転生屋の珍客共〜最強の吸血鬼が死に場所を求めて異世界にて働きます〜
第72話 いざ魔界へ
ネルの世話は年が近い(悪魔だから見た目はそうでも実際は違うかもしれないが)ベルに任せることにした。
彼女には主に俺と同じように雑務を言い渡された。ネクロマンサーとしての力を禁止しているのだからできるのはそのくらいだからだ。戦闘がない時は雑用扱いで仕事が同じだから俺とネルは一緒に過ごす時間が自然と増えていったせいかやけに懐かれてしまった。
嫌われて避けられるかよりかは良いが、その懐かれ具合が問題だ。
最近だと「一緒に寝ませんか?」と言ってくる始末だ。他意はないだろうが傍から聞いたらそういう意味なのかと思う者もいる。
そして困ったことにそれをリルフィーに聞かれた。暫く、ロリコン呼ばわりされたが最近は飽きたのか言わなくなった。
好かれるのは別に悪いことではないのだろうが、ネルのそれは好意というよりも執着に近いものがある。
この転生屋に誘ったのは他でもないこの俺だ。それ故にここで頼れるのが俺だけとなってしまったのだろう。
だからこそ俺はベルと仲良くなって欲しいのだが、悠長にしている暇はなく一人の客が舞い込んだ。
「ここは……何処です?」
まるで人形のように美しいその金髪の少女は他の客と同様に現状を把握できていなかった。
そしていつも通り、リルフィーが転生屋について説明をしていると遅れてベルたちが到着してお互いに目を見開く。
「ベル……ちゃん?」
「ア、アナ。どうしてここに?」
「それはこっちの台詞だよベルちゃん。急にいなくなって心配したんだからね」
「ご、ごめん……なさい」
「何よ、二人とも知り合いなの? じゃあ、この子も悪魔?」
ベルには角があり、悪魔らしさがあるが彼女にはそれがない。一見、普通の人間だ。
「そうです。アナ・ベリノーエと申します。ベルちゃんとはお家の関係で小さい頃からお友達なんです」
「ふ〜ん。じゃあ、今回はベルに一任するわ。あんたもここ長いんだし、友達なら良い転生をさせられるかもだし」
「それは単にお前が楽をしたいだけじゃないのか?」
「勘違いしないでよ。フラガラッハは私しか使えないんだから最後はちゃんと仕事するわよ。それにベルを成長させる良い機会じゃない」
彼女なりの考えーーだと思いたい。適当な理由をつけて面倒ごとを押し付けているとは思いたくない。
「ふむ、一理あるな。本人がそれで良いと言うなら今回はその様にしても構わないが」
「だ、大丈夫。やってみる」
両手で拳をつくり、小さく頷くベル。
彼女なりに変わろうとしているだろう。良い傾向だ。
「じゃあ、邪魔者は退散しましょ。何かあったら気軽に呼んでね。セリエかルインが何とかしてくれるから」
と仕事を丸投げしてその場を去る店長。
残された悪魔たちは久しぶりの再会に喜べる状況でもなく、ベルが先に重たい口を開いた。
「こ、ここに来たってことは魔界で何かあったの?」
「実は魔王の後継者争いが本格的になったの。私はそれに巻き込まれて……」
「そう……だったんだ。でも私にはもう関係ないから。これからのことを考えよ」
「ダメだよ。逃げちゃダメなんだよベルちゃん。きっと私がここに来たのは偶然なんかじゃないと思うの。だからお願い、おじさん達のところに行ってあげて」
「で、でも……」
いくら友人の頼みでも魔界に帰る勇気は出てこないまま。そんな時、外で事情を聞いていた吸血鬼が後押しをする。
「行ってやれ。でないと後悔することになるぞ」
「ル、ルインさん。でも怖い。あの人たちは私をいじめるから……」
その怯え具合からして家族から相当な嫌がらせを受けていたのだろう。その特殊な家庭事情がベルを弱気な性格にさせたのだ。
「なら俺がそいつらを代わりに殴ってやる。禍根を残すとずっと今のままだぞ。それで良いのか?」
「嫌……だ。変わりたい」
それはベルの心からの叫び。
声は小さくとも振り絞って出したその言葉は彼女自身を大きく前進させた。
「決まりだ。転生が済んだら魔界に行くとするか」
「そのことですが少し希望があるのですが、よろしいですか?」
申し訳なさそうに手を挙げて質問したのは今回の珍客、アナ・ベリノーエ。
「ここは客の意見を尊重している。何でも言ってくれ」
「でしたら次は平和な世界に転生させてください。できれば綺麗なお花がたくさんあるところに」
悪魔らしからぬ希望だ。彼女は産まれる世界を間違えたとしか思えない。
「分かった。いくつか候補を用意させておく。そこからベルと話し合って決めてくれ」
後悔のないように。
***
セリエに頼んで彼女が要望した平和で綺麗な花が多い異世界を探した。内容が曖昧なだけにそれなりの数が出てきたが用意された資料とにらめっこをしながら検討。
そして数日かけてその時を迎えた。
「説明はしてあると思うけど、転生は一度だけ。やり直しはきかないからね」
客の意見を尊重しているとはいえ、何度も転生をさせられてはたまったものではない。それにそれを悪用する輩が出てこないようにという配慮だ。
「はい。ベルちゃんと話し合って決めたことですから」
「それじゃあ、行くわよ」
「ベルちゃん、頑張って自分と向き合ってね」
彼女は笑顔で別れを告げた。
それを真摯な態度で聞き届けたベルは涙を拭き取ると表情を引き締めて気持ちを切り替える。
「行きましょうルインさん」
「何処か出かけるの? だったらお土産もお願いね」
転生作業を終えたから魔界に行くというのは伝えていない。これはあくまで仕事とは関係のないことだ。
それにしても呑気なお見送りだ。もう少し何とかならなかったのだろうか。
まあ、文句を言っても仕方がない。こっそりと抜け出して魔界へと繋がる空間の穴を開ける。
本当ならこれはセリエに頼みたいものだが、止められるよりかは自分たちで用意する方が楽だった。
「さて、話を聞いた限り今の魔界は次期魔王の座を求めて悪魔たちが争い混沌としているだろう。それでも行くか?」
「はい。約束、しましたから」
「よろしい」
では、いざ魔界へ。
彼女には主に俺と同じように雑務を言い渡された。ネクロマンサーとしての力を禁止しているのだからできるのはそのくらいだからだ。戦闘がない時は雑用扱いで仕事が同じだから俺とネルは一緒に過ごす時間が自然と増えていったせいかやけに懐かれてしまった。
嫌われて避けられるかよりかは良いが、その懐かれ具合が問題だ。
最近だと「一緒に寝ませんか?」と言ってくる始末だ。他意はないだろうが傍から聞いたらそういう意味なのかと思う者もいる。
そして困ったことにそれをリルフィーに聞かれた。暫く、ロリコン呼ばわりされたが最近は飽きたのか言わなくなった。
好かれるのは別に悪いことではないのだろうが、ネルのそれは好意というよりも執着に近いものがある。
この転生屋に誘ったのは他でもないこの俺だ。それ故にここで頼れるのが俺だけとなってしまったのだろう。
だからこそ俺はベルと仲良くなって欲しいのだが、悠長にしている暇はなく一人の客が舞い込んだ。
「ここは……何処です?」
まるで人形のように美しいその金髪の少女は他の客と同様に現状を把握できていなかった。
そしていつも通り、リルフィーが転生屋について説明をしていると遅れてベルたちが到着してお互いに目を見開く。
「ベル……ちゃん?」
「ア、アナ。どうしてここに?」
「それはこっちの台詞だよベルちゃん。急にいなくなって心配したんだからね」
「ご、ごめん……なさい」
「何よ、二人とも知り合いなの? じゃあ、この子も悪魔?」
ベルには角があり、悪魔らしさがあるが彼女にはそれがない。一見、普通の人間だ。
「そうです。アナ・ベリノーエと申します。ベルちゃんとはお家の関係で小さい頃からお友達なんです」
「ふ〜ん。じゃあ、今回はベルに一任するわ。あんたもここ長いんだし、友達なら良い転生をさせられるかもだし」
「それは単にお前が楽をしたいだけじゃないのか?」
「勘違いしないでよ。フラガラッハは私しか使えないんだから最後はちゃんと仕事するわよ。それにベルを成長させる良い機会じゃない」
彼女なりの考えーーだと思いたい。適当な理由をつけて面倒ごとを押し付けているとは思いたくない。
「ふむ、一理あるな。本人がそれで良いと言うなら今回はその様にしても構わないが」
「だ、大丈夫。やってみる」
両手で拳をつくり、小さく頷くベル。
彼女なりに変わろうとしているだろう。良い傾向だ。
「じゃあ、邪魔者は退散しましょ。何かあったら気軽に呼んでね。セリエかルインが何とかしてくれるから」
と仕事を丸投げしてその場を去る店長。
残された悪魔たちは久しぶりの再会に喜べる状況でもなく、ベルが先に重たい口を開いた。
「こ、ここに来たってことは魔界で何かあったの?」
「実は魔王の後継者争いが本格的になったの。私はそれに巻き込まれて……」
「そう……だったんだ。でも私にはもう関係ないから。これからのことを考えよ」
「ダメだよ。逃げちゃダメなんだよベルちゃん。きっと私がここに来たのは偶然なんかじゃないと思うの。だからお願い、おじさん達のところに行ってあげて」
「で、でも……」
いくら友人の頼みでも魔界に帰る勇気は出てこないまま。そんな時、外で事情を聞いていた吸血鬼が後押しをする。
「行ってやれ。でないと後悔することになるぞ」
「ル、ルインさん。でも怖い。あの人たちは私をいじめるから……」
その怯え具合からして家族から相当な嫌がらせを受けていたのだろう。その特殊な家庭事情がベルを弱気な性格にさせたのだ。
「なら俺がそいつらを代わりに殴ってやる。禍根を残すとずっと今のままだぞ。それで良いのか?」
「嫌……だ。変わりたい」
それはベルの心からの叫び。
声は小さくとも振り絞って出したその言葉は彼女自身を大きく前進させた。
「決まりだ。転生が済んだら魔界に行くとするか」
「そのことですが少し希望があるのですが、よろしいですか?」
申し訳なさそうに手を挙げて質問したのは今回の珍客、アナ・ベリノーエ。
「ここは客の意見を尊重している。何でも言ってくれ」
「でしたら次は平和な世界に転生させてください。できれば綺麗なお花がたくさんあるところに」
悪魔らしからぬ希望だ。彼女は産まれる世界を間違えたとしか思えない。
「分かった。いくつか候補を用意させておく。そこからベルと話し合って決めてくれ」
後悔のないように。
***
セリエに頼んで彼女が要望した平和で綺麗な花が多い異世界を探した。内容が曖昧なだけにそれなりの数が出てきたが用意された資料とにらめっこをしながら検討。
そして数日かけてその時を迎えた。
「説明はしてあると思うけど、転生は一度だけ。やり直しはきかないからね」
客の意見を尊重しているとはいえ、何度も転生をさせられてはたまったものではない。それにそれを悪用する輩が出てこないようにという配慮だ。
「はい。ベルちゃんと話し合って決めたことですから」
「それじゃあ、行くわよ」
「ベルちゃん、頑張って自分と向き合ってね」
彼女は笑顔で別れを告げた。
それを真摯な態度で聞き届けたベルは涙を拭き取ると表情を引き締めて気持ちを切り替える。
「行きましょうルインさん」
「何処か出かけるの? だったらお土産もお願いね」
転生作業を終えたから魔界に行くというのは伝えていない。これはあくまで仕事とは関係のないことだ。
それにしても呑気なお見送りだ。もう少し何とかならなかったのだろうか。
まあ、文句を言っても仕方がない。こっそりと抜け出して魔界へと繋がる空間の穴を開ける。
本当ならこれはセリエに頼みたいものだが、止められるよりかは自分たちで用意する方が楽だった。
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