転生屋の珍客共〜最強の吸血鬼が死に場所を求めて異世界にて働きます〜

和銅修一

第63話 新たなる予感

「ふぅ、何だかここも久しぶりね」
「騒がしいのもいなくなってようやく落ち着ける。が、問題はこれからだな」
「そうね。転生に問題ないとはいえお客様を強制的にこっちに連れ戻したんだもんね。まあ、その辺はあんたに任せるわ。私たちは事後処理済ませとからよろしく」
 そう言うとリルフィーとセリエは各自の部屋へと戻って行った。こういう時だけ店長らしい。
「アズリエ、まだ彼には死相が見えるのか」
「いえ師匠。もう見えなくなってます。これも師匠の活躍があったからですね」
 やはり死相の原因はメディアの命令で殺しをしたからそのせいで誰かに狙われていた、もしくわメディアに切り捨てられるのかのどっちかだったのだろう。
 どちらにせよ一難は去った。
「そうか。それならいいんだ。お前も疲れてるだろ。こいつは部屋に運んでおくからゆっくり休むといい」
「ではお言葉に甘えて」
 ベルも疲れたのか大人しく自室へと戻って行き、それを見送ったルインは気絶している須藤隼人を空いている部屋のベッドまで運んだ。
「さて、どうしたものか」
 これで良かったはずだ。
 あれ以上俺たちがあの世界に関わる必要はないのだし、あそこで転移したのは須藤隼人を含め俺たちの為の英断だ。見捨てた訳ではない。
 しかし、どうしても引っかかる。
 特にあれだけ煩かったロニがあの時だけはやけに大人しくかった。原因はフラスコいっぱいに入った俺の血だ。
 魔女としての血が騒いだのか何か企んでいるような目をしていた。それがあの二人の因縁の対決と関わってくるかは定かではないが、あいつがしようとしている事はどうせロクな事に違いない。
「まずは目が覚めるのを待つしかないか」
 今更頭を悩ませたところで何も変わらないのだから俺は俺の出来る事に専念をする。ただそれだけだ。
 自分の部屋へと戻り、特にすることもないので寝るとそこで妙な夢を見た。
 ただの夢ではない。予知夢だ。
 俺の能力だがこれはいまだに制御出来ないものの一つだ。見たい時に見れず、こうして稀に俺の意思を無視して見えてくる。まるで何者かが警戒を促すかのように。
 だがこの予知夢は漠然としたもので正直これから何か起こってしまうとしか分からない。
 そして今回見えたのは戦争の光景だった。
「一体何だって言うんだ」
 最悪の朝だ。
 これだから予知夢は困る。それよりもまずは須藤隼人の説得をするとしよう。
「おはよう須藤隼人。それともネロと呼んだ方が良かったか?」
 皮肉気味に聞いてみるが返ってきたのは覇気のないものだった。
「どっちでもいいよ。選択肢はないんだろ」
 無理矢理連れ戻したのを怒っているのかと内心ヒヤヒヤしていたのだが。
「いいや、転生屋はお客様を第一に考えている」
「けど、転生が前提だろ。それって実質選択肢なんてないじゃないか」
「では転生の権利を放棄すると。普通の状態ならそれでも良かったがその状態では難しいと思うぞ」
 セリエに須藤隼人がいた世界について調べてもらったがそこには魔法はおろか特殊な力など存在しない世界。
 そんな世界に魔法が使えるようになった彼を戻すことは世界のバランスを崩しかけない。
「じゃあ、もう転生しかないんだな」
「残念ながらな。しかし落胆することはない。君が思っているよりも世界は数え切れないほど存在している。君が望んだ力が手に入る世界だってあるかもしれないぞ」
「けど力があっても意味はないんだろ」
「別に意味はないとは言ってはいない。大切な人を守るには力が必要だ。が、魔法のような特別な力などなくても良い。お前はもうそれを手にしているのだからな」
「もう手にしている。特別な力じゃないもの?」
「そこからは自分で考えるんだ。転生先、転生した時の容姿等が決まったら誰でもいい。声をかけてくれ。必要だったら色々と手配もできる」
 手配するのは用心棒の俺ではないがあのセリエなら仕事を全うしてくれるはずだ。
「じゃあ、最後に一つだけ。力があって後悔したことは?」
 それは俺の言う力ではなく、単純な力のこと。少し迷ったがここは
「ある……が悪いものではないさ」


 
***



 彼が選んだのは魔女の世界でもなく、能力者の世界でもなく、普通の世界だった。
「それで須藤隼人は結局、前と同じような世界に転生したんだけど本物にあれで良かったのかしら」
「転生した後にそれを言うのか」
「だって本人に何回聞いてもそれで大丈夫って言うけどおかしいじゃない。あんたが言うには最初は何の特別な力を持ってなかったけど憧れてたんでしょ」
「そのようだったな」
 本人もそう言っていたし、憧れていたのは間違いないが気持ちは何かをきっかけに変わるものだ。
「あの方の世界では中二病という症状だったようです」
「病気……だったの?」
「いえ、病とついていますが病気ではないようです」
「なら良かったですけど。そ、その方はどうして力を求めていたんでしょう」
「そればかりは本人にしか知る由はないな。まあ、特別な力が存在しない世界でも色々とあるのさ」
 その色々を具体的に説明しようにもそれはただの想像に過ぎない。やはりこの様な質問は本人に聞くべきだったな。
「まあ、とにかく師匠のおかげで一件落着して良かったじゃないですか」
「捕まってた人がそれ言う」
「うっ! それを言われると返す言葉もありません」
「ご、ごめんなさい」
 反省の色を見せる二人。
 原因はロニの転移魔法が失敗していからなのだが、その後に捕られられた自己責任だ。
「何にせよ全員無事で帰ってこれたからそれで良いのよ」
 リルフィーの言う通りだ。
 全員無事なのが一番。それを実感していると久しぶりの来訪者が現れていた。
「やあ。お話し中申し訳ないけど報告に来たよん」
「バルドルか。随分と忙しそうだったが、わざわざここに来たということは何かあったのだ」
「話が早くて助かるよ。実は遂に転生屋の天敵が表側に出て来た」
「転生屋の天敵?」
「そうね。来たばっかりのあんたは知らなくて当然よね。ネクロマンサーよ。死霊使いとよ言うわ」
「死霊使い。成る程、確かに俺たちの天敵だな。それでそいつが何処に出たのだ」
「それが……少し言いにくいんだけど君たちがさっき行っていた魔女の世界になんだ」
「あー、ちょっと私用事思い出しちゃったー」
 棒読みで逃げ去ろうとするリルフィーだが、そうは問屋が卸さない。
「待て。店長として見過ごす訳にはいかないだろ」
「そうだけど私もうあそこに行くのわ嫌よ。魔女は全員怖いし、命がいくつあっても足りないわ」
「同感だがネクロマンサーを野放しておいたら世界のバランスはおかしくなるぞ」
「だったらバルドルがどうにかしなさいよ。あんた神様なんだし」
「それは無理なんだよ。僕はあくまでここの責任者で神が直接手を出すのは禁じられているからね」
 神の過度な干渉は世界に大きな影響を与えかねないという事で禁じられており、それはバルドルも例外ではない。
「だからこうして俺たちに何とかするように伝えに来たんだな。それでそいつは殺すのか?」
「いいや、上は捕縛が好ましいってさ。他のネクロマンサーの情報も聞き出したいし」
「そうか捕縛か。分かった」
「ちょ、ちょっと何処に行くのよ」
「無論、魔女の世界だ。ここにいても仕方がないからな」
 暫く沈黙するとリルフィーは大きなため息をついた。
「……はぁ〜。分かったわよ。行けばいいんでしょ。新人のあんたなんかに手柄を取られたら恥じだもんね」
「師匠が行くなら私も行きます」
「あ、えっと……わ、私も」
「サポートは任せてください」
 リルフィーに続き、魔女の世界へ再び行く決心がついたようだ。ここは気が変わらないうちに行くとしよう。
 あの忌まわしい世界へ。

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