転生屋の珍客共〜最強の吸血鬼が死に場所を求めて異世界にて働きます〜

和銅修一

第59話 魔獣の腹の中

 大地の魔女の名は伊達ではなく、アルチナは迫り来るイバラを魔法陣からゴーレムを錬成してせき止める。
 攻撃に転じようとしても次々と出現するのイバラで一撃を与えることさえ出来ないでいた。
「五分の戦いだな。お前は手助けはしないのか」
「必要ない。たとえ負けたとしてもそれはあいつが弱いせいだ」
「育ての親に酷い言いようだな。しかし、俺はこうしてジッと待っている気はないぞ。この幻影に慣れたらあいつを殺して先に進ませてもらう」
 後ろの連中を守りながらとなると万全の状態でなくてはならない。何せ、この三人の中で戦える者は一人としていないからだ。
「それは困りますわ」
 もう少しで幻影魔法の耐性がつくというところで真下から声が聞こえた。
 しかし、聞こえたと思った時には既に手遅れで忽然と何者かに飲み込まれた。
「ここは……何処だ?」
 先程とは打って変わって何もない空間。
 そこには金髪と大きな胸が特徴的な女性が大きな獣を椅子にして悠然と待ち構えていた。
「可哀想ですから答えてあげますけどここは私のペットの中ですわ」
「ではついでに答えてくれると助かるがアズリエは今何処にいる? 灰色の髪をした女なんだが」
「知りませんわ。私はただ私の縄張りで好き勝手に暴れられては愛しいペットたちが可哀想ですので消えていただこうかと」
「ペット……ねえ。この妙な魔獣もそうか」
「ええ、私のお気に入りですわ。何といってもこの第二の胃袋。ここは食べ物とは別に敵の魂を喰らうの。ちなみに私だけの魂は喰べないよう調教してあるわ」
 つまりこの空間は幻影魔法で見せられているものではなく、魔獣の腹の中という訳だ。
 少し信じられない話だが俺を飲み込んだ口はきちんとこの目で確認している。
 咄嗟に三人はあちらに残してきてしまったがロニが守ってくれるとは思えない。
「魂か。面白い魔獣だが、魔女というのは変人が多いのだな」
「あら、それは挑発のつもりかしら。残念ですがその手には乗りませんわよ」
「そうか。ではこのヘンテコな魔獣に穴を開けてお邪魔するとしようか」
 あの三人の事もあるし、ここは強引に出ようとしたがそれを拒むように金髪の女性が椅子にしていた獣が襲いかかってきた。
 その鋭い牙に噛まれる前にルインはそれを一蹴する。
「それはさせませんわ。私の可愛い可愛いペットに傷を負わそうだなんて許せない。ここで餌になってもらいますわ」
 更に魔法陣から様々な種類な魔獣を出して、ルインへの攻撃命令を下す。
「魔獣をペットにするとは良い趣味をしているな。しかし、こいつらに用はない」
 どれも大した力のない魔獣でルインはそれをたった一撃で全滅させてみせた。
 一瞬の出来事で何が起きたから分からず、反応に戸惑ったが理解すると憤然とした面持ちを浮かべる。
「なっ⁉︎ 私のペットたちを……許せませんわ」
「だったら魔獣なんて使わず、自分でかかってきたらどうだ」
「私が手を汚すだなんて考えられませんわ。でも力尽くというのはあまり賢いやり方ではありませんでしたわね」
「ふむ、ではその賢いやり方とは何だ」
「お金よ。貴方が望む額を出すから私の下僕になりなさい」 
「金で解決しようとはな」
「あら、ペットになった男共よりかは良い条件かと思いますけど」
「ペットになった……だと」
「獣の魔女と呼ばれるこのキルケの名を知らないの? 私は人を獣に変えられるのよ。無論、先程貴方が殺したのもそうよ」
 あの魔獣は元は人間だったのか。
 殺してしまった事について何の罪悪感も苛まれたりはしない。獣でも人間でも同じ生命を大量に奪ってきたのには変わりはないのだから。
 だがこれだけは言っておこう。
「外道め」
「何とでも言いなさい。魔女は利用できるものは全部利用できるものなのよ。そして言う事を聞かないのなら……」
 怒りに燃える瞳で出したのは先程とは比べものにはならない魔法陣。
 そこからは更に強力な魔獣が出現する。
「無理矢理にでも従わせていただきますわ」
「それは賢いやり方ではないのだろ」
「ええ。ですからこれは不本意なのですが貴方を傷物にしてでも下僕にさせてみせますわ」
「ふん、そっちはやる気のようだが俺はもうお前にもお前のペットたちに用はない」
 そこで二人を飲み込んだ魔獣に異変が起き、何もない空間が揺れた。
「な、何をしたの。この子に物理攻撃は効かないし、魔法をした形跡もないのに……」
「何もしていないさ。ただこいつの胃袋が一杯になっただけだろ」
 実際、物理も能力も使っていない。
 それは目の前で見ていた者が良く知っているだろう。
「そんな。この子は一日に千人の大群の魂を喰らっても平気だったのよ。貴方、一体何者?」
 女の姿では格好はつかないが説明をするのも面倒なのでこの一言で片付けさせてもらおう。
「不死身の化け物とだけ言っておこうか」

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