創造神で破壊神な俺がケモミミを救う
第37話
ケンプフは事の顛末について詳しく話した後、苦笑いを大地に向けた。
大地はケンプフの話を聞いて納得した表情を浮かべる。
実は大地はスパイへの密書のやり取りをする役目、つまり目立つ事を極力避けなければならない立場だったケンプフが何故マルタにて目立つような真似をしていたのか疑問に思っていた。
しかしまさかその理由が獣人や子供等の弱者のためだとはさすがの大地も予想はしていなかったのだが。
話を聞いた大地は苦笑いを浮かべるケンプフの元に近寄る。
向かってくる大地にリリーナが両手を広げて立ち塞がるが、大地に敵意のないことに気付くと、塞いでいたケンプフへの道を開けた。
大地はケンプフの近くまで寄るとプログラミングを行い、銃弾で傷付いた両足を治していく。
「これはいったい・・・!」
「痛みすら無くなっただと・・・!」
大地の奇跡のような力に二人とも目を丸くしている。
「どうだ。もう普通に歩けるし、なんなら走ることも出来るぞ。」
「本当だ・・・今まで通りに戻っている。」
「大地そいつは敵でしょ! どうして治しちゃうのよ!」
「本当ですよ! まだスパイに関する情報だって聞き出してないじゃないですかぁ!」
情報も聞かぬまま傷を治した大地にメリアとルルが猛抗議を行う。
リリーナは目に涙を溜めながらケンプフに寄り添っている。
ケンプフはリリーナの肩を抱きながら大地に疑問をぶつけた。
「何故帝国の密偵である私を助けた?」
「本当にそうですよ! 何でなんですか!」
「ちゃんとした理由がないと怒るわよ。」
ルルとメリアもケンプフに便乗して、大地に詰め寄りながら聞いてくる。
すると大地はさも当たり前というような態度を見せながら二人の疑問に答えた。
「はぁ? 決まってるだろ。獣人好きに悪い奴はいない。」
「なっなっ何を言ってるんですか!?」
「あんた馬鹿じゃないの!? 訳わかんないわよ!」
「お前らこそ何言ってんだよ。こいつはリリーナっていう獣人や教会に住んでいる身寄りのない子供達の事が好きになっちまって、自分の身も顧みずそいつらのことを守ろうとしたやつだぞ!? 絶対に悪い奴な訳がないじゃねぇか。」
大地のデリカシーのない発言に顔を真っ赤にさせるケンプフ。
隣のリリーナも頬を染めて顔を背けている。
ルルとメリアは二人の醸し出す甘ったるい雰囲気を察知すると、それ以上追及することを止めため息をついた。
「確かにあんな姿を見せつけられたら羨ま・・・っじゃなくてこれ以上何かしてやろうという気分にはなれませんね。」
「そうね。尋問してでも情報を吐かせようと思ってたけど、こうまで見せつけられると毒気が抜かれるわね・・・」
ルルとメリアの視線を感じたケンプフ達は照れた様子を見せながら一旦距離をとった。
ルルとメリアから一定の理解を得られた大地は改めてケンプフからスパイについての情報を聞き出そうとする。
「ケンプフ。獣人を守ろうとしているお前をどうこうするつもりはない。むしろ協力出来ることがあれば喜んで協力したいぐらいだ。けどスパイの情報だけは話してもらいたい。」
「本来ならば殺されても仕方ないところを助けてくれるんだ。俺のわかることなら教えるよ。正直今更人間至上主義を掲げる帝国に帰りたいとも思わないしな。」
「そうか。それはこちらとしても助かる。」
「情報を教える前に聞かせてほしい事があるんだが、お前達はいったい何者なんだ? 
そもそもスパイがいる事は帝国の暗部組織のドンクレスでも一部の人間しか知らない極秘事項だぞ?
それを知っているだけでなく、密偵である私がデュセオ領地に居る事まで掴んでいるお前達は唯者じゃない。
情報はもちろん教えるがその前にお前達の正体が知りたい。」
「何者って言われてもな・・・俺達は獣人の国を作ろうとしている有志の集まりってぐらいしか言いようがないぞ。その過程で今帝国と喧嘩している最中ではあるが。」
「獣人の国を作る? 本気か!?」
「本気も何もそれしか今は考えていない。でもお前とリリーナの姿を見ていたら、ただ獣人が安心して住める国ってだけじゃなく、人間も獣人も他の種族もお互いに尊重し合える国を作るのもありだなって思ったよ。」
「茶化すのはもうやめてくれ。・・・そうか私以外にも獣人に対して差別意識を持たない人間が三人もいたのか。」
「あっ! ルルとメリアは違うんだ。」
大地がメリアにアイコンタクトで変成魔法の解除の指示を出すと、メリアがルルの変成魔法を解く。ルルの姿は元の猫人族の姿に戻っていった。
「まぁこういうことだ。ルルだけじゃなくメリアも獣人だ。マルタへ潜入するために姿を変えてたって訳さ。確かに獣人の国を作ろうとしている人間は俺を含めて三人いるんだが、二人は今拠点にいる。」
「それはまた凄い魔法だな。というか拠点があるのか!?」
ケンプフは見た事のない特殊な魔法を見せられ苦笑いを見せていたが、途端に大地の口から出た拠点という言葉に大きな反応を見せる。
「もしお前達が望むなら、子供達もまとめて俺達の拠点に来てもいいぜ?俺達の拠点なら獣人だからといって迫害されることもなければ、飢える心配もない。もちろんスパイの情報との引き換えになるがな。」
「随分と魅力的な取引をしてくる奴だな。元々この密偵の仕事を終えたら兵士を辞めてリリーナ達とここで暮らそうと思っていたからな。リリーナ達が安心して暮らせる場所があるなら、ぜひやっかいになりたい。」
「よーし取引成立だな! 俺達の拠点はボレアス領地の剣山の奥にある。本当は拠点まで送ってやりたいんだが、他にやる事があってな。剣山の入口までは送ってやるから、そこからは警備担当の犬斗って奴から案内を受けてくれ。」
大地が意気揚々と拠点について説明を行うなか、拠点の場所を聞いたケンプフの顔が段々と青ざめていく。
様子が急変したケンプフを心配して大地が声をかけると、ケンプフから信じられない事実が告げられる。
「大地といったな・・・大地。冷静に聞いてくれ。俺が・・・密偵として密書のやり取りをしていた相手はお前達が拠点としているボレアスの領主だ。」
「なっ・・・サイラスさんがスパイ!?そんな馬鹿な!」
「サイラス? 名前は知らないがボレアス領主の使いと名乗る使用人みたいな奴と密書のやり取りをしたから間違いないはずだ。」
「使用人もグルだったってことか・・・?」
大地は自身の抱えていた漠然な不安が的中してしまっていることに気付くと犬斗にすぐに念話を飛ばす。
しかし何度念話を飛ばしても犬斗からの返答はない。
大地は犬斗に連絡がつかない事に苛立ちを覚えながらガランに念話を飛ばした。
『ガラン! 聞こえるなら返事をしろ!』
『大地か?本当にタイミングがいいな・・・』
『どうした何かあったか!?』
『大地から念話が来る少し前に帝国兵と思われる者達から襲撃を受けた。今は住居用クーポラにいる奴らをシェルターまで誘導している最中だ。』
『そうか。犬斗と連絡がつかないんだが犬斗は今どこに?』
『犬斗はこっちにいないから多分中央クーポラにいるんじゃねえか。』
『くそ! 気付くのが遅かったか! ガラン良く聞いてくれ。今帝国の密偵から聞いた話なんだが、サイラスは帝国のスパイだったらしい。
その襲撃も多分サイラスの手によるものだ。俺達も今からすぐにそっちに戻る。俺が作った専用武装を使うようにみんなに指示を出せ!
絶対に死ぬなよ!』
『大体の話はわかった。専用武装は既にいつでも使えるようにしとけってみんなに伝えてある。こっちも出来る限りのことはやってみるぜ。』
大地はガランとの念話を切るとルルとメリアに急いでボレアスへと帰還する事を伝える。
「何があったんですか!?」
「そんな焦ってどうしたっていうのよ!」
「サイラスが帝国のスパイだったらしい。今ボレアスは帝国に攻められている。
くそが! 大方邪魔になった俺をミッテまでの諜報活動と称して遠くに追いやってから攻撃を仕掛ける作戦だったんだろう。
メリアとジョゼが少し前に来たのも、もしかしたら帝国の作戦の下調べ的な意味があったのかもしれない。」
「そんな! みんなは無事何ですか!?」
「ガランとは連絡が着いた。多分攻撃が始まったばかりだからまだ無事だと思うが、これからどうなるかはわからない。」
「じゃあ急いで戻らないと!」
「わかってる! しかし車でいっても何時間も掛かる上に剣山は車じゃ移動できねぇ。そんなちんたらしてたら、間に合わねぇ。」
「じゃあどうするんですか!」
ルルは泣きそうになりながら大地の腕を掴んで振り回している。
メリアも額に手を当てながら難しい顔をしていた。
ケンプフに至っては頭を抱えており、その顔には既に諦めの表情が見えていた。
しかし大地だけは一つだけ短時間でボレアスまで行く方法を思いついていた。
「作成出来るかどうかわかんねぇし、上手く飛べなきゃ死ぬ可能性もあるが、飛行機しかないよな・・・・」
「飛行機?」
「どうせそれも規格外な物になんでしょうね・・・」
「空飛ぶ車みたいな物だよ。ケンプフこの辺りに幅が広くて長い道路はないか?」
「街中にはない。街中を探すぐらいなら一旦マルタから出た方が早い。」
「そうか。わかった。ルル、メリア、今からマルタの街を出るぞ。高原に出たら、すぐに飛行機を作成してそれに乗り込んでボレアスへ向かう。」
大地はルルとメリアに今後の動きについて伝えると、犬斗やガラン達の無事を祈りながら、全力で高原へと走っていった。
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