海の声

漆湯講義

169.祭典のひととき

俺たちは、ひと通りの出店をゆっくりと見て回り、神社へと来ていた美雨のおじさんやタキナカ先生、村長などと話した後、神社の裏側へと周り、膝丈程の石垣へと腰を下ろした。
『セイジっ、どう?』
口の端にたこ焼きの青海苔を付けたままの、何とも馬鹿らしい顔をした美雨が俺を見上げる。
「どうって何が?お前のその馬鹿っぽい顔か?」
俺がふざけてそう言うと、美雨が立ち上がり、俺の顔よりも少しだけ高くなった目線から見下ろして『祭だよッ、バカ!!ってゆーか馬鹿っぽいって何だよバカッ!!』と俺に細く伸びた人差し指を向けた。

「ははっ、お前"バカ"って何回言うんだよっ。で、祭?楽しいよ。ほんと、今までに無いくらい。」

『そっか…あ、海美ねぇは?海美ねぇは楽しいって?』
そう言って俺に話しかける美雨に駆け寄った海美は『うんっ、すっごく♪だって初めてだもんこういうの。今日は思いっきり楽しんじゃおうねっ!…って美雨ちゃんにも伝えてっ。』と俺に振り返った。

それを伝えると美雨はニコッと微笑んで突然両方の手の平を組み合わせた。と思うとその両手を空へと掲げ『海美ねぇが早く元に戻りますよぉーにぃーッッ!!』と、見ているこっちが恥ずかしくなるような大きさで叫んだ。

「おい、恥ずかしいからやめろよ」

『いいじゃん、祭だしッ♪』

俺には"祭だし"の意味が分からなかったが、"やめろ"と言ったものの、俺の気持ちも一緒に代弁してくれたようで清々しい気持ちに包まれた。

空に紅色のインクがうっすらと滲み出すと、本殿の周辺で大人たちが忙しなく動き始めた。

「なんか始まんのかな?」

『ねー、なんだろうね。美雨ちゃんに聞いてみれば?』

俺が美雨に話しかけようとした時。

『見に行く?カミサマの迎水』

ストローを咥え、底に残ったトロピカルジュースをズルズルと吸いながら美雨が言った。


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