ラブコメで幼馴染が報われない法則について

和銅修一

第60話 突然やってくる教育実習生にどう接していいか分からない法則について

 教育実習生。
 一度は会ったことはあるであろう。教員免許の取得するために必要な実習をしに来た人で教師の卵のような存在だ。
 そんな人がよりにもよって問題児の多いこの学園に可哀想だと潤香から聞いた時はそう思ったがその開口一番の台詞でその考えは消え失せた。
「教育実習生の姫路 臥阿です。私はあなた達の姉なので気軽にお姉ちゃんと呼んでください」
 全員が悟った。
 あ、この人ここの卒業生だと。
「言い忘れていたがこいつはうちの卒業生だ。……て、今更説明は不要か」
「あらあら皆さん元気がないですけどどうしましょう。お姉ちゃんがご奉仕してあげないとーー」
「良いからお前は黙ってろ。えー、この馬鹿はこれから二週間このクラスで世話になるらしいから気をつけるように」
 気をつけるようにって何⁉︎
 いつもの斑鳩先生なら適当に流すところを生徒に注意を促すとはどうやらこの教育実習生は相当危険人物らしい。
 だが昼休みになってもこれといった問題は起きず、廊下を歩いていると潤香かが後ろから勢い良く現れヒソヒソ話を始めた。
「なあ、やっぱり怪しいぜあいつ。色々と聞いて回ったんだが自分より年下は弟か妹って思ってるらしいぜ」
「それはまだ随分と重症だな」
 俺は姉萌えでもないから嬉しくはないが、一部の人は歓喜していそうだ。見た目もふんわりとした茶髪におっとりオーラが漂い、不覚にも姉が似合うからな。
「いやいや、もっと焦れって。変人だし、お前の学園生活に支障をきたすぜ」
「そうか? ただの自称姉ってだけだろ。俺らを弟か妹に見てるってなるとあまり良い気はしないけどな」
 そう考えると学園生活に支障をきたしていると言っても過言ではないかもしれない。
「潤香は何かされたのか?」
「ああ、私の可愛い妹ちゃん一緒に遊ばない? って言われた。身の危険を感じたから速攻で断ったがよ」
「お前を可愛い妹ちゃん呼ばわりとかなりの強者だな。あの人って担当なんだっけ?」
「数学だよ。俺とお前が苦手のな」
「それは……やばいな。教育実習生って奴は最初の頃は一番後ろでジッと見学しているだけだが後半になってくるとクラスと打ち解けて調子に乗って来やがる」
「ああ、そして標的にされやすいのが問題に悩んでる奴。斑鳩先生は消極的だから挙手しないとちゃんと教えてくれないから躊躇したらーー」
「教育実習生にやられる。あっちは常に話しかけるキッカケを探してるからな。分からない問題を教えてあげるっていうのは絶好の機会だ」
「なら黙々と計算してるフリをするしかないな」
「それしかないよな。よし、対策も決まったところでこの話はこれで終わりだな。といってもそんなに警戒する必要はないだろうけど」
 ただ単に教育実習生が気に入らないから期間が終わるまであまり関わらないようにしていたが今回は女性だから以前のような思いはしなくて済む。
「甘いぞ蓮。あいつはお前の願いが原因で来た可能性かあるってのによ」
「それはないって。俺の願い聞いてたろ」
「無意識の願いってもんもある。秘宝はそれも当然汲み取ってるだろうからそのせいかもしれねえ」
「かもしれねえって……まあ、俺の無意識を確認することは不可能だよな」
「いいえ。不可能ではありません」
 と聞き覚えのある声が横から割って入って来た。
「うわっ! リリエルかよ。急に現れるな。心臓に悪いだろうが」
「申し訳ありません。ですが、お二人とももう少し気をつけてください。先ほどの会話はここでするようなものではありません」
「それもそうだけどリリエルは何をしに来たんだ?」
「いえ、特に用事という用事はありません。ただ購買に行った帰りにお二人の会話が聞こえたので」
 と戦利品である大量の菓子パンを見せびらかしてくる。こいつの胃袋は日に日に拡大しているような気がする。
「またか。それでさっき言ってたことは本当か?」
「はい。詳しいことは話せませんが西条さんのご協力があれば可能です」
「なら家帰ったらにするか」
 二人ともどうせ我が家に居候している身だからそこでやるというのが合理的だ。
 というかリリエルはやっぱり潤香のことは知っているのか。まあ、教育実習生のことは後にして無意識の願いとやらを確認しておこう。

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