ラブコメで幼馴染が報われない法則について

和銅修一

第24話 偉い奴は大抵何か企んでいる法則について

 目が覚めるとそこは見知った天井だった。
 起き上がろうとすると心配そうな顔で恵が話しかけてきた。
「蓮、大丈夫?」
「まだ頭がクラクラするけど大丈夫だ」
 ここは保健室。
 どうやらボールが直撃して気絶してしまったようで張本人である五十嵐は申し訳なさそうに……していると思いきや仁王立ちしてこちらを睨んでいる。
「起きたか。あの程度で倒れるとは嘆かわしい。しかし、私が治療をしたからもう安心だ」
「五十嵐さんは倒れた蓮をここまで運んで来てくれたんだよ。お姫様抱っこで」
 女子がここまで俺を運んで来れたのも驚きだが、最後の一言に全てを持っていかれた。
 あの場には応援に来ていた生徒が相当数いたはず。つまり女子にお姫様抱っこされているという醜態を晒してしまったということ……。いや、今それを考えるのはやめよう。
「その件については感謝するよ五十嵐。でも俺がこうなったのはお前のせいだろ」
「確かにそうだな。反省している」
 全く反省しているようには見えないが、今更何を言っても変わらないことは身を以て体験済みだ。
「それで今って球技大会どうなってるんだ?」
「バレーは五十嵐さんのチームが優勝して終わったよ。もうちょっとだったんだけどね」
「まあ、相手が五十嵐なら仕方ないさ。それにしても俺は結構な時間寝てたみたいだな」
「うん。後は軟式野球がやってくるくらいかな〜? 私は蓮が心配だからずっとここにいたからどうなってるかは知らないけど」
 おいおい、天使だよ。本物の天使がいるよ。あの役に立たないし、最近勝手に冷蔵庫を漁って当たり前のように食べているとは大違いだ。
 しかし、良く良く考えるとかなりヤバイ状況だぞ。残りが野球だけとなると球技大会はもう後半も後半だ。思わぬ事故で俺の計画は破綻したが、数少ない学校行事を利用しない手はない。
 流石に残りの時間では二人を幸せにするのは不可能だから今後のために想い人だけを確定させるとしよう。
「それじゃあ、私はお邪魔するよ。ここは好きに使っていいからまだ気分が優れないなら無理は禁物だぞ」
「はいはい。俺は大丈夫だから行ってくれ」
 いつもより念入りに注意してくるところは罪悪感からだろうか? どちらにせよ嵐のように保健室から去って行った。
「これからどうするの?」
「葵のところにでも行くかな。結局、ここで寝てたせいで生徒会の手伝いができなかったし」
「それじゃあ、グラウンドだね。葵もすごい心配してたから安心させてあげよ」



***



 この学園のグラウンドは校舎の近くにあるのと野球部が練習に使ったりするものがある。
 球技大会で使用されるのは後者の方で長い坂をのぼらなくてはいけなく、息を切らしてのぼってようやく到着するとそこには新堂の姿があり開口一番に嫌味を言われる。
「あら、お姫様はお目覚めになったのね」
「お前も見てたのか……」
「ええ。今度の記事にするか悩んでいる最中よ」
「勘弁してくれ」
「けど、本当に残念ね。貴方は球技大会に貢献している一人だというのに参加できていないなんて」
「俺は好き好んで参加してないんだよ。それでそっちはどうしてここに? 球技なんて興味ないだろ」
「あら、心外ね。新聞部である以上、どんなことにも興味を示して読者層の拡大を狙ってるわ。それで貴方の方はどうなの?」
 横を見ると話の輪に入れない恵は不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「おっと、そうだった。お前とこんな話をするために来たんじゃなかった。ちょっと幼馴染に会いにな」
「確か、副会長の子よね。それなら生徒会長と何処かに行ったのを見たけど」
「行き違いか。じゃあ、俺たちは戻るよ」
 まだ走れば間に合うはずと蓮たちは来た道を戻って行き、その後ろ姿を見つめながら新堂は隠れていた生徒会長に聞こえるように呟く。
「これで良かったのかしら」
「はい。協力感謝します」
「礼なんていらないわよ。どうせ貴方からの頼みなら断れないし……。それであの子をどうしようって言うの?」
「東雲くんには何もしませんよ。僕が用があるのは葵くんの方でね」
「そう。私は興味がないから帰るけどあの子が損になるようなことをしたら記事にするわよ」
「肝に銘じておきます」
 それだけ言い残すと二人は別々の方向へと歩みを進めた。

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