神々に育てられた人の子は最強です

Solar

クラスメイトは3

 
 話は数時間前に遡る。

「ここ、何階層だ?」
「今は20階層です。勇者様」

 私たちは今、神夜くんと別れたダンジョンに来ている。
 みんな、この前のルミナ王国で起きた魔物の大行進モンスターパレードで現れた、『覇王』って言われいる冒険者の人に影響されたのかな。
 “自分たちが人々を守る存在だ”、“帝国にもし同じような危険が起きた時、自分が立ち向かえる力を持たないと”、そんなことを言ってダンジョンで必至に頑張っている。
 先生に言われた通り、騎士さんと一緒にダンジョンに行き、私たち勇者パーティーを中心にみんなどんどんレベルアップしていく。

「姫宮さーん、こっち、少し怪我したので治してくれますかー?」
「はーい。雫ちゃん、何かあったら呼んでね」
「うん、わかっているよ、愛菜」

 雫ちゃんの返事を聞いて、怪我をした人のもとに行く。
 雫ちゃんはずっと頑張っている。勇者パーティーでも前線に立ち、私を守ってくれる。
 この前どうしてそんなに頑張っているの?と聞いたら、「黒瀬くんに再会した時、自分たちも強くなったって言えるようにね」って言ってた。それを聞いて、自分も今以上に頑張ろうと思った。
 ここは20階層。私たちがこの世界に来て最初は5階層までしか行けなかったけど、ここまで来れた。みんな、自分たちが成長していると感じている。
 連携も取れてきているが、たまにミスをして怪我を負う人もいるが、その怪我を治していくおかげで私の治癒魔法がLv3まで上がった。

「はい、これで大丈夫」
「ありがとう、さすが姫宮さんだね」
「そんなことないよ」

 そう言って、雫ちゃんのもとに戻る。

「愛菜、秋山くんがもうすぐボスだから準備してって」
「わかった」

 ずっとダンジョンに潜ってわかったことがある。ダンジョンは、5階層ずつボスという、普通の魔物よりも強力な魔物が待ち構えている。
 勇者パーティーである5人と、クラスの全員が揃い、ボス部屋である巨大な扉を押し開ける。
 その空間は岩で作られており、光石が部屋中を照らす。

「な、何も居ない?」

 誰かが呟いたその言葉は、何も無い部屋の中に木霊する。
 私たちは重戦士のタンク役である、田中くんを前にゆっくりと、周りを警戒しながら部屋の中に入った。
 すると、壁が、地面が、天井が揺れ始め、ドシンドシンという地響きが鳴る。
 壁の岩は崩れ落ち、地面から徐々に何かが押し上げられ、天井からはゴツゴツした岩で出来た脚が見えた。そして現れる、地響きの正体が。
 それは、ゴーレム。だが、ただのゴーレムではない、

「みんな、ナイトゴーレムが出た!いつもの態勢で行くよ!」
「勇者さま!私たちはミニゴーレムを相手にしておきます。ナイトゴーレムはそちらで対処を!」
「じゃあ俺たちはゴーレムを相手にしておく!ナイトゴーレムは勇者パーティーで頼む!」
「ああ!任せておけ!」

 秋山くんの掛け声で、みんなが動き出す。
 そう、現れたのはナイトゴーレムと言われる普通のゴーレムより強度が高い、上位の存在の魔物だ。
 岩でできた体の上に、また岩でできた鎧と剣を持っている。
 ゴーレムはナイトゴーレムと同じ大きさの、何の武器も持たない岩の塊だ。
 ミニゴーレムは普通のゴーレムより2回りぐらい小さなゴーレムだ。
 私は後ろで魔法の準備、ほかの四人は接近戦なので前線で戦っている。
 現れたナイトゴーレムは一体、ゴーレムが五体、ミニゴーレムが十体。

「龍也!」
「おう!」

 ナイトゴーレムが腕を上げる時、それは地面に向かって私たちを殴るモーションだ。ナイトゴーレムの動きは単調で読みやすく、田中くんがすぐガードに入ってくれる。

「【城壁】!」

 自分の体と盾を城の壁とほとんど同じ硬さにする防御スキル。
 その時にできた隙を、私は後方から魔法を、4人はすぐに追撃する。

「「【身体強化】!」」
「【双月斬】!」

 秋山くんと雫ちゃんが身体強化を使い、ナイトゴーレムに近づく間、木村くんが双月斬っていう、三日月の形をした斬撃を飛ばしナイトゴーレムの視界を塞ぐ。

『光を纏いし光輪の矢、その力を持って、敵を討て、光の弓矢シャイニングアロー!』

 私は、木村くんの双月斬に合わせて、魔法を放つ。
 何本もの光の矢がナイトゴーレムの体に激突し、砂煙が巻き上がる。
 そんな中、秋山くんと雫ちゃんは砂煙の中に飛び込んでいき、2人の剣がクロスした形でナイトゴーレムは斬られた。
 この世界に来て、まだ一週間ちょっとなのに、ナイトゴーレムも斬れるようになるなんて、本当にすごいと思う。

「やったな光輝」
「ナイスガード、龍也」

 秋山くんと田中くんはハイタッチして喜んでいる。
 クラスメイトたちからは、ゴーレムと戦いながら、「すげぇ」と言う声が聞こえた。
 私も雫ちゃんの所に行く。

「愛菜の魔法、すごいね」
「雫ちゃんの方が凄いよ!ナイトゴーレムを斬っちゃうなんて」

 こうしてナイトゴーレム討伐を喜んでいる中、木村くんは顔を顰めていた。

「どうしたの?木村くん?」
「えっ、えっと。あれ、多分まだだと思う」

 木村くんは少しビクビクしながら、崩れ落ちたナイトゴーレムを指差してそう言った。
 すると、木村くんの言った通り、崩れ去ったナイトゴーレムの体は、空中に集まっていき元通りになった。

「はぁ!?」

 田中くんの驚きの声が聞こえた。

「木村くん、何か知ってるの?」
「うん、ゴーレムって言うのは、emeth、つまり真理って言葉がどこかに書いてあるんだ。そして、そのemethの一番最初のeを消してmeth、死んだって意味の言葉にしないとゴーレムは死なない。それは、例えナイトゴーレムだろうと同じと思う」
「わかった、どこか探してみる」

 私は木村くんから聞いたことを全員に伝え、バンバンと魔法を放っていく。
 だが、いくら撃ってもemethの姿が現れない。

「思い出した!」

 木村くんの言葉に、全員が注目する。

「emethは、額に書いてある!」

 その言葉を聞き、全員が自分たちの出せる最大火力のものをナイトゴーレムにぶつけた。

「【身体強化】、剣に雷魔法を属性魔法付与エンチャント!」
「【引き寄せ】!プラス【城壁】!」
「【双月牙】×2」
『光を集いし光輪よ、敵を貫く大いなる道を、勝利へと続く道を示せ、光の道シャイニングロード!』

 私が放った魔法は、敵へと続く光の道を出し、味方を導くサポートの魔法。その道をみんなが通って行く。
 田中くんは【引き寄せ】という自分に魔物の注意を引くスキルを使い、【城壁】でガードをして隙を作る。
 雫ちゃんは、5年は修行をしないとできない属性魔法付与エンチャントを使い、少しでも武器の切れ味を上げるため雷魔法を付与する。属性魔法付与エンチャントは戦いに役に立つと、ルーチェス先生に言われていたので、雫ちゃんは空いてる時間にずっと練習していたから、少し使えるようになった。
 木村くんは【双月斬】の上位のスキルである、【双月牙】を連続で放つ。
 雫ちゃんはジャンプして、ナイトゴーレムの兜に斬り込む。だが、まだ斬れずヒビが入るだけ。そしてそのヒビの部分を狙って、木村くんが放った【双月牙】がすべて当たった。

「【身体強化】、【人類の希望をその身に宿し、勝利へと導かせる者よ、今ここに降臨せよ!聖剣アルフォート】!」

 みんながナイトゴーレムの兜を狙っている間、秋山くんは身体強化を掛けながら、固有スキルである聖剣召喚を使った。

「はあああああああッ!【聖なる道筋ホーリーレーザー】!」

 召喚した聖剣に、自分の魔力を貯め、一気にその魔力を解き放つ【聖なる道筋ホーリーレーザー】。
 これは今の秋山くんが出せる最大の攻撃だ。
 そのレーザーは、雫ちゃんと木村くんの攻撃で壊れた兜から見えるemethの最初のeの部分を貫いた。
 ナイトゴーレムは、崩れ落ちるのではなく、岩の体が砂になった。
 周りを見ればゴーレムとミニゴーレムが倒されている。

「今度こそやったな、光輝」
「そうだな、龍也」

 2人はお互いに背中を当てながら座り込んだ。
 秋山くんが顕現させた聖剣は、光となって消えていく。まだ聖剣を扱う時間は一瞬みたいだ。

「木村くんって物知りだね」
「別に、物知りじゃないよ。たまたま知っていただけだよ。それより多分ミニゴーレムも同じだったと思うし、どうして騎士さんは教えてくれなかったんですか?」
「それは、戦いの中、敵の弱点を見つける知能と観察力が必要だからさ。さて、魔石を取ったら戻りますよ、勇者様」

 はーい、と返事を返し、秋山くんがナイトゴーレムの砂を漁る。そしてその中から、紫色の石が見つかった。
 これは魔石と言われるもので、魔物が動く原動力のようなものだ。どの魔物も、これが胸の部分に入っている。
 ダンジョンを20階層まで攻略した私たちは、帝国に戻るため、脱出用の階段を上っていく。この階段は、ボス部屋などはなく、魔物も現れない、正真正銘、脱出用の階段だ。
 ほかのクラスメイトのパーティーは、私たちの後ろをついてきている。
 数分間階段を上っていると、地上の光が見えた。

「やったー、今日のダンジョン攻略は終了!」
「みんな、お疲れ!」

 秋山くんと田中くんの言葉に喜びの声が続々と上がった。
 そんな楽しい時を過ごしていると、ダンジョンを囲っている森から、「ガサッ」という音が鳴った。
 その音が聞こえた者達は、自分のパーティーにも伝え武器を構える。
 そして、そこから現れたのは。

「ああ!みんな、みんな無事でいたぁぁぁああ!」
「やっと見つかった、こんな所にあったのか、ダンジョンは」

 髪や装備に草や枝をつけ、呼吸が荒れている、日下部花蓮先生と、先生についている騎士さんだった。
「なんだ先生かぁ」、そんな気の抜けた声が聞こえる。

「どうして、日下部先生はこんな所にいるのですか?」
「大事な生徒のもとに居るのが先生ですから!」

 日下部先生は生徒の質問にえっへん、といった強気の様子で答えた。

「いや、本当は貴方のスキルの【調合】に必要な薬草を採取をしている最中迷って、たまたまダンジョン見つけたから、心配だから見に行こー、って言ってたじゃないですか」
「ちょっ、それは言わないでくださいよぉぉ」

 一緒にいた騎士さんの言葉に、先生は弱気な声を出した。
 この声で、全員が、騎士さんの言ったことが本当だと理解した。
 そして、『ああ、日下部先生ってやっぱり可愛いな』と、クラスメイト全員の心が穏やかになり、一致した瞬間だった。

「さて皆さん、ローゼス帝国に帰りますよ!」

 日下部先生は、定刻の方向に指を指し、ビシッと決めたあと、帝国に向かってずんずんと進んで行った。
 みんなはそんな先生の姿を見て、少し笑いながら帰る道を進む。
 10数分歩いていると、森を抜け草原に出て帝国が見える場所まで来ていた。

「ふぅ〜、もうすぐ帝国に着くな」

 誰かがそう言って、全体に安心感が広がり、無駄話をし始めた。
 だが、次の瞬間、そんな安心感は一瞬で消し飛ぶ。

「勇者がこの世界に召喚されたと聞いてきてみれば、ただの小便くせぇ子供じゃねぇか」

 その一言に感じたものは、強力な気配と、大きな魔力、そして一度出会ったベヒモス以上の絶望感だった。
 この場にいる全員が気配のある後ろに振り向く。全員が顔を青白くして、体は小刻みに揺れている。
 全員の視線の先に居たのは、空中に立っている男。額には角のようなものが一本生えている。
 この男を見て、全員が思っただろう。


 この男には絶対に敵わない。

 逃げなければ死んでしまう。


 と。

「逃げろぉぉぉおお!!全速力で走って逃げろぉぉお!!」

 騎士の一人がそう叫ぶ。
 だが、そんな言葉はわかっている。この場にいるだれもがそれを理解していた。
 しかし、動けない。
 蛇に睨まれた蛙のように。
 体がピクリとも動かないのだ。

「何をしている!逃げるんだよ!」

 何とかして体を動かそうとするが、足が重く、何かに掴まれているように動けない。
 騎士の言葉が遠のいていく。
 すると、自分の体が浮いたように感じた。
 それでハッと目を覚ます。自分とほかの勇者パーティーのみんなが騎士の人に背負われて、帝国に向かって全力で走っていたのだ。

「止まって!止まってよぉ!!クラスメイトは、クラスメイトはどうするんですか!?」
「悪ぃな、聖女さん。勇者パーティーの皆さんが最優先だ」

 私の言葉は届かず、クラスメイトたちがどんどん離れていく………。
 残りの騎士さんはクラスメイトたちを守るように囲っている。
 そう思い、目を瞑っていると、自分を背負っている騎士さんが急に止まった。
 目を開けると、目の前に数千の魔物に、空中に立つ男。

「逃げるってのはよくねぇな」

 男はそう言葉を発した瞬間、一瞬男の姿が消え、次に現れた時、男の手には5つの兜を被った人間の頭があった。
 それがなんなのか、わかるのに時間がかかった。
 男が持っている兜を被った人間は、私たちを背負ってくれていた騎士さんの頭だった。
 騎士さんの体はゆっくりと斜めに倒れていった。

「うわぁぁぁああああ!!」

 木村くんの叫びだ。
 その声が聞こえたのか、後ろからクラスメイトたちが近づいてくる。

「大丈夫ですか!?」

 日下部先生が声をかけてくる。

「ほぉ、人間にこんな女がいるとはなぁ。よし、決めた。お前とそこの後ろに髪を結んでいる女、お前らを俺の妻にしてやろう」

 空中に立っている男は、私と雫ちゃんを指差してそう言った。

「ふ、ふざけんなぁぁあああ!」
「誰がてめぇみたいな奴にやるかぁぁ!この2人は俺たちに必要な存在なんだよ!」
「【人類の希望をその身に宿し、勝利へと導かせる者よ、今ここに降臨せよ!聖剣アルフォート】!」

 秋山くんはすぐに聖剣を召喚するための詠唱をした。

「ああああああああッ!!【聖なる道筋ホーリーレーザー】!!」

 今の秋山くんの中で最強の攻撃を放つ。
 しかし、男は秋山くんの攻撃を欠伸をしながら手で弾いた。

「俺の言ったことは絶対だ。死にてぇのか?」

 男は一瞬にして秋山くんの目の前に現れ、そう言い放つ。
 自分たちの中で最強の人の、最強の攻撃が簡単に弾かれてしまったということがわかり、さっきまで感じていた絶望感が、一気に膨れ上がった。

「私の生徒は貴方のような人に渡しません!」

 そう叫んだのは、日下部先生だった。足を震わせながらも、必至になって頑張っている。

「黙れ」
「きゃぁぁぁあああ!」

 そんな男の一言に言葉を切られた先生は、いきなり悲鳴をあげる。全員が何かと思い先生を見ると、先生の首に蛇が噛み付いており、先生の顔が真っ青になった。

「先生!」

 みんなが先生のもとに駆け寄り声をかけるが返事はなく、私は急いで治癒魔法をかける。だが、先生の顔色はなおらない。

「俺は黙れと言ったんだ」

 男から放たれた威圧は、全員の装備を破壊した。

「あうっ」

 その声がした方を見てみると、雫ちゃんが気絶した瞬間だった。そして、その瞬間を見た時、私の意識が奪われた。


 意識を保ち、残っている勇者の仲間は、男の威圧だけで装備は破壊され、戦う気力をなく、ただその場にいただけだった。

「お前らはそこにいる魔物たちと遊んでおけ」

 男はそう言い残し、この場を去ろうとした。

「おい、そこの奴」
「ああ?」

 しかし、突如現れた一人の男によって、立ち去ろうとしたその足は、止められた。

「その2人を離せ」

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コメント

  • ノベルバユーザー312160

    アルフォート?美味しいチョコのお菓子だよね←

    1
  • ノベルバユーザー282808

    かけええええええ

    2
  • 小説書いてみたいけど内容が浮かばない人

    空中に浮いてる男?強そうですね…

    1
  • ヒグピー

    秒殺フラグが立った

    2
  • 勝長

    壮絶な戦いになる予感...

    5
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