ラブコメで幼馴染が報われない法則について

和銅修一

第49話 鬼ごっこは逃げるよりも追いかける方が楽しい法則について

 五十嵐も鬼にしてこのゲームで歩き回れるようにしておいた。
 あえて鬼にしないでサリエルたちを発見した後は安全なところで隠れているということも考えも出たが本人が「東雲が危険な目に遭うかもしれないというのにジッとしていられるわけがない」と逆に怒られてしまった。
「さて、それでお前の感覚を信じるとここに奴らがいるんだな」
 場所は体育館。既に何十人か集まっていて顔見知りも何人かいるが、学年やクラスはバラバラだ。
「ああ、間違いない。だがこの距離では誰がそうなのか判断し辛い。もう少し近づかないとな」
「相手にも感知能力が高い奴がいたら厄介ね。まあ、この人よりも感度の高い奴なんてそういないだろうけど」
 基準は知らないがクリムいわく五十嵐のそれは相当凄いらしい。
「それにしてもこんなに人が集まってるなんてな」
「プリントちゃんと見た? 鬼はまず体育館に集合してチャイムが鳴ったらゲームの開始だって書いてあったでしょ」
「ならここにいるのは全員俺たちと同じ鬼か。そうなると開始される前に特定はしておきたいな」
 開始されたら一斉にここにいる生徒は学園内に散らばって行く。そうなったら探し出すのは困難になる。
「それもそうね。あいつも流石にランダムで選んだ中に目的の相手がいるなんて思ってないだろうから予定時間通りに開始されるだろうしね」
 かといって時間を延長させたら怪しまれる。ここはプリントに記載しれている予定時間、九時半までに見つけなくてはいけない。
「でも自然に近づく方法なんてあるか?」
 知り合いなら「お前も鬼だったんだな」なんて話しかけることもできるが全員が知り合いなはずがない。
 五十嵐はそう言うとポケットから手袋とマスクを取り出し、それを装着。そして保健室で目にするアルコールスプレーを片手に自信満々に言い切る。
「そんなの簡単だ。ここは私に任せてくれ」
 一見、職質されてもおかしくない格好だがこの学園では既に見慣れた光景となってしまった。聞いた話によると一年生の頃からあんな感じで先輩だろうが御構い無しにグイグイと接していたらしい。
 そして現在も「鬼ごっこをするのなら多くの人に触れます。その前に殺菌をしましょう」と体育館中の生徒たちに話しかていっている。
「何あれ?」
「あいつはこの学園では問題児として有名なんだ。ああやって健康のためなら本人の意思に関係なしに消毒なりを勧めてくる。あいつだからできる裏技みたいなもんだな」
 怪しくはあるがそれは彼女が問題児だから。自覚しているのかいないのかは定かではないが短時間で全員と接近するにはあれくらい強引の方が良いかもしれない。
「やあ、東雲くん。まさか君も鬼とは奇遇だね」
 することがなくなり、どうしたものかと辺りを見回していると今回強制的に鬼役となった生徒会長に話しかけられた。
「生徒会長……。まあ、俺は昔から引き運が悪いですから。それにしても生徒会は大変ですね。七不思議の調査の次は鬼ごっこですか」
「ははっ。正直、大変だよ。実はこのゲームは学園長の思いつきらしくて先生方も朝は色々と忙しかったみたいだよ」
 なるほど。確かに隅の方で待機している先生たちの顔は疲れ切っている。
「でも恵とかは楽しそうだったんで個人的には嬉しいけどな。授業もないし」
「そういう声は多いらしいね。まあ、こういった行事は生徒同士が仲良くなるキッカケになるから賛成なんだけどあまり良く思っていない先生もいるみたいで……っと、これは君に言うべきことじゃなかった」
「いえ、俺は気にしてないっすよ。聞かなかったことにしておきますから」
「それは助かるよ。君はこれからどうする? 葵くんは生徒会室に忘れ物をしたらしくてそれを取りに行ってるけど」
「俺は約束があるんで葵とは会ったらよろしく言っといてください」
 気になるが今優先すべきはサリエルの討伐だ。蔑ろにするわけではないがこれだけは幼馴染要素を取り入れることを我慢しなくてはいけない。
 そして五十嵐のアルコール散布が終わり、こちらに戻ってきたところでゲーム開始のチャイムが鳴った。

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