう、そのことなんだけどさ」
言葉を失う春香を庇うように奈緒が一歩前に進み、その勢いに負けて話題は拓哉のことに完全に切り替わった。
「拓哉と会ってきた。そして、来る日五月二十八日土曜日の道明学園との練習試合に参加することにした」「大丈夫なのそんなことして? てか、出来るのそんなこと? あの人達がそんなこと認めるとは思えないけど?」「私、運動部のことは分からないけど、無茶があるんじゃないのかな? もう辞めた人を快く迎え入れてくれるとは思えない」
ごもっとも過ぎて返す言葉がないくらいの現実的な意見である。さすが女子は男子よりも早く達観の粋にたどり着くだけはある。何も知らない二人がそう思うのも無理はない。
この考えに至った経緯を二人に説明することにする。ほとんど何も知らない春香がいるので、マネージャーを始めた頃の話しから拓哉の家でのことを簡単に話す。
「そうだったんだ。一方的にサッカー部の皆さんを責めるのは道理が通らない問題なんだね。でも、私、あの人達の為に何かしたいなんて思えない」「春香がそこまで怒るなんて珍しいわね」
だってと春香は続けて口を尖らせた。
周囲を巡視する二人に高みから声を掛けると、奈緒は開口一番でそう怒鳴った。隣の春香も何かを言いたげに得意げにする僕を見上げている。
「ごめんごめん、久しぶりに登りたくなってさ。誰もいないし怒られたりしいだろ」「そういう問題じゃないの! 何も無かったわよね?」「ダメだよ雅君、登って何かあったら私達どうしていいか分からなくなっちゃう」
猿の様に身軽に木から降り、二人の前に立つとそんな言葉が返ってくる。
「ごめん、気を付けます」
あまりにも二人が切羽詰まったような表情をするもんだから思わず謝罪してしまった。男なら木登りの一つや二つ簡単だって言うのに、幼子を持つ母親の様に二人は心配してくれたのだ。少々過保護的な気もするが、風で枝を靡かせる巨樹を顧みる。
「そういえば、奈緒も良く登ってたよな? 低学年とか中学年のころまで?」「知らないし……、覚えてない」
意外な返答が返ってきた。腕白ガールで有名な奈緒だ。昔の級友に聞いたらみんな目撃者に違いないのだが、奈緒はあくまでも白を切るらしくそっぽを向いてしまった。私はそんな男勝りな女の子じゃないと、春香に弁明でもしたいのであろうか。
その送信先の春香と言うと、樹の上をじっと見つめている。僕がさっきまでいた場所である。
「春香どうしたの? まさか、春香も登ってみたいとか?」「え、ううん、なんだか懐かしいなって思ったの」
春香のその言葉を聞いて、不意に水族館での思い出が蘇る。
「たしか、春香の思い出にもあるんだよね? 木登りする男の子と女の子のこと」「うん……」
病弱な春香の部屋に乗り込んでくるほどの腕白ボーイと腕白ガールか。一度会ってみたいものではあるし、この辺に巨樹と同等のモノが自生する公園が他にもあることが驚きである。
あれ? 疑問が浮かんだのはそれと同時期である。
この前、春香を自宅まで送った日は確かに夜で周囲の様子を調べたわけでもないので、明言は出来ないが公園をみた記憶がないのである。巨樹があるのであるなら、夜でも気がついてもいいはずなのだが。
「春香ん家の隣に木登りできるような木あった? この間暗かったから見えなかっただけかな?」「そ、それは――」
春香の返答を待っていると、それを遮ったのは奈緒である。
「今はそんなこといいじゃない。 拓哉君のことで呼び出したんでしょ?」「そうそう、そのことなんだけどさ」
言葉を失う春香を庇うように奈緒が一歩前に進み、その勢いに負けて話題は拓哉のことに完全に切り替わった。
「拓哉と会ってきた。そして、来る日五月二十八日土曜日の道明学園との練習試合に参加することにした」「大丈夫なのそんなことして? てか、出来るのそんなこと? あの人達がそんなこと認めるとは思えないけど?」「私、運動部のことは分からないけど、無茶があるんじゃないのかな? もう辞めた人を快く迎え入れてくれるとは思えない」
ごもっとも過ぎて返す言葉がないくらいの現実的な意見である。さすが女子は男子よりも早く達観の粋にたどり着くだけはある。何も知らない二人がそう思うのも無理はない。
この考えに至った経緯を二人に説明することにする。ほとんど何も知らない春香がいるので、マネージャーを始めた頃の話しから拓哉の家でのことを簡単に話す。
「そうだったんだ。一方的にサッカー部の皆さんを責めるのは道理が通らない問題なんだね。でも、私、あの人達の為に何かしたいなんて思えない」「春香がそこまで怒るなんて珍しいわね」
だってと春香は続けて口を尖らせた。
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