海の声

漆湯講義

177.その先に

そして俺たちは最後の一段を踏み上がった。
海美は…何処だッ!!
俺は周囲を見回す。が、海美の姿は見当たらなかった。

『セイジ…海美ねぇは?』

そんな俺を心配の眼差しで見つめる美雨。
その瞬間、俺の胸の奥底から、苦く、酸っぱい様な感情が"つぅーっ"と胸を満たしていく。
間に合わなかった…のか。それとも海美は別の何処かに…

「海美ぃぃぃーッ!!何処行っちゃったんだよッ!!俺たちトモダチだろッ?!そんな…そんな…酷いだろ」

俺は胸を満たした苦いモノを全て吐き出すかの様に叫んだ。それと同時に俺の目から温かいモノがつぅーっと頬を伝う。

『セイジ…』

そして、今まで俺を動かしていた力が穴の空いた風船の様に抜け出していく。それは俺の膝をぐにゃりと地面へと落とし、背中、そして腕の力を奪い去っていった。

『誠司…くん?』

海美の声?
俺は幻聴にも思える海美の声を聞いた。俺が探していた、聞きたかった海美の声を。

『なんで…?どうして?』

俺は再び聞こえたその声にハッと顔を上げた。そして…俺の目に確かに映る海美を見たのだ。

「海…美…」

俺はフラつきながらも立ち上がると、お堂の後ろ側からこちらを見つめる海美へと駆け寄った。

『海美ねぇ…見つけたの?!おいセイジッ!!』

背後に聞こえる美雨の声に返す余裕もない程に、俺は必死になって目の前のその存在を確かめようと手を伸ばした。
指先があと少しで触れる…
そんな時…
"ドスっ"と俺の前面に重い衝撃と甘い香りがふわりと伝わった。

『もう…会えないって覚悟してたのに』

さらさらとした小さな葉音に消えてしまいそうな小さな声が俺の胸へと響く。
そして俺は無言のままに今の気持ちを腕に込め、ギュッとその身体を抱きしめた。





コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品