海の声

漆湯講義

194.コトバの真意

先日、村長に"渡し子を諦めるのも仕方がない"と思っていると伝えたばかりであるのに、突然私の耳に届いたその報せに、当然、快く受け入れられる訳が無かったが、後日、日も暮れた中、たった一人で我が家へと訪れたその男の子を見た瞬間、そんな気持ちも何処かへ飛んでいってしまった。
海美の同級生…ただそれだけでは無い。
何か意識の深い所で、自分の娘に重なる感覚がした。
代わりになるのがこの子なら海美も分かってくれるかしら…

そんな気持ちになると、少しだけ心が軽くなった気がした。

そして私はその男の子に娘の想いを託した。

………そんな記憶を思い浮かべながら、私はお見舞いに来てくれた二人に娘がどれだけ渡し子を楽しみにしていたかや、海美が倒れてしまった日のことを話したのだった。


『それであの日…瀧山くんが越して来た年の海神祭の日だったわ』

ワタツミサイ…夏祭りの事か。
俺は海美との思い出を頭の中で巡りながら
、海美のお母さんの言う"一度死んだ"の言葉の意味を探した。
今聞いている限りでは、まだその言葉の答えは出ていないみたいだ。それがそのままの意味なのか、比喩的な表現であるのかはまだ分からない。
海美のお母さんは俺に視線を向けるとまた話の続きを口にする。

『あの日、私も神社に行って、瀧山くんの出番を待ってたの』

俺へ向けられた瞳が微笑むと、罪悪感から"ごめんなさい"の一言が自然と溢れる。

『謝らなくていいのよ、確かにあの時は君の事を悪く思ってしまったけどね、すぐにそんな気持ち消えてしまったから…あの電話で』

「電話…ですか?」

『そう、娘の容態が急変した、ってね…』

「じゃぁその時…」

『えぇ、私が着いた時にはもう…』

そう言って海美のお母さんは再び娘の髪を撫でると、その柔らかなカーブを描く頬を包み込むように手のひらを添えた。








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