創造神で破壊神な俺がケモミミを救う

てん

第48話

大地達が西側の領主との会談を終え、帝国の侵略に備えようと動き出している時、帝国の王宮では殺伐とした空気が漂う中、任務に失敗した者達に厳しい目が向けられていた。

「宮廷魔法師第二位アーヴよ。何か申し開きはあるか?」

帝国の皇帝ゼフィルは顔色一つ変えることなく淡々とした表情で目の前で片膝をついているアーヴに話しかける。

後ろには部下である片腕を無くしたナーシェンと顔色の悪いマリオネスが片膝を着いたまま、俯いていた。

実はアーヴは大地に殺された後、寄生魔法によって死体からの脱皮を行い、犬斗の空けた穴から逃げ出していた。

寄生魔法について詳しい能力まで把握していなかった大地は死体の処理を獣士団に任せていたこともあり、アーヴが逃げ出したことに気付いていなかった。

その後大地がクーポラの修繕を行っている間にアーヴは他の獣人の目を盗み、マリオネスや動ける帝国兵を連れ出し、帝国まで逃げ延びていたのであった。

「申し訳ありません! この度の失態全て私の慢心が招いたこと。処罰はいかようにも受ける所存でございます。」

アーヴは顔を上げることなく今回の自分の失態について誠心誠意の謝罪を行う。

「私は謝罪を聞きたいのではない。お前は宮廷魔法師としてこれまでいかなる任務も成功させてきた。そのお前が何故帝国まで逃げるような事態になったのか、その理由が知りたいのだ。」

ゼフィルは今にも自害しそうなアーヴを諭すように声をかけていく。

「はっ! それが・・・不思議な力を使う者が現れまして。」

「ん? 不思議な力だと? 詳しく申してみよ。」

不思議な能力という単語にゼフィルの表情が変わる。

アーヴは自分がトーム侵略作戦の合間に生体兵器開発の為に獣人を集め、人体実験をしていたこと。

獣人を集める過程で犬斗や大地といった不思議な能力を持つ者に出会ったこと。

最初は順調だった獣人の回収も大地の能力を見誤った事で、自身で対処できる範囲を超えてしまう状態になってしまったこと。

このままではトーム侵略の作戦に支障をきたすと思い、部下と共に犬斗と大地の排除を行おうとして失敗したことを説明した。

「もしやその能力は・・・・」

ゼフィルは隣に立っているミキに目線を向ける。

「ゼフィル様の考えている通り、密林にいた創造神に間違いないでしょう。アーヴが戦闘を起こす少し前にジョゼ達からの報告が途切れました。おそらくはメリアは創造神が死んでいない事を知っていて、何かしらの理由であちら側についたのではないかと。」

「そうか。相手がザレウスを破りシリウスに深手を負わせた創造神ならこの話も納得出来る。」

ゼフィルは少し考えこむ様子を見せた後、アーヴの方へと視線を再度移した。

「アーヴよ。帝国は大国といえど今はディランチ連邦と戦争中だ。ディランチは小人族の新型武器を使ってきておってな、そのせいで現在互角の戦いを強いられている。それ故今トームに向けることの出来る戦力はない。その為、お前を筆頭に宮廷魔法師三人をスパイとしてトームに潜り込ませ、内乱を起こさせた隙に奪い取ってしまおうという作戦だったのだが。お前が逃げてきた段階で少なくとも西側の奴らには帝国の思惑がばれてしまっているだろうな。」

「申し訳ありません・・・。」

「そこでだ。お前に名誉挽回の機会をやろう。東側に潜んでいる二人はお前の部下として使って構わん。今回のトーム侵略作戦、お前の手勢のみでもし成功させることが出来れば、此度の件は不問としよう。」

「はっ! 必ずやトームの地を陛下の前に差し出す事をお約束致します。」

アーヴだけでなく後ろで縮こまっていた二人もゼフィルからの恩情に報いようと声を張り上げる。

アーヴ達はゼフィルに一礼し王宮を後にすると、トーム侵略の準備を整える為に帝国王都の東に位置する生体兵器開発局へと向かった。




「あら誰かと思えば、獣人に片腕を持っていかれたナーシェンじゃない?」

ナーシェンが生体兵器開発局にある自分の研究室に向かっている時、後ろから皮肉の混じった声が聞こえた。

「ラネッサ。それにルーメルか。」

ナーシェンが振り向くと生体兵器開発局第四室長のラネッサと第五室長のルーメルがにやけた顔でナーシェンを見つめていた。

「あんた今回の作戦失敗で室長を降格されるかもしれないらしいじゃないの? まぁ獣人に負けただけでなく片腕を失ったんじゃ、それも無理ない話かしらね。」

ラネッサは小馬鹿にしたような態度で楽しそうにナーシェンに話しかける。

「まぁ獣人に負けるような奴は生体兵器開発局の研究員としてだけでなく、帝国国民としての価値もないからな。」

ルーメルもラネッサと同じような態度を取りながらナーシェンに厳しい言葉を浴びせる。

「私が降格だと? そんな馬鹿な!」

ナーシェンはアーヴからそのような事は何も聞いていなかった。

信じられないといった表情を浮かべるナーシェン。

「ていうかむしろこのまま室長を続けれるとでも思っていたの? 」

「アーヴ様は今回のトーム侵略作戦にお前達第一室のメンバーは連れていくつもりはないと俺達を含む他の室長達に話された。つまりお前はもう用済みって訳だ。」

ルーメルからアーヴが既に自分達を必要としていないことを聞いたナーシェンは、気が狂ったように髪の毛を掻きむしり出す。

アーヴ様の右腕として身を粉にしてきた私が用済み?

エリートである私が帝国に必要がない?

唖然とした表情を浮かべるナーシェンを見て満足そうな笑みを浮かべるラネッサとルーメル。

ナーシェンは突き付けられた真実に耐えられず、その場から逃げ出すように走り出した。

なんで私が・・・エリートである私がこんな扱いを受けねばならない。

全てあのガランという獣人のせいだ。

あいつさえいなければ、あんな武器さえなければ。

ナーシェンの心の中にどす黒い復讐心が沸々と沸き上がってくる。

このまま獣人に負けたまま降格を受け入れるなどありえない。

あの獣人だけでも私の手で殺さなければ。

ナーシェンは自分がこのような目に合っているのは全てガランのせいだと、ガランへの憎悪を強めていく。

「このままで済むと思うなよ、獣人共がぁ!」

自身の研究室に着いたナーシェンは憎悪にまみれた顔を晒し、吐き出すように吠えた。

獣人に負けたという事実、室長からの降格、同僚達からの嘲笑、無くなった左腕、様々な思考が巡るうちナーシェンはその精神を崩壊させていった。






アーヴは自身の研究室に戻ると、部屋に飾られたコレクションを眺めていた。

アーヴの研究室には剥製の様に動くことのない人間や獣人がホルマリン漬けのように大きな試験管の中に入った状態で並べられていた。

アーヴはその試験管に入ったコレクションの前を歩いていく。

そして一番奥に置かれている試験管の前に立つと、ニヤリと笑みを浮かべる。

「この身体なら犬斗を、いや大地ですら敵ではない。私に汚名を着せたその罪、お前達の死を持って償ってもらうことにしよう。」

アーヴは試験管の前で小さく呟くと、その試験管にそっと手のひらを添えた。

アーヴが手を添えた試験管には紫色の肌、赤色の目を持った魔族が入っていた。

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