ひつじ、ひつじ。

ノベルバユーザー206812

親ひつじと親ひつじ。

「赤ちゃん…出来てる…」


夫とは長女を産んで以来、していない。


夫のことは嫌いではない。
だがしかし、あの燃えるような愛情は感じたことがなかった。
夫と結婚したのは、夫の父が半ば強引に話を進めたからだった。


夫の家は地元では知らない人がいないほどの大きな資産家の家で、私の両親はその話を聞くなり私の話を聞く耳も持たず縁談に応じた。


夫も私に一生懸命で、当時付き合っていた彼とは疎遠にならざるを得ず、だんだんと情が沸いてきて折れる形で結婚をした。


資産家一家の長男だった夫の妻になった私はすぐに跡取りを産むことを望まれ、長男と長女を産んだ。


家の外へ快く出してはもらえず、友達とも疎遠になり、私の本音は宙に浮いたまま、私の心は疲弊していった。


そんなある日だった。


「おはようございますー!」


玄関先から大きな声がした。


「あのー、会社の鍵開いてないんで鍵くださいー!」


会社に入ったばかりの若い男の子が立っていた。


「おはようございます。すぐお開けしますね。」


台所で朝食の準備をしていた私は手をふきながら勝手口から声をかけた。


「ああっ!お料理中でしたか!
僕がそっちに行きますんで待っててください!」


そういってパタパタとかけてくる。
天然パーマのかかった栗毛が朝日でキラキラと輝いている。

勝手口までくると、恥ずかしそうに笑いながら「ちょっと早く来すぎちゃいましたかね」と頭をかきながら鍵を受け取った。


「いえ、みなさんが遅すぎなんですよ。」


と私が言うと、嬉しそうにまた笑う。


「いい匂いですねー!いいなあ、こんな朝ごはんが食べれて。」


「朝ごはん、召し上がっていないのですか?」


そう聞くとまた恥ずかしそうに頭をかいて笑う。


「お恥ずかしいですが、料理はからっきし出来なくって…」


「あら、でしたら召し上がっていったら?」


「とんでもないです!!怒られちゃいます!」


ぴょんと少し大げさなほどに飛び退く。


「お気持ちだけ頂いておきますね!
鍵ありがとうございました!」


そういって彼は会社へかけていった。


「…」


なんだろう、この気持ちは。
久しぶりに親族以外の人と話したからだろうか?


吹きこぼれる音がして慌てて台所へ戻った。

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