奴ら(許嫁+幼馴染諸々)が我が家に引っ越してきたのだが…

和銅修一

お弁当


「ただいま〜……っておいっ! なんだこの雰囲気。ここだけ別空間だぞ」
 四つの鞄をせっせと運んで来た友和はまずその雰囲気に驚かされた。
「知らねーよ。この二人に聞いてくれ」
 俺はただこの空気に押しつぶされて黙っていただけなんだから何も悪くない。
「あー、そうか理沙か。興と一番仲良いのにいきなり出てきた虹咲ちゃんに興を取られたくないんだ〜」
「ち、違うもん。ちょっと考え事してただけ」
 少し顔を赤らめるが、確かに何か考えているようではあった。
 しかし、友和の質問がどうゆう意図があるのか理解できない。
 俺と理沙は幼馴染でそれが変わる事はないんだから取られるとかはおかしいだろ。
「ふ〜ん。では虹咲ちゃんは俺が教室に行ってから今までに何してたの?」
「興様を観察しておりました」
 大分危ない発言だがそれを受け止めるのが友和。
 一切動じないどころかそれに乗っかるのが友和流で更に質問を付け足す。
「それで、結果はどうなしたか?」
「あくびの三回、瞬きの十八回、下を向いたのが二回、通りかかった友人と挨拶なさったのが四回、携帯で時間を確認したのが一回でしたわ」
「細か過ぎるわ! お前、俺をどんだけ見てんだよ」
 自分でも瞬きの回数なんて覚えてないというのに……これはもはや特技と呼べるレベルだ。
「それはもう穴が空くまですわ。実際に穴が空いたら私が困るのですけどね」
「うっ……と、とにかく弁当食べよう。早く食わないと昼休みが終わっちまう」
 ただてさえ学校案内でそれなりの時間が潰されたのだ。のんびりお話しながらでは次の授業に間に合わないかもしれない。
「そうですわね。ではいただきましょう」
 八恵がピンク色の弁当箱を開くのを合図に他の三人とそれぞれの弁当箱を開ける。
「こ、これは……」
 興は目を疑った。
 八恵が作ってくれたお弁当。
 そのおかずはタコさんウィンナーや卵焼いといった定番の物で全く問題がなかったのだがご飯の部分にふりかけで『興様LOVE』と書かれていたのだ。
「愛情を込めて作りましたので味わってお食べください」
「あ、ああ。いただくよ」
 これは新婚の奥さんが作りそうな弁当だ。しかも『LOVE』って…ストレート過ぎる。
 何故だろう? また理沙が不機嫌な顔をしている。
「興様、どうしたのです? あ、分かりました」
 何か思いついたという顔して八恵は自分の箸でこちらの弁当のタコさんウィンナーを掴んで興の口の前まで運んで来た。
「はい、あ〜ん」
「い、いいよ子供じゃないんだから自分で食う」
 恥ずかしさを誤魔化す為に一気にご飯をかき込む。一気にいったせいで詰まりそうになったが気合で何とかした。
「あら、それは残念です」
 プクゥ〜と頬を膨らませるが時間がないからか、今回は早々に諦めてくれて箸で取ったそれを自分の口の中へ入れた。
「それにしても理沙、お前本当に機嫌悪いな。そんなに八恵のことが嫌いか?」
 やはり口数か少なくなっているし、明らかに表情がいつもより張り詰めている。
「ううん、違うの。ちょっと…ね」
「ちょっとじゃ分かんねーよ。俺ら幼馴染なんだから隠し事なんてするな。何かあったんだろ? 何年一緒にいると思ってるんだ。それくらい見ただけで分かる」
 相手が限定されているがこれも特技に入るだろう。
「うん。どうせすぐ興くんにも知られるから今言うけど……実は私のお母さんも海外に行く事になったの」
「え? おばさんが?」
 ファションデザイナーをしていると聞いていたがどうやらそれなりに忙しいようであまり会った事がないので、仕事をしているところは見てはいないが海外に行くくらいなんだからそれなり出来る人なのだろう。
 確かお隣さん同士で性格的に合っていたので親父と仲が良いらしいから、時期的にもそれに関係があるのかもしれない。
「それで、理沙ちゃんも海外に行くの?」
 友和は心配そうに聞くが理沙はそれには首を振った。
「ううん。私、もっと皆と一緒にいたいからここに残ることにしたんだけど……一人暮らしって初めてでちょっと不安なの」
「なら、私に任せてはくれませんか? 少しいい案が思い浮かびました」
「お、おい。話を勝手に進めるな」
 この流れは良くないぞ。それに八恵は八恵で親父に負けない自由さがあって、また何かしでかすのではないかと俺の心中穏やかではない。
「あら、私を信じられないのですか?」
「い、いやそうじゃないけど……」
 昨日のこともあるし、また面倒なことになるのではないかと悩んでいると昼休み終了の鐘が鳴り、授業開始まであと五分まで迫ってきていた。
「では、理沙さん。放課後にお話ししましょう。ですが、もし私の案が気に入らなかったなら断ってくれても構いません。全ての決定権は貴方にあるんですもの」
 片付けを終えてこの場から去る八恵を見送って、三人は急いで弁当の残りを平らげ教室へと戻った。

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