転生屋の珍客共〜最強の吸血鬼が死に場所を求めて異世界にて働きます〜

和銅修一

第18話 ルインの策

 険しい岩山を乗り越え、その先にある鬱蒼とした森を突き進みと小屋を発見した。
 どうやらもう誰も使っていないようで外も中も廃れている。休憩と今後のルートの確認がてら二人はこの小屋へと入る。
「ユニコーンを吸血鬼化させたおかげで随分と距離を稼げただろう。聖杯まではあとどれくらいだ?」
 吸血鬼化の効果はついさっき消えた。反動として体力を大幅に消耗してしまう。調整するのは可能でユニコーンに飲ませたのは薄いものだが、やはりいきなりだった上にあれだけの距離を走ったせいでもう一度血を飲ませるわけにいかない。
「このペースならあと半日だけど、ここからはグラハグの兵士がいるから長く見積もってあと一日」
「ふむ、巡回の兵士か。そんな奴ら気にせず倒してしまえばいいだろ」
 アンネが生前ここへ来た時は一人で敵国に潜入していたのだから慎重にならざるを得なかったのは仕方のない事だが、今回は時間がない。後で倒れた兵士を見つけられて潜入がバレてしまうがそうなる前に聖杯を手にして逃げ出せばいいだけの話だ。
「一人や二人だったらね。でもここから先には一万を超える軍勢が控えているの」
「こんな前線にか。いや、前線だからこそか」
 何処かにハインツの戦力が集中した時に帝都に攻め込めば一気に形勢を逆転出来る。この事を伝えているのかどうかは知らないが大きな動きがない様子からそうなる事はないはずだ。
 しかし、それだけの為に一万もの兵士をここに置いておくとは考えにくい。
「奴らが拠点にしているのはこの先にある鉱山。掘り尽くされて今は使われなくなったけど迷路のように入れ組んでいて大変なの」
「迷路の要塞か。しかし、そんなところにそれほどの兵を集めているとなるとそこが俺たちの目的地という事か」
 そこに聖杯がある。
 成る程、それなら一万もの兵士を集結させているのも頷ける。むしろ少ない方だろう。
「ええ、グラハグ領も聖杯の場所を知っているという事です。唯一の救いはまだ聖杯が見つかっていないという点ね」
「では尚更急がんとな」
 先に見つけられ、聖杯を使われでもしたら俺たちがここに来た事は無意味となる。そうならない為にもこちらが手にしなくては。
「それでも二人で一万もの兵士と戦うのはあまりにも無謀よ」
「ならば策を講じるまで。別に全滅させる必要もない。俺たちの目的はあくまで聖杯なのだからな」
「そうね。じゃあ、まず見つからないように聖杯のところまで行きましょう」
「お前には聖杯の場所が分かるのか?」
「自然とね。多分、聖剣のおかげ。何となくだけど呼んでいる気がするの」
「ではこちらが一歩リードだ。潜入して出来るだけ聖杯の近くへと行くとしよう。最悪、俺が全て引き受けよう」
「いいえ。最悪の場合は聖杯だけ持って逃げましょう。私も二度とあんな思いはしたくない」
「そうか。では俺にいい案がある」
 流石に無策で一万もの大軍に突っ込むのは危険だ。何をされても俺は平気だが、人間のアンネは違う。
 転生したばかりだというのにまた死んでは可哀想だ。ここは彼女に負担のかからない作戦を立てた。
「どんな案でもあるだけ助かる。教えてくれ」
 一通り説明をするとアンネは苦笑いをする。
「意外と無茶を言う。だが必ず成し遂げるとこの聖剣に誓おう」
「それは心強い。では手筈通りに頼む」
 二人が即席の策で一万の兵士のいる鉱山へと向かっている時、リルフィー達はまだ岩山を登っている最中だった。

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