始創終焉神の俺、異世界を満喫する!

メコルデグス

異世界勇者と異世界魔王 4 最強達の挑戦

今どこにいるか分からないペトラを探すためフロンティアに無属性魔法「サーチ」を使用して貰ったのだが、困ったことになっていた。一度集合したゼータ達も腕を組んで困惑の表情をしている。別に「サーチ」で見つからなかった訳ではない。フロンティアの魔法は、同じ魔法を普通の魔法師と使用してもレベルが違いすぎるくらいだ。
まずこの世界の魔法のランクは下から下級 中級 上級 超級 神級の5つに分けられる。それを踏まえて、例えば普通の魔法師が炎の下位魔法「ファイア」を使用しても、フロンティアの「ファイア」は炎の超位魔法「インフェルノ」と変わらない威力を誇るのだ。よって、フロンティアの本気の「サーチ」なら見つからない場所など存在せず、それ以外の理由で一同は困惑しているのだ。
では「その理由とは?」という疑問についてだが、一同が困惑する理由とはペトラの居場所が、紅騎と蒼魔が敵の大将が居るであろうと言っていた洞窟の中なのだ。しかもペトラの反応は全く動かず、死んでしまったのかと焦りフロンティアに聞いてみると、

「いや、心臓の音は正常だぜ。生きてるぞ。」

と返してきた。フロンティアはペトラの居場所に座標を合わせ、そこへピンポイントで無属性魔法「ワィアター」を発動しペトラの心音を盗聴したのだ。
一先ず息が有ることに一息着いた俺だったがここで疑問が生まれた。

「(なら何故ペトラは洞窟から出ないんだ?意識が無いとしたら生物に過敏に反応する天魔達が手を出さないのはおかしいし、意識があるとしたら何故動かないんだ?)」

召喚された天魔達は目に映った命を全て刈り取るはずのため、もしペトラの意識が無いなら命は無いはず。意識があり天魔と交戦中ならマップ上のペトラの反応が動くはずだ。いくら考えようと答えが分かるはずがなく、ペトラのいる天魔の本拠地へ乗り込むべきか悩んでいるのだ。そこで俺は踏ん切りをつけ、乗り込むことを提案した。 

「考えていても埒があかない。このメンバーなら勝てるはずだ!確かに天魔はとても強かったが俺らならいけるさ!」

何の根拠も理屈も無い俺の仲間を信じているだけという精神論だったが、次々に賛成の言葉を答えてくれた。

「もちろん竜鬼に賛成だ。まず動かなければどうしようも無いからな。」

「我が思考は主様と共に。主様の行く後に私は付き従うまでですから。」

「頭領の、ためにも、やる。俺の、部下だから、俺が、やんなきゃ。」

「難しく考えんのなんて面倒だ。お頭についていきやすぜ。」

「勿論竜鬼さんについていきますよ。私は竜鬼さんと共にある矛ですから。」

「竜鬼の邪魔する奴等は俺が剣の錆にしてやるよ。お前の盾としてな。」

「俺だってペトラ殿を助けにいくぜ。友好国を攻めた罪は償って貰わないとな。」

「同じくだ。アースガルドに攻めいれた憎き天魔共に恨みは晴らさせて貰おう。」

それぞれが思いと覚悟を胸に俺達は天魔の大将が待ち構える洞窟へと向かった。
洞窟の前には門番のように数十体の天魔が見張りをしていた。近くの茂みに身を隠している俺達はアルバロスに究極天魔専用禁術「這イ寄ル影ノ暗殺者(クロウル シャドウ アサシン)」でお互いが見えなくなったのを確認して侵入することにした。天魔は紅騎と蒼魔が二人がかりで相手にしても退けを取らない相手だ。力を封印してしまったゼータ達と、精神力の殆どを磨り減らした今の俺では、正面突破は得策ではないと考えた俺はこの作戦を思い付いた。
まず俺達が洞窟内に入ったのを合図として、同じ天魔(究極種だけど)であるアルバロスが天魔と意志疎通が出来るか確認し、出来た場合は「外に敵が現れた」と嘘の情報を流し天魔の何体かを戦闘から外した所でフロンティアの神級光魔法「ルータワーシールド」を発動し戦力を分散したところで短期決着に持ち込む。意志疎通が不可能と確定した場合は速やかにゼータとサーガの融合専用魔法「龍神之魂搏(りゅうじんのこんばく)」による威圧で天魔の魂そのものを縛り動けない所をアルバロスの専用魔法「影槍 ロストブラッド」により心臓をピンポイントで貫き大将と決着をつける。
どちらに転んでも対応出来るように出来る限りの戦略を立てた俺は、温存しておいたゼータの腕章を外した。すると俺の髪は腰まで伸び煌びやかな純白色に変わり、瞳孔は金色に変わり背中からは黄金のオーラが溢れ出てきた。手にはゼータの神剣の中でも特に美しく恐ろしい、朱の脈動が白の刀身を妖しい黒い光で見るものを狂わせる「堕ちた神聖剣 ベリアル デュランダル」が握られている。
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名称 ベリアルデュランダル

ランク 神王    分類 神聖剣(堕)

説明 見た者を狂わせる。耐性を持つ者でも自身の支配下に置くことが出来る。
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各々が準備を終えたのを確認すると白亜煉獄の鎧を身に付けたアルバロスが天魔の前に現れた。

「強い、敵、襲われたッ。増援、頼む!!」

顔を見合わせ困惑する古株の天魔や慌てふためく若い天魔がいる中、妙に演技が上手いアルバロスの前に歩みでたのは他の天魔より背丈が幾分高く、手に持つ剣から邪禍の覇気を放つリーダー格であろう黒騎士だった。黒騎士は意外にも優しい声音でアルバロスを心配するように声をかけた。

「良く、知らせてくれた。今すぐ、増援、送る。敵、どこに、いるんだ?」

「(やっぱり天魔は全員この喋り方なのか!?)」

黒騎士の命令により洞窟内から数千を越える天魔がアルバロスと黒騎士を先頭に襲われたとされる嘘の目的地に向かった。しかし、目的地に在るのは敵ではなくサーガが召喚した中位種の竜であるリンドブルムが8体、そして超位龍である紅騎のテンハクヨウと蒼魔のジゴクロウスを含め合計10体の竜が待ち構えている。
リンドブルムは長く尖ったワニのような鋭い口と牙、鷲の前脚とライオンの後脚を持ち、背中のコウモリのような翼で空を制する「流星」の名を冠するサーガ直々の手下だ。しかし、サーガの部隊で一番格下の彼等は他の上位龍に比べ悪性が高い竜なので「敵に対する容赦の無さ」が悪い意味で有名であった。龍は幻獣の頂点に君臨する者として気高く高貴で気性が穏やかでなければならないとされていた。しかし、竜の育成学校で必ず生まれてしまう邪竜の血を引き継ぐ「竜」と聖龍の血を引き継ぐ「龍」との格差により、リンドブルム等の狂暴で知性に乏しい竜が存在するのだ。
テンハクヨウとジゴクロウスの監視の目と龍圧によりリンドブルムは命令を守るが基本的には破壊を求む傾向があるため天魔を引き留める間はリンドブルムに街が壊されないかの心配も残るところだが、そのためにもアルバロスの他にサーガも竜の制御にあたっている。サーガは龍の究極種であるが元は星龍という最強の龍を数多く輩出する名門でありサーガはそこの御曹司なのだ。昔から自分より下の龍や更に下の竜を操るカリスマ性を求められてきたサーガにとっては究極種となったその時から、支配出来ない龍は殆ど居なくなった。あの二人なら易々と死ぬことは無いと信じ、俺達はめっきり天魔がいなくなり、静まり返った洞窟内に足を踏み入れた。
全員が入ったのを確認するとアルバロスから一定距離離れてしまったのか、ギリギリの所で魔法が切れてしまい感覚が鋭敏な古参と思われる天魔が突如として外を覆い尽くした。彼等は俺等を見つけるや否や、直ぐ様手にしているトライデントの切っ先をこちらに向け、まるで弾丸かの様な猛スピードで突っ込んで来た。しかし彼等の穂先は俺達を貫くことも成せず、急に現れた光の壁に阻まれてしまった。言わずもがなこれはフロンティアの
神級光魔法「ルータワーシールド」であり物理、魔法全ての神級魔法や攻撃までを通さない魔壁だ。フロンティアは天魔が現れるのを直前に察知し洞窟の入口を塞ぐ形で魔法を起動させていたのだ。
阻まれたトライデントの穂先を洞窟の外にいるフロンティアに向けたかと思うと、再度フロンティアに向かって一直線で突っ込んで来た。しかし今度は、トライデントが中からスッパリと切り落とされてしまった。見ると天魔とフロンティアの間を割って裂くかのように現れた、神剣を横薙ぎに一線したゼータの姿があった。自身の獲物が音沙汰もなく一瞬にして破壊されたことに理解が追い付かず首を傾げる天魔に隙を与えず、ゼータは天魔の首を閃光の如く一線し、フロンティアの重力魔法が天魔を空から引きずり落とす。やがて狙いを俺達からゼータ達へと変えた天魔はトライデントを投擲してきた。剣士のゼータはともかく、魔法師のフロンティアでさえ穂先を華麗にかわす。天魔はその一瞬の隙を見逃さずに背中から抜き放った大剣でフロンティア達へと袈裟斬りを放つ。フロンティアは手にしてある杖兼ハルバードで勢い余る覇気を孕んだ怒声と共に天魔を大剣ごと真っ二つにした。ゼータは天魔の大剣を振るうときに生まれる数センチの隙に寸分の狂いもなく自身の神剣をレイピアのように鋭い形へと変化させ天魔の心臓を貫いた。
ゼータの持つ剣の名は「変身する破滅の魔剣(ブライリー ティルウィング)」と呼ばれ「使用者の望む形へと姿を変える魔剣。しかし使用者の力量が足りない場合は使用者を破滅へと誘う。」という効果を持つ。つまり使用者の想像力が足りない場合=死を意味するハイリスクハイリターンの武器なのだ。しかしゼータは様々な時代と世界で多種多様な武器を見て、振るってきた。だからこそゼータは破滅を恐れない勇気と記憶力を誇る誠の神なのだ。
一方フロンティアが扱う杖はただの杖でなくハルバードとしても絶大な効果を有する。その名を「仮初めの純黒のハルバード(トランシエント ナイトメア)」と言う。これは魔法を扱うために体を鍛えたフロンティアがただの杖を使用した際に、破壊してしまったのをきっかけに、中級神の鍛冶神と魔法神、守壁神が共同で開発した杖なのだ。その強度は折り紙つきで「どんな物質でも砕けない 不壊なる金剛石(イモータリティ アダマンタイト)を使用している。」と話していた。そうしてフロンティアの魔力に耐えられる杖は、魔法を使わずともフロンティアの腕力だけで圧倒的破壊力を持つハルバードになったわけだ。
二人が天魔を相手している内に、俺達は洞窟の奥深くへと入っていった。途中何体か天魔と遭遇したが、俺の神剣で天魔を狂い殺し、耐性のある天魔は紅騎、蒼魔の聖剣、魔剣により何とか殺し、奥に進むことが出来た。しかし、もしも全ての天魔と戦わなければならなかった時のことを考えると全滅する結果しか思い付かなかった。皆への感謝を心の中で呟きながら最奥まで進むと突如周りの空気が一変し辺り一面の魔素濃度が濃くなった気がした。

「(ここまで来る途中にペトラの姿は無かったからこの先にペトラと天魔の大将がいるはずだ。)」

生唾をゴクリと飲み込み、深い深呼吸をすると俺は後ろの二人に視線を向けた。紅騎も蒼魔も額には脂汗が滲んでおり息を荒らげている。しかしその瞳にはハッキリとした決意が込められており「覚悟は出来ている」と物語っていた。息を整え飛び込もうとした直前、急に聞き覚えのある笑い声が洞窟内に響き渡った。

「フゥハッハッハッハッハッ!!素晴らしい、いや実に素晴らしい!融合した天魔の前には人間はゴミけら以下だ!そう思わないかね、シャルドネ?」

「しかし、ラノールよ。アースガルド自然国やレザリウス光国の冒険者はともかく、この辺りを飛び交う勇者と魔王、それに謎の7名の対処はどうするつもりですかな?」

聞き間違う筈など無い。今回の騒動の原因である天魔召喚のリーダー格であり、紅騎と蒼魔のそれぞれの信頼を置いていた家臣であるラノールとシャルドネだった。壁からバレないように覗くとラノールとシャルドネの前には95インチ程の液晶パネルが浮かんでいた。そこに写し出されているのは、天魔に蹂躙される冒険者達の姿だった。逃げ惑う者は背中から串刺しにされ、真っ向から戦う勇敢な者も数の暴力で殺される。俺の後ろにいる紅騎と蒼魔はワナワナと怒りを必死に抑えていたがその目にはかつての信頼していた部下に対する憎悪と悲哀がこもっていた。

「折角勇者と魔王のどちらかが満身創痍の所を隷属させようとしていたというのに、冒険者組合長であり、今尚更なる力のために努力するペトラ如きのせいで作戦がぶち壊しだ!」

「伝説の勇者、魔王の力を持ってこの世界を我等の手中に納めたかったのだが多少キズが付いてしまうなぁ?まぁしかしこれであのバカな勇者と魔王は必要無いと言うわけさ。」

「フゥハッハッハッハッハッ!」と二人で顔を見合わせ笑うラノールとシャルドネは最初から紅騎と蒼魔を駒としか思っておらず何の情も抱いていなかった。それが相当胸に刺さったのか、二人の瞳がすこし滲んでいた。二人が転移した頃から常に知識や武術を教え、兄のように慕っていたラノールとシャルドネの目や心には彼等に対する感情は一切あらず、二人に見せた笑顔は形ばかりであり本当は道具としか思っていなかったのだ。それが堪らなく悲しいことなのは俺にも分かる。
俺も最強で最古の神になる前はそうだったから,,,
更に二人に畳み掛けるかの様にラノールとシャルドネから今明かされる驚愕の真実が告げられた。

「あの二人は傑作だったな。奴等の仲間を私達が[意図的に]殺したとは知らずにね。お互いへの友情を揺らがせ奴等の全てを奪った後に最強へと至ったのだから,,,。正に私達が首を絞めようとしたら自ら首を差し出したバカのようだったからな。」

「最終決戦のために歩を進めた途中に紅騎と蒼魔から仲間を引き剥がし私達が殺す。あの時、最後に二人の想い人を殺した時の言葉を覚えているか?「二人の心を弄ばないでッ!」「二人の全てを奪って何が楽しいのッ?!」だったかな?今の二人に聞かせたらどんな絶望した顔を見せてくれるかねぇ?」

「プツッ」と何かが切れる音が鳴った気がした。俺は嫌な予感がして振り向くと二人はいなかった。あちこちを探して最後にラノールとシャルドネの方を見やると二人の前に、頬を濡らし、目に殺意の炎を燃え滾らせ、手にいつもの原型から大きく反れた鋭く凶悪な歪な形へと変貌を遂げたレーヴァテインとグラムを携えた紅騎と蒼魔の姿があった。意外にも二人の姿を前にしても驚きの表情一つ見せない余裕を持ったラノールとシャルドネは静かに蔑むような口調でしっかりと告げた。

「良くここまで来たね?まずはおめでとうかなぁ?力に溺れた勇者様と魔王様?」

「しかし今さら何をしに来たのだね?まさか「何かを守るため」等とは言わないだろうねぇ?今更君達が何を守ろうと過去は変わらないのだよ?」

二人の言葉に紅騎と蒼魔は何も言わずただ邪悪な剣を一振りした。その衝撃波は凄まじく、洞窟内部を破壊した。今のゼータの力を開放した俺でも到底手に負えない強さであろう二人の攻撃を受けたラノールとシャルドネは言わずもがな、洞窟でさえも跡形も無く消え去っていそうな攻撃を受け砂埃が晴れた頃には、傷一つ付いていない洞窟内部と紅騎、蒼魔の背後で銃弾程度の魔弾を構える、これまた傷一つ負っていないラノールとシャルドネの姿があった。

「紅騎ィ~。怒りに任せて我を忘れるなと何度も言っただろぉ~?」

「蒼魔?戦いの最中に私情を挟むとは何事だ?」

「うるさいッ!お前達が、お前達が堅斗達を、亜由美を殺したのかァァァァァ!!?」

「貴様等がッ!仁や、紗輝を手に掛けた黒幕だと言うのかァァァァァ!!?」

「「うるさいぞ、負け犬。」」

二人の全ての憎悪が、悲しみが込められた言葉は「うるさい」の一言で乱暴に片付けられた。二人の目にはすっかり光が灯っておらず、もはや剣に体を乗っ取られたのかと言うくらい虚ろだった。
魔剣や聖剣などの特殊な剣には意思が宿っており、宿主の力量や器量を見計らってその力を貸し与える。主を見限った剣は宿主の体を奪い、その生命エネルギーの全てを消費させ主の最後の願いを叶える。今の二人は剣を振り回しているのでなく、剣に振り回されている。二人の願いはきっと「自分の大切な人を奪ったコイツらを殺したいッ!」以外には無いだろう。
より一層、剣に邪気を纏わせ更に力を高めている紅騎と蒼魔を前にしても、未だに焦る気配を見せる所か笑みを溢すラノールとシャルドネ。まるで[絶対に死なない自身]が、ある、かのよ、う、、に、?

「(先の紅騎と蒼魔の攻撃はあの一瞬で躱わすのはほぼ不可能,,,それに魔弾を形成していながら打たないだと?,,,まさかッ?!ここにいるラノールとシャルドネは[思念体]という可能性があるのか?!)」

俺はラノールとシャルドネの背後に飛び出し、疑惑を晴らすべく当たったら色が付くペイント弾をスペース ストレージから投げつけた。思惑通り宙を舞ったペイント弾は不意打ちに対応出来ず動けなかったラノールとシャルドネの腹をすり抜け地面を赤く染めた。それが分かった今俺がすべき事は紅騎と蒼魔の理性を取り戻させることだ。しかし、俺の頭の中に次々と不安要素が出てきた。

「(ただ声を出すだけでは虚ろ目の二人を止めることは出来ないッ!それに、俺が二人の心中を察する事は出来ても体感していないのだから適切な言葉をかけられない。なら二人をどうやって止めればッ,,,!一か八かやってみるしか無いか!?)」

俺は思い立った直後ラノールとシャルドネのホログラムのような物をすり抜け紅騎と蒼魔の前に飛び出すと、自身が最初から持つ俺の十八番の魔法「純白魔法」と「創造魔法」の即興で作り上げた融合魔法で二人を包み込み理性を創造すると、「暗黒魔法」と「破壊魔法」の融合魔法で二人の憎悪を鎮静し破壊しようとした。即興で作り上げた魔法は欠陥も多く有る上、もしかしたら二人に重大な後遺症が残るかもしれない。もし失敗した場合は俺が二人の斬撃をモロに受け、二人は生命エネルギーを使い果たして死ぬ。そんな危険な賭けだったがひとまず俺に斬撃が届くことは無かった。
二人の手に握られていたレーヴァテインとグラムは地面に落ち、紅騎と蒼魔も倒れた。二人からは邪気や憎悪が込められた負のオーラが消えていたが肝心なのはこの後に二人に後遺症が残らないかどうかだ。ラノールとシャルドネのホログラムは悔しそうな顔をしながら姿を消そうとした直前!ホログラムからうっすらとよく知る人物でもあり、ここに乗り込んだもう一つの理由であるペトラが映った。そこでは傷を負い、ダラダラと血を流しながらも先程の話に対する怒りをぶつけるペトラと突然動いたペトラに驚き魔法を発動させるラノールとシャルドネの姿が映っていた。

「くそッ!?何故動けるのだぁぁぁ!?」

「先程の話は聞かせて貰った!グフッ!お前等は僕が、許さ、無い!!」

「しょうがない!奥の手だ!!やれッ!,,,「プツッ」 」

三人は厳しい攻防を繰り返していたが俺の加護を受け、努力したペトラには勝てないだろうと思ったが切れる直前にラノールが呼び出した黒い影のせいでどうにも不安が拭えなかった。
ペトラとラノール、シャルドネの居場所を考察し、ここに居る筈の天魔の大将に警戒し、紅騎と蒼魔が目を覚ますのを待っていた俺は、ここに来る前に感じた天魔の大将と思われるオーラを察知した。俺は紅騎と蒼魔を取り囲む様にゼータの神剣を宙に浮かせ警戒状態にし、俺も腰からベリアル デュランダルを引き抜き大将が現れるのを待った。
すると突如目の前に煙が立ち込み魔素が急に濃くなり肌がピリピリしだした。

「(このレベルだと今の俺が使用するデュランダルでは特殊効果は期待出来ないな。)」 

あまりに力差が有りすぎるとベリアル デュランダルの特殊効果は無効化されてしまうため俺は神の力を剣から魔法へと注ぎ込んだ。
煙が晴れ中から現れたのは2対の翼を羽ばたかせ、白と黒を基調とした黄金の鎧に藍色の大剣を片手に持つ,,,小さいヒョロヒョロとした子供くらいの天魔だった。しかしその魔素濃度は濃く、目の前の天魔がいかに魔法の才能が高く、天魔の大将だと物語っていた。俺は先手必勝、一撃必殺と言わんばかりに最初から出し惜しみをせずに、奥義「狂イシ神ノ奈落(バーサク ゴッド タルタロス)」で目の前の天魔を奈落に堕とした所に気が狂いそうな悲鳴を浴びせ、闇のオーラを全開にしたデュランダルで体を無数に切り裂いた。
天魔は抵抗も何もせずにただ虚無の果てへと堕ちていき俺の斬撃をまともに食らっていた。

「(何か策が有るのか?気味が悪い。)」

俺は一旦天魔から離れ天魔が起き上がるのを待った。しかし待っても待っても天魔は一向に起き上がる気配が無く、俺は警戒を保ったままデュランダルの剣先で天魔の頭をペシペシ叩いてみた。しかし反応は無く、俺は思いきって天魔の鎧の隙間から覗く首に触れてみた。すると天魔の脈拍は既に無く絶命したかと思われた。俺は余りの事実に一気に力が抜けてしまい腕章開放が解けてしまった。俺は死んだと思われる目の前の天魔のステータスを見てみることにした。
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名前 天魔式武官(バール)      LV.167
 HP 10000/10000   SP 10億/10億
加護 (悪魔王イブリース)称号 能筋 破壊王 アウトロー  

 種族 天魔 職業 式武官 武王 破壊王

攻撃力 150億  
防御力 0 
俊敏性 0 
魔法耐性 0
攻撃耐性 0

使用可能魔法ー無し  

スキルー無し   
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「はっ?」
あまりにアンバランスな、いや脳筋なステータスに俺は驚くと共に恐怖を抱いた。目の前の子供にしか見えない天魔であるバールは一撃でケリが着く程の攻撃力や魔力を持っている一方、その圧倒的な魔力を行使する魔法を持っていない上に攻撃に必要な俊敏性が一切あらず、こちらの攻撃に対応出来る耐性はおろか防御力も皆無でありHPに至ってはLV.6程度しか無い。俺はこの天魔が称号通りアウトローで脳筋な事に心の底から感謝し、最悪な場合の事を想定し戦慄した。

「本当に不意打ちに逢わなくて良かったぁ。」

俺の心の声は無意識の内に震えていた気がした。バールの攻撃力を上手く使えばこの洞窟どころか国1つでさえ破壊が可能に思えた。そして俺はバールの天魔としての階級と役職、過去について思い返してみた。

「(バールと言えばソロモン王に仕えた1人の天魔だったな。しかしこの違和感は何だ?たしか天魔の中にいたバールには式武官ともう1つ、役職を与えていた気がするのだが?
,,,それに神界で天魔の名簿を見た頃にバール個人の名前は無かったはず,,,?)」 

久々に旧知の友人を思いだし、「今は何をしているだろう?」と頭に浮かんだが、それよりもバールに対する俺の違和感は解明できずモヤモヤしていると紅騎と蒼魔がゆっくりと起き上がった。

「うぅん?ハッ!俺達、は、何と、いうことを,,,」

「んん?クッ!まさか、我を忘れて、しまったの、か,,,」

俺は二人が意識を取り戻した事に深く安堵したが紅騎と蒼魔は自身が剣に呑み込まれ、感情のままに動いてしまった事を思い出したのか肩を落とし、次いで最愛の人と友人を奪ったラノールとシャルドネに対する深い悲しみに涙を流した。しかし突然、二人が頭を抱えて苦しみだした。

「ぐわぁぁぁぁッ!?」

「くぅぅぅぅッ!?」

「ま、まさか魔法の副作用か!?」

俺は急ぎ二人の痛みを和らげれるように、創造魔法で造っていた万能薬「エクストラ エリクサー」を二人に飲ませ、落ち着くまで介護し続けた。しばらくして幾分か楽になったのか、未だ肩で荒い息を落ち着かせようとする蒼魔がゆっくりと口を開いた。

「紗輝はな,,,私に魔王の在り方を教えてくれたんだ。魔王城で召喚された私達は基本的に1人でいるのが好きな者ばかりだった。その中で唯一私達に声をかけて回った者が紗輝だった。」

そこから蒼魔が話したのは紗輝は私達にとって希望だった、私が魔王としての在り方を見失った際に隣で支えてくれた、彼女も心に大きな影を抱えて苦しんでいたことを二人で分かち合ったこと等、いつの間にか一生を共にしたいと思っていた彼女に告白したら彼女は優しい照れたような微笑みで「,,,はい!」と言ってくれた事など彼女との思い出を吐き出した。紅騎も同様に亜由美は常に隣で見守ってくれた事等を語ってくれた。
そして勇者軍と魔王軍の最終決戦の日に事件は起きた。紅騎も蒼魔も相手との対談を望んでこの日に臨んでいた。しかし、対談は勇者軍団長である紅騎と魔王軍団長である蒼魔の二人で行うことになっていた為に他の転移者とは別れたのだった。敵陣もいるこの中で紅騎と蒼魔が仲間と別れられたのは彼等が負けるはず無いという信頼と、彼等を纏めるのが最も信頼し兄の様に慕っていたラノールとシャルドネだったからだ。しかしそこで全てが奪われた。対談の途中、互いの本拠地から巨大な爆発音とともに煙が立ち込めた。ラノールとシャルドネを急ぎ二人に「相手からの攻撃だ。地球人は皆殺された。」と告げられた二人は頭が真っ白になり視界が色褪せ、想い人のことが頭に浮かんだ。そして最愛の人が殺された事実を叩き付けられた二人は互いへの憎しみと共に相手の兵を鏖殺した。最終決戦の果て生き延びたのは紅騎と蒼魔、ラノールとシャルドネのみだった。紅騎と蒼魔は失った者達の命を背負い自身を更に鍛え上げた。そして決着を着けることでこの戦いでの全ての魂が浮かばれると考えたのだった。
そこまで話すと、二人は少し穏やかな顔で涙を拭きながら言った。

「話して楽になったよ。竜鬼、こんな話を聞いてくれてありがとう。」

「私達の暴走も止めてくれたこと本当に感謝する。ありがとう、竜鬼。」

「いや、ごめんな。俺には二人の話を聞くくらいの事しか出来なくて。結局俺の即興融合魔法は強烈な頭痛という副作用を引き起こしてしまったし,,,」

俺の魔法の副作用は数日間頭痛が続くという物だと判明した。最初にエクストラ エリクサーで症状を和らげる事に成功した為、少しは楽になったと二人は言ってくれたが本当は常に割れそうな程に頭が痛くて堪らないはずだ。俺は自身の力がちっぽけに感じて嫌気がさした。

「(何が究極魔神竜王だ!結局俺は万能な訳では無い、所詮力を失った俺に救える者は手の届く範囲しか無いのだ。この二人は強いな。俺なんかよりずっと、ずっと,,,)」

最愛の人や大切な友人を肉親の様に慕っていた家臣に奪われ尚も立ち上がれるその強さに俺は改めて心を射たれた。
 
「やはり、これが人間の強さなのかな?」

「「えっ?」」

いつの間にか声に出してしまっていたらしく俺の思った事を紅騎と蒼魔に聞き出されてしまい笑われてしまった。しかし再び俺は思った思った。「(こんな状況でもこうして笑えるなんてやはり人間は強い。これこそ俺が人間に抱いた光だ!)」と。

「ハハハハ!いや、悪い。最強の神でもそんなことに悩むもんなんだな。」
 
「フッフッフッフッ!神なのに随分と人間味の有ることだな。」

それから色々と話し込み落ちついた所でペトラの事について相談してみた。ペトラが二人のことを思ってラノールとシャルドネに挑んだこと、ラノールとシャルドネが居るが理性を保てるかと。二人は真剣な表向きで答えた。

「いつまでも竜鬼やペトラに助けられてばっかりじゃいられないからな。」

「もうラノールとシャルドネの好きにはさせんぞ。亡くなった皆のためにもな。」

二人の瞳には一筋の光が差し込んでおり俺達は、洞窟内の最奥からペトラ達が居るであろう隠し通路を進んでいった。

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