初めての恋

神寺雅文

解き明かされる過去17

「拓哉、僕、お前の友達失格だな。お前を利用して僕だけが幸せだったなんて、あり得ないよ。いままでたくさんのことをしてくれてありがとう。拓哉に出会って本当に良かった」
 聞こえないとは分かっているが、言わずにはいられないのだ。拓哉への感謝の気持ちと自責の念が豪雨と暴風となり僕の体内から暴れ踊り出す。
 これだけは、言っておかなければならないことがある。もう、友達解消でもいい。だけど、拓哉には帰るべき場所にちゃんと帰ってほしかった。友として。これが僕にできる最後の友達孝行だ。
「拓哉、お前、辞めた理由誰にも言ってないみたいだな? そんなんで良いのかよ、昔からずっと一緒にやってきた仲間に、何も言わなくていいのかよ? お前らしくないんじゃないのか?」
 友情に熱い拓哉である、黙って辞めることに義理も人情もないことに気が付かない訳がない。何が正しいかなんて、あいつらと長く付き合ってきた拓哉自身が一番わかっているはずなのだ。だから、本来僕がわざわざ口に出すことでもないのである。
「拓哉……、サッカーやろうぜ。お前、辞めちゃダメだろサッカー。膝が痛いなら、痛いなりにできることあると思うんだ」
 拓哉がどうして家族にも仲間にも何も言わないのか。検討もつかない。普通なら誰かに相談するはずだ、将来に関わる問題ならなおさら。
 それなのに、誰にも相談しないで一方的に退部して普通科に転籍なんてのは道理が通らない。暴挙とも言えるし、そのあとのサッカー部の動向に無関心なのもいささか無責任である。
 だから、無言の宛先相手に自分が収集したサッカー部の情報を伝える。部外者の僕が出来るのはこれくらいだ。
「優香さんから聞いたぞ、拓哉がケガしたときに寺嶋も膝ケガしたんだよ。その影響でいまもリハビリ中で、チームもボロボロなんだと。ライバル校の道明学園にも勝てるか怪しいらしいぞ」「……なんだと?」
 呼び鈴も押していないのに、向こう側から拓哉の声がした。
「雅! どういうことだ! 寺嶋がケガしてるってどういうことだよ!」
 そんな簡単に開くものなのかと思うほどに、勢いよく開いた扉の向こうからスエット姿の拓哉が飛び出してきて充血した瞳を僕に向けた。あまりにも勢い良く両肩を掴むもんだから咽てしまう。
「まてまて、落ち着けって拓哉」
 久しぶりにみる拓哉の姿は、とても非力なものである。いつもの整った髪型からは想像もつかない寝癖頭に、少々異臭を放つ身なり。不健康な生活を続けていたことがその見た目だけでも露見している。そこまで気に病んでいる拓哉に真実を告げ良いものか。なんて今更引き返すわけにもいかないか。

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