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夏月太陽

39.夏祭り 2


 四人で回ることなった後、佐倉さんが僕と幸也を比較したからか、幸也に金魚すくいで勝負しないかと、決闘を申し込まれた。

 恐らく、佐倉さんに僕より凄いところがあるところを見せたいんだろう。

 佐倉さんもそう思ったのか「そんなことしなくていいのに……」と呟いていた。

 僕が了承すると、早速僕達は金魚すくいの屋台に向かい、お金を払ってポイとお椀を受け取ると勝負を始めた。

 結果から言うと、僕の圧勝だった。

 僕が掬った金魚の数が、15匹。幸也が掬った金魚の数が、3匹。と、5倍も差があった。

 因みに、経緯はというと……

 ――対決前――

「絶対に勝つからな!」
「お手柔らかにね」
「幸也くん頑張って!」
「龍さん、ファイトです!」

 ――対決中――

「うわっ、もう破れた!?」
「幸也くん、3匹しか掬えてないじゃん!」
「凄いです、龍さん! もう10匹です!」
「まだいける」

 ――対決後――

「嘘だろ!? 15匹かよ!?」
「猿渡くんって、金魚すくい上手いんだね!」
「んー、もう少しいけた気がするんだけどなぁ……」
「充分凄いですよ!」

 と、こんな感じだった。

 幸也のポイは、金魚を掬う時ポイを金魚だけを掬うようにサッと入れるところを、水に浸ける時間が長かったが為にすぐに破れたんだけど、それでよく3匹も掬えたなと思う。

 余程紙質が良かったんだろう。でなければ、普通の紙だったなら一発で破れてしまっていた筈だから。

 ともかく、この勝負は僕の勝ちになった。

 これで終わりかと思いきやそうは問屋が卸さないとばかりに、「次は輪投げで勝負だ!」と言ってきたので、次は輪投げの屋台へ向かった。

 輪投げの屋台にて第二戦が始まった。

 輪投げは、6つの輪を1メートル離れた6本ある棒に入れ、6本の棒それぞれのしたにある5点,10点,15点,20点,25点,30点があり、10点以上で賞品が貰える。

 店主さんによると、この輪投げの屋台は子ども向けであるため、10点以上にしてあるとのこと。

 因みに、賞品はお菓子袋だ。確かに子ども向けだ。中身はどれも美味しそうなお菓子ばかり入ってる。

 屋台の説明を聞き終えると、5ヵ所ある投げる場所にお互いの気を逸らさないため端と端で投げることになったので、6つの輪を持ち右の端へ立った。

 幸也は左の端だ。なぜか真ん中3つが空いているにも関わらず、子ども達は僕らの勝負の行方を見守るためなのか、やろうとはせず、ただただ見ているだけだ。

 これも結果から言うと、僕の圧勝だった。

 圧勝と言っても、幸也が全て外したとかいう訳ではなく、純粋に点数の差で圧勝した。

 ――対決前――

「今度こそ勝つッ!!」
「そんなに意地にならなくてもいいのに……」
「久し振りにやるから、勘が鈍ってなきゃいいけど」
「龍さん、ファイトです!」

 ――対決中――

「確実に入れられる、手前側の5点,10点,15点に入れれば、さすがに勝てるだろ」
「そうだね。たぶんいけると思う」
「勘、そこまで鈍ってなかったから全部30点に入れれそう」
「もう既に、2つ入ってますもんね」

 ――対決後――

「なんでだ……なんで龍は全部30点に入ってんだよ……!」
「凄いとしか言いようがないよ」
「絶妙な力加減と集中力とコントロールのお陰ですね。なんでそれで射的ができないんでしょうね?」
「ははは……なんでだろうね……?」

 桃香の問いに苦笑いしながらそう答えた。

 だって、本当にわからないんだもん。なんで射的ができないのか。

 ちゃんと構えてなんなら結構近づけて撃ってるのに、あらぬ方向へ飛んでくんだよ? もう、なんかね、一種の呪いなんじゃないかと……若しくは、剣道の才を与えたから、銃関係の才は与えないという神の啓示なんじゃないかと……。

 内心でそんなことを思っていると、幸也が「次だ次ッ!!」と言ってズカズカと歩いていった。

 向かった先は、射的の屋台だった。

 なっ、ナニィ!? 人の弱味に漬け込むというのか!? ……べつに、弱味ではないけど。

 でも、人としてどうかと思う。汚いよ、やり方が。

「フハハハハッ、さっき聞いたことから推察するに、お前が射的が苦手なようだからな! これで勝つるッ!!」

 ドヤ顔をしながら不適な笑みを浮かべてそう言ってくる幸也。

 本当汚いよ……。そのセリフが、クズさを強調してるよ……。

 そして始まった、結果がわかった勝負。

 ところがどっこい。ミラクルが起きた。輪投げの時と同じように、一応距離を離して射的をすることになったのだが、なんと、僕のノーコン射撃によって尽く幸也の撃った弾が弾かれたのだ。

「おい、龍! 狙ってやってんのか!?」
「僕が狙ってるのは目の前のあの賞品なんだけど?」
「それでなんで俺の撃った弾がお前の撃った弾に弾かれるんだよ!?」
「……ノーコンだから?」
「弾を撃つのにノーコンがあるか!! あるとしたら、ちょっとした誤差程度だ!」

 思いっきり怒られた……。そんなことを言われても、そのくらい弾が思いもよらないところへ飛んでくんだから、仕方ないじゃないか。

 それに、現に真っ直ぐ撃った筈の弾が幸也の方へ飛んでってるのが、何よりの証拠だし……。

 結局、この勝負は引き分けとなった。

 幸也が「次だ次ッ!!」と言って再びズカズカと歩いて行きそうになったのを止めた。なぜなら、もうすぐ花火が始まる時間からだ。

 勝負の方は、僕の2勝で幸也の佐倉さんへの『僕より凄いところあるんだぞアピール作戦』は失敗してしまい、幸也は落ち込んだ。

 佐倉さんは、そんな幸也を「猿渡くんが凄いだけだよ。幸也くんのそういう負けず嫌いなところも好きだよ」と言って慰めていた。

 それから僕達はそれぞれで花火を見ようということになり、ここで幸也達とは別れた。

「じゃあ、花火見に行こうか」
「はい!」

 花火は、祭りが催されている場所の近くにある川原で行われた。

 さすがに川原の坂にはたくさんの人が座っていて座れない感じだったので、その人達の後ろで立って見ることにした。

 花火が始まり、自分達の声が花火の音で掻き消されるようになると、桃香が話し掛けてきた。

「龍さん、今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「結局、デートと言えるのか微妙な感じになっちゃったけどね……」
「でも、龍さんの意外な一面を知れたのでよかったです」
「そ、そうだね……」

 それを言われると、なんも言えない……。それ絶対、射的のことだもん。

「龍さん」
「ん?」
「大好きです」
「あ、ありがとう……」

 ビックリした……急に眩しいくらいの笑顔でそんなことを言われたから、ドキッとした……。

 たぶん、今の僕の顔は赤くなっていることだろう。

「龍さんは、私のことどう思いますか?」
「どうって……可愛いと思うし、好きか嫌いじゃないかで言ったら好きだし、彼女になってくれて嬉しいと思ってるよ」
「そこはハッキリ、好きだって言ってほしいです」
「……好きだよ」
「ありがとうございます!」

 またしても弾けんばかりの笑顔をする桃香。

 そして次の瞬間、桃香が爆弾を投下した。

「龍さん……キス、しませんか?」
「……えっ?」
「ダメ……ですか?」
「……それで桃香が喜ぶなら」

 僕が了承すると、満面の笑みで嬉しそうな顔をした桃香が一つ間を空けてから目を瞑って顎を上げてきた。

 ここで尻込みしても仕方ないので、僕は自分の唇を桃香の唇に当てた。

 結構前にゲーム内でした時と違って、唇の感触が思ってたよりも柔らかかった。

 キスを終えると、僕も桃香もなんとなく気恥ずかしくてオドオドしてしまった。

 でも、桃香がボソッとこう言った。

「これからも、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 そのお陰か、僕がそう返すと、さっきのオドオドした感じはなくなり、お互い微笑み合った。

 その後、花火を見終えた僕と桃香は、夜道を二人で歩いて帰宅の途に着いた。


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