創造神で破壊神な俺がケモミミを救う

てん

第19話

大地達は激しい剣山を抜けると、ボレアス領の領主であるサイラスの館に来ていた。

犬斗が自慢するだけはあり、ロマの乗り心地は実に良いものであった。

揺れは一切なく、雪が降りそそぐ剣山の中にあって寒さを微塵も感じさせないロマの温かさは乗っていて実に快適で大地は一発でロマの虜になっていた。

バスではあれだけ酔っていたルルでさえ酔うことなく、楽しそうな様子を浮かべていたことからもロマの性能の高さがうかがえる。

大地は館へ着くと、レイ達幹部以外の獣人には館の休憩室で待ってもらい、犬斗の案内で面会室に向かった。

面会室に着くと犬斗がサイラスを呼びに一旦面会室から出ていく。

大地達が出された紅茶を飲みながらしばらく待っていると犬斗がサイラスを連れて姿を見せた。

歳は四十台前半といったところだろうか、少し黄色味がかった茶髪を後ろにかきあげたような髪型をしている。

穏やかな表情にやさしそうな瞳はサイラスの優しい人柄を如実に表していた。

「サイラス・・・・」

思わずレイが声を漏らす。するとレイの姿に気付いたサイラスは懐かしさや心苦しさを混ぜ合わせた様な表情を見せる。

「もしかしてレイ?・・・レイなのか? よくぞ無事でいてくれた・・・・・・・あの時は私の力が至らないばかりにお前達を助けることが出来ずにすまなかった。」

「何を言っておる! あの時お前はまだ十六で成人を迎えたばかりじゃったじゃろう! しかし立派になったのう。ヘクトルが見たらさぞ喜ぶじゃろうな。」

レイの言葉に一瞬顔を伏せるサイラス。その様子を見たレイが心配そうにサイラスに声をかける。

「どうしたサイラス?」

「いや・・・・レイの顔を見たらなんだかあの頃を思い出してしまってな。ところでそちらの方々は? 獣人だけでなく人間の御仁もいるが?」

サイラスは話を切り替えるように大地を見ながら、レイに紹介を求める。

「このお方は大地さんといって、私達が人間から追われ密林で生活していた時に出会った恩人じゃ。もし大地さんがいなければ私達は今頃生きてはいないじゃろう。」

レイの話を聞き、サイラスは一瞬怪訝そうな表情を大地に向けるが、すぐに真剣な顔付きに戻ると大地に頭を下げる。

「大地さんといったか。レイは私にとって家族も同然の存在だ。そんな彼を助けてもらったこと、私からもお礼を言わせてくれ。」

「俺は助けたいから助けただけです。この地の長ともあろうお方がそう簡単に人に頭を下げてはいけませんよ。」

大地は照れくさそうにサイラスに頭を上げるように促す。

サイラスは大地の促されると頭を上げ、席に着いた。

レイはサイラスが席に着くと、これまでの事とここへ来た理由を説明する。

「そうか。まさか犬斗以外に違う世界から来た人がいたとはな。それに帝国が密林に侵略してくるとは。事情は大体わかった。ここは気温が低く寒さには厳しいものはあるが、そのお陰で滅多に人が寄り付かん。獣人でも安心して暮らせると思う。」

「そうか。それは助かる。サイラス恩に着るぞ。」

「お礼なんてよしてくれレイ。私にとってはむしろあの時の贖罪になるのだから。」

サイラスは大地達の領地への居住を快諾すると、犬斗に居住地への案内を依頼する。

レイがサイラスと残って話をしたいと言った為、大地達は先に犬斗の案内で居住地へ向かった。

ボレアス領地はトームの北部にあることもあり、北海道並みの降雪があった。

その為暖かい密林しか知らないルル達若い獣人は、その寒さに耐えきれずブルブルと震え上がっていた。

確かに密林にいる時と同じ軽装では寒いのも無理はない。

大地が見かねて全員の冬用の服と上着を作成し、全員に配っていると、犬斗が物珍しそうに大地の保持スキルについて聞いてくる。

「大地さんのスキルってなんですか?」

「あぁ俺のスキルはプログラマーっていって、自分の記憶や知識から物や現象を再現したり、視界に捕らえた物の情報を読み取ったり、物の構造を変えたりするスキルだ。」

「えっ! めちゃくちゃ便利なスキルじゃないですか!」

犬斗は羨ましそうに大地のスキルで出来たコートを見つめる。

すると犬斗は何か閃いたような声を出すと、大地に提案を始める。

「記憶にある物が再現可能なら、服だけでなく料理も再現可能ですよね?」

「確かに、俺が食べた事ある物なら再現できるが。」

「おお! やっぱり!」

大地から可能と聞いた犬斗は飛びあって喜ぶと興奮した様子を見せる。

何かを企んでいる様子を見せる犬斗に大地は怪訝そうな顔を向けるが、その後おかしな行動を取ることなく案内を続ける犬斗を見て、大地は何か企んでいると思ったのは自分の勘違いだったのかと首を傾げる。

犬斗はボレアス領地について大地達に教えながら、大地達の住居となる建物に案内していく。

建物は木造の二階建てのアパートの様なものでトイレ、風呂無しの大きめのワンルームといった間取りだった。

居住地にはこのアパートが列を成すように建てられており、アパートの隣には大きな炊事場と食事をとる所が一緒になっている学生食堂の様な建物があった。

その後部屋割りを終えてルル達が各自部屋でくつろいでいる間、大地は居住地の設備状況を確認するために犬斗にお願いして居住地周辺を案内してもらっていた。

密林よりも設備は揃っているものの、あまり良い環境とは言えない居住地の状態に、大地は犬斗にボレアス領地の生活環境について尋ねる。

「犬斗少し聞きたいことがあるんだがいいか?」

「はい!何ですか?」

「ここは一応トームの領主が治めている領地だろ? その割には生活環境が整ってない気がするんだが。」

「やっぱり大地さんも気になりましたか? 実はボレアス領地は天候の悪さや、剣山の山に囲まれている立地のせいで人里が元々ないらしくて。人が住むための設備そのものがないんですよ。」

その後もボレアス領地について説明を行う犬と斗。

犬斗の話を要約すると、ボレアス領地には元々建物等の設備がなく、隠れて獣人を保護している手前、大工などを呼んで居住環境を整えることも出来なかった為、全て自分達で用意していたらしい。

大地は獣人を保護しながら保護した後の事を全て獣人達に丸投げしているサイラス少し不信感のようなものを感じた。

犬斗はその後も説明をしながら居住地の案内を行っていたが、食堂に入るやいなや何かを思い出したかのように一旦話を切ると、先程話していたスキルの話を始める。

「そういえば大地さんは料理も再現出来るんですよね?」

もの欲しそうな顔をしながら聞いてくる犬斗に大地は呆れた顔をしながら犬斗に食べたい物を聞く。

嬉しそうな表情をしながら次々に食べたい物を上げていく犬斗。

大地が犬斗から聞いたものを再現しようとした時、犬斗が慌てた様子でそれを止める。

「ちょっと待って下さい!」

「腹が減ったんじゃないのか?」

「お腹は空いてますが、ちょっとだけ待って下さい。」

犬斗は大地を制止すると、アパートの方へ走っていく。

大地はルル達でも呼びに行ったのだと思い、食堂の椅子に座りしばらく待っていると、犬斗が大勢の獣人を連れて食堂に現れた。

獣人達の中にはルル達密林組のメンバーにサイラスまでいた。

獣人達は犬斗に呼ばれてきた理由が分からず困惑した表情を浮かべる者や人間である大地を警戒している者もいた。

大地は怪訝そうな顔をしながら、ニヤニヤと企み顔の犬斗を見つめる。

「犬斗? これはどういう事だ?」

「いやぁ~実はここへ飛ばされてから、サイラスさんにお世話になり、獣人さんの皆さんとも仲良くさせてもらうようになったんですけど。実は一つだけ僕と皆さんとの間で平行線を辿っている話がありまして。」

「ん? その話というのは?」

「食文化ですよ! この世界には生魚を食べる文化もなければ、醤油や味噌もない! まるで中世ヨーロッパみたいな食文化なんですよ! だから僕がいくら和食の良さを伝えても、獣人さん達は生魚なんか食べれる訳がない、味噌なんて要するに腐った豆だろって! 同じ日本人として許し難いですよね!?」

よほど日本食に飢えていたのだろう。犬斗は鬼の形相で大地からの賛同を求める。

大地も犬斗の迫力に気圧される形で犬斗の意見に賛同を示すと、犬斗はニヤッと笑みを浮かべ話を進める。

「ということでせっかく大地さんが来たのですから、この際獣人さん達に和食を食べてもらい、和食の素晴らしさを一緒に証明しようではありませんか!」

胸を張りながら説明を終えた犬斗にさっきと比較にならないぐらいの呆れ顔を見せる大地。

しかし大勢の人達を呼んでおいて何もしないという訳にもいかず、渋々ながら犬斗のお願いを聞くのであった。

二時間後、大地は炊事場にて疲れた顔で天井を眺めていた。

隣には満足そうな表情を見せる犬斗と大地を心配そうな顔で見ているルルがいた。

犬斗が目論んだ作戦は見事に成功した。

獣人達は大地の再現した刺身、天ぷら、味噌汁等を食べて絶賛し、犬斗に今まで信じていなかった事を詫びていた。

しかしおかわりを求める程に気に入ってしまった獣人達から多量の料理の再現を求められた大地は、二時間の間常に料理の再現を強いられていた。

途中心配になって見に来たルルが配膳を手伝ってくれたからまだ良かったが、常に神経を集中して料理を再現し続けないといけない環境は、大地に多大な疲労を蓄積させていた。

二度とこんな多量の料理の再現はしないと心に決めた大地にルルが心配そうに声をかける。

「大地さん大丈夫ですか?」

「正直疲れた。すぐにでも寝たい気分だがもうちょっとここで休んでから部屋に帰ることにするよ。もう夜も遅いしルルは先に帰って休みな。今日はありがとな。」

「いえこのぐらいの事ならいつでもしますから。」

ルルはお礼を言われたことで若干頬を染めながらアパートに帰っていった。

ルルが食堂から出たところで大地が口を開き始める。

「犬斗。お前の思った通りに事が運んだか?」

「どういう意味ですか?」

「俺からスキルの事を聞いた時になんか企んでいるなとは思ったが、こんな事を考えていたなんてな。」

「でもおかげで大地さんが人間だからといって敵視する獣人さんはいなくなりましたよ。同じ釜の飯を食った仲間になったわけですから。」

「そういう事か・・・」

「まぁ僕は和食を獣人さん達に認めさせたいと思っていただけですけど。」

犬斗が大地とボレアスの獣人の関係構築の為に今回の事を仕組んだと知り、大地は腑に落ちない表情をしながらも文句を言おうとしていた口を止める。

犬斗は大地が納得いかない顔をしているのをへらへらしながら笑っていたが、大地から例の相談について問われると神妙な顔つきになる。


「大地さんはこの世界に来てからどれくらいになりますか?」

「明確には覚えてないが、まだひと月も経ってないぞ。」

「そんな最近なんですか!? じゃあ何も知らないですよね・・・」

犬斗は肩を落として落胆する。大地は落胆する理由がわからず、詳しい話を聞く。

「何もしらないとは何の話の事だ?」

「実は、まだ噂程度でしか聞いたことが無いのですが。、この世界の何処かに空間を操る術者がいるらしくて。大地さん凄く強いし、自分のスキルも理解してる様子でしたから、この世界に来てから長い方だと思って、何か知ってるんじゃないかと・・・」

「期待させたみたいで、なんか悪かったな・・・」

「いえいえ! こっちが勝手に期待しただけですから、頭を下げないで下さい!」

「犬斗はなんでその術者を探しているんだ?」

「空間を操るという事はこの世界の空間と僕達の世界の空間を繋げることも可能かもしれないと思って。」

「そういう事か。日本に帰るために探していたという事か。」

「そうです。ここに来て僕は五年になりますから。さすがに日本が恋しくなりますよ。ここはご飯が美味しくないですし・・・」

「もう五年もこの世界にいるのか!? 確かに帰りたくなる気持ちもわかるわ。そういえば暇がなくて考えた事が無かったが、なんで俺達は異世界に転移させられたんだろうな。」

「さぁ全くわかんないですよ。そもそもどうやってきたかもわからないのに。僕は帰れるんでしょうか・・・」

犬斗はぶつぶつと愚痴をつぶやきながら弱音を吐き始める。

大地は犬斗を励ましながら、お互いの経緯と知っている情報の交換を始めた。

犬斗は日本にいる頃は見習いのドッグトレーナーだったらしい。

仕事を始めて半年ぐらいたった頃、飼育していた犬が病気に罹ってしまい、交代しながら毎晩看病を行っていた。

その日当番だった犬斗はいつもと変わらず犬のバイタル等を確認した後、仮眠をとるために職員の休憩室で横になった。

毎朝五時起きで慣れない仕事をしていた犬斗は仮眠のつもりが深い眠りに落ちてしまう。

朝日が瞼の裏に入って来た事から寝てしまっていた事に気付いた犬斗が慌てて起きると目の前には広野が広がっていた。

犬斗はその時ひどく混乱していたが、運良く近くにいた冒険者に拾われ、ガドール帝国まで送ってもらえた。

その後は日本に帰る方法を探すために冒険者としてクエストをこなしながら、四年をかけてガドールとユーリスの地を周ってみたが、謎の術者の噂ぐらいしか手立てとなりそうな情報は入って来なかった。

ちなみに犬斗は冒険者となる時に観晶石を使い自分のスキルに気付いたらしい。

犬斗はガドールとユーリスでは術者以上の情報が集まらないと考え、現在ではトームで情報収集を行っている。

しかし今のところ目ぼしい情報は集まっていないそうだ。

サイラスとはボレアス領地の探索で迷っていた時に助けてもらい、その時に犬斗の話を親身になって聞いてくれた事から交流が生まれた。

話を聞いたサイラスは情報集めに協力を申し出てくれたらしく、恩に感じた犬斗は代わりに獣人の保護をしていたサイラスの手伝いをしている。

また元々動物好きで獣人に対しても差別意識を持っていない犬斗は恩返しとしてだけでなく獣人の助けになればと自主的に行っていることでもあると犬斗は誇らしげに語っていた。

大地は犬斗の了承を得て、犬斗の情報を観させてもらう。

名前 辛島犬斗
種族 人間
年齢 21歳
能力値
腕力B 体力B 敏捷性A 魔力B
保持スキル
「トレーナー」「ブリーダー」「トランスフォーム」

スキル名 トレーナー
動物(人を除く)を服従させる事で使役することが出来るスキル
使役した動物の能力値は使役者の魔力値に応じて上昇する。
使役者は使役した動物との感覚共有ができ、魔力注入により回復も可能。

スキル名 ブリーダー
使役した動物の使役している期間に応じてその能力値を向上させるスキル。
能力値の向上は動物の個体値によって変化する。

スキル名 トランスフォーム
使役した動物と同化することが出来るスキル。
同化する事で能力値の向上とその個体が持っている特性の使用が可能になる。
同化中は能力値の向上量に応じて、常時魔力が消費される。


「トランスフォームってのは何だ?」

「それは簡単に言えば従魔の能力を自分に取り入れるスキルですね。例えば大地さんがフルボッコにした白虎を取り入れれば雷を放つことも出来ますし、朱雀を取り入れれば空も飛べます。けど一つだけ難点があって多量の魔力を消費するんですよ。ここぞという時しか使えません」

「それチートじゃね?」

「いやいや! 無から有を生み出す大地さんこそチートじゃないですか!」

「でも俺空は飛べないぞ? 俺の能力は記憶にあるか知識をもっていないと再現出来ないからな。空を飛んだ記憶もないし、人間が空を飛ぶ原理も知らんから、空は飛べん。意外と制約のある能力なんだよ」

「それでも十分チートだと思うんですけどね。」

その後大地は犬斗に他の能力についても教えた。

全部聞いた犬斗はボソッとやっぱりチートじゃないかと呟いていたが、大地は聞かなかったフリをする。

お互いに知っている情報を交換をしたところで日を跨いでしまっている事に気付いた二人は軽く挨拶を交わすとそれぞれの部屋へと戻っていった。

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