VRMMO生活は思ってたよりもおもしろい
29.夏の夜の定番
勉強会のようなものが終わると、それぞれに割り当てた部屋に行き就寝……するかと思いきや、ベッドに横になり寝ようとしていたところへ全員パジャマ姿で僕の部屋に来た。
「四人とも、なにしに来たの?」
「夏なので、怪談話でもしようかなと思いまして!」
「そうそう! やっぱ、夏と言ったら怪談だよな!」
「そうね、夏と言えば怪談よね?」
何故か輝美が桃香にそう聞くので、僕も桃香の方を見てみると、桃香の顔が蒼白になっていて一目でわかるくらいガクガクブルブルしていた。
「そ、そそそ、そうだね……。か、怪談、お、おも、おもしろい、もんね……」
目を右へ左へまた色々な方向へと泳がせながら輝美の問いに答える桃香。
「桃香、大丈夫? 隣来る?」
僕がそう言った途端、桃香の表情が、まるで、救世主でも現れたかのような感じのものになった。
「り、龍さん……さすがの優しさです……!」
「まぁ、一応、彼氏だから……」
「一応じゃないです! 正真正銘、私の彼氏です! ……ハッ!? もしかして、私の彼氏だという自信が無いんですか?」
僕の言葉に上目遣いでそんなことを返してくる桃香。
「だって、物凄く可愛い顔の桃香に対して僕なんか、桃香が告白してこなかったらずっとそのまま一生が過ぎるぐらいの顔だよ? そんな僕に桃香みたいな可愛い子が告白してきたのは、今でも夢みたいに思ってるぐらいだから、自信は無いと言えば無いよ」
僕が正直にそう答えると、桃香は目尻に涙を溜めながらこう言った。
「私が龍さんを好きになったのは見た目じゃなくて……いや、あの、見た目もタイプですけど……龍さんの優しいところとか、強いところとかに惹かれたんです! 吊り合う吊り合わないは考えないでください!」
所々恥ずかしがりながらそう言い切った桃香に気圧された僕は、直ぐ様謝った。
「ご、ごめん……」
「良いんです。その代わり、今後一切そういうことを思うのは禁止ですからね!」
「あ、はい……」
「あの~、そろそろ良いですか?」
桃香とのやり取りが一段落つくと、速人が恐る恐るそう聞いてきた。
そうだ、怪談話するっていってたんだった。
「ごめん、速人。怪談話だったよね。誰から話すの?」
「それなら、僕からで良いですか?」
「いいよ」
「いいと思う」
「いいんじゃないかしら」
「ど、どどど、どうぞ……」
こうして速人が最初に話すことになった。全員が床に円になるように座ると、速人は話し始めた。
◇◆◇◆◇
これは、実際に知り合いのAさんが体験した時の話です。
Aさんは、ケチな人で住むところはなるべく安く、食材も服も靴もあらゆる物を買うときには安く済むようにする人でした。
家を買うときも、その癖のようなものが出て、曰く付きの家を購入しました。
その曰くとは、前に住んでいた女性が首吊り自殺をしたというものでした。
Aさんはそれを聞いても、安く済むので問題ないと思い、その家を購入しました。
Aさんがその家に住み始めた初日の夜、Aさんが寝室で寝ていると、どこからか微かに女性の声が聞こえてきました。
『……ナイ………サナイ』
その声は、怒気に満ちたものでした。でも、微かにしか聞こえなかったので、Aさんは気にせず眠りにつきました。
次の日の夜も、その声が聞こえてきました。しかも、昨日よりも少し鮮明に。
『…サナイ……ルサナイ』
しかし、Aさんは気にせずまた眠りにつきました。
その次の日の夜も、その声が聞こえてきました。さらに鮮明になって。
『…ルサナイ……ユルサナイ』
『ユルサナイ』確かにそう聞こえてきました。Aさんはそれでも気にせずに眠りにつきました。
その次の日の夜、それは起こりました。
女性の声が物凄く近くで聞こえたのです。
『ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ』
Aさんはさすがに気になり、目をうっすらと開けると、そこには目や口から血を垂らした長い黒髪の痩せ細った女性が居ました。
Aさんは勇気を振り絞って、「何をそんなに怒っているんだ?」と聞いてみました。すると、女性は何を答えるでもなくAさんの首を両手で絞めてきました。
Aさんは、とても焦りました。どうにか脱出出来ないものかと足掻きました。Aさんが足掻いている間も女性は『ユルサナイ』を言い続け、Aさんの首を絞め続けました。
だんだんと意識が遠退いていき、とうとう意識を失うと思っていると、次の瞬間目が覚めました。
Aさんはなんだ夢だったのかと思い、洗面所で鏡を見た途端青ざめました。
なんと、手形が首に残っていたのです。
寝ている間に自分で付けたのかと思うも、それは間違いであると気づきました。
何故なら、他人が絞めなければ付かないような跡の付き方だったからです。
夢では無かったと思った途端にAさんはこの家に居るのは危険だと思い、その家を売却し普通の家を購入しました。
◇◆◇◆◇
「どうでしたか?」
「それ、本当にあったのか?」
「本当ですよ。僕実際にAさんの首にある跡見ましたもん」
「怖いのは怖いけれど、なんでその女性がそんなことになったのかが全くわからないわね」
「そりゃその女性がなんで首吊り自殺したのかは知らないですし、詳しく知る必要無いですから」
確かに遺族でもないのにその人の死ぬに至った理由を聞くのはどうかと思うし、今の話は今の話でそれなりに怖かったと思う。
まぁ、僕は途中から物凄くビビり始めた桃香を安心させるのに必死で内容があまり入ってきてなかったけど……。
そう思っていたところに、速人が問い掛けてきた。
「龍さんはどうでした? 桃香さんを安心させるのに必死になってましたけど」
「えっ、あぁ、怖いとは思ったよ。それよりも、桃香が怖がりすぎててそっちの方が怖かったけど」
「なっ!? なんでそんなこと言うんですか! 龍さんの意地悪!」
ポカポカと涙目で僕の肩を叩く桃香。そんな桃香を見て苦笑する僕を含めた四人。
その後は、順々に知っている怪談話を披露し、終わるとそれぞれの部屋に戻っていった。
「さて、寝るか」
僕がそう呟いてベッドに横になり寝ようとすると、コンコンとドアをノックする音がした。そして、入ってきたのは桃香だった。
「どうした?」
「ひ、一人じゃ、怖くて寝れないので、一緒に寝てもらえませんか?」
懇願するようにそう言ってくる桃香。いや、アウトでしょ!? 方や高校生、方や中学生の男女が一緒に寝るなんて!
「今日だけです。今日だけでいいんです。一緒に寝てもらえませんか?」
「いや、でも……」
「あ、もしかして龍さん、私を襲いたいんですか? 今日は排卵の日なので、バッチ来いです!」
「なに言っちゃってんの!? 襲わないよ!? というか、排卵の日とか言わない! それで僕が襲ったとしたら、高確率で子どもできるじゃん!」
「私としてはできても良いんですけど……。龍さんの血を継ぐんですから、絶対に良い子が産まれるに決まってます!」
どうしよう、桃香が怖さのせいで壊れてしまった……と思いたい! でも、桃香の顔が本気なものなんだよね……。
「ま、まぁ、それはともかく、一緒に寝てあげるからさっさと寝よう」
「あ、龍さん照れてるんですか? 可愛いですね。寝てる間、いつでも襲って良いですからね?」
「照れてないし、襲わないから!?」
そんなやり取りの後、ベッドに二人で横になった。
近い。物凄く近い。僕が右側で桃香が左側で、僕は桃香に背を向けて横になってるんだけど、抱きつかれて桃香のアレが当たっている上に鼻息が当たるくらい近い。
「ふふふ、龍さんの匂い。良い匂いです。とても落ち着きます」
あれ? 桃香ってこんな子だったっけ? もっとこう落ち着いた感じの子だったと思うけど……。
まさか、これが桃香の本性ということなのか……?
「というか、さすがに近くない?」
「良いんですよ、こうしないと私が安心して寝れないんですから」
ならしょうがない。このまま寝ることにしよう。そう思った僕は眠りについた。
まぁ、その後お約束のように桃香に起こされてトイレに付いて行かされてあまり眠れなかったけど……。
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