海の声

漆湯講義

154.悪戯とシカエシ

俺たちは海美の家へと目的地を変更し、海沿いの道を歩いている。
…海美のお母さん居なきゃいいけど。
そんな緊張感がジワジワと込み上げる俺の横では美雨が楽しげに"海美ねぇの家久しぶりだなぁ♪"と、海側の方を向いて過去の想い出を語っているが、海美がいるのは反対側だ。
俺はその滑稽さに笑いを堪えるのに必死だった。美雨の話が途切れたところで、俺は海美に向かって「だってさ♪」と言ってやった。
それでも尚、自分の間違いに気付かない美雨に「海美が手繋ぎたいってさ♪」と意地の悪い事を言ってみる。

『ちょっと誠司くんッ、私のコトバ捏造しないでよッ!!』と海美に腕を掴まれるも、俺はウィンクをして口元へと人差し指を添える。

『どうッ??海美ねぇと手繋げてる??』

「おう、繋げてるよ。」

俺が笑いを堪えてそう言うと、突然海美が俺の手を握った。

俺は戸惑いつつ「えっ?!」と海美を見ると『誠司くんは美雨ちゃんの手を握ってよね!!』と薄紅色に染まった顔をした海美が俺の肩を押した。

「ちょっと何でだよっ、どーゆー…」

『可哀想でしょ美雨ちゃんが!!だからこうすれば間接的でも手、繋げるから!!』

「ヤダよ恥ずかしい!!」

『海美ねぇ何言ってんの??』

『いいからホラッ!!』と海美に押されて俺の手が美雨の手に触れる。
そしてその手を戻そうとした時、柔らかな感触が俺の手を包んだ。

『海美ねぇがこうしろって言ってるんでしょ??分かるよそれくらい…』

俺はその瞬間、腕が俺の一部でないような感覚に襲われる。

なんだよこの状況…

俺は両手に握った手に視線をやると、顔だけが太陽に近づいてしまったように熱くなってくることに気づく。

『みんな仲良しだねッ♪ふふ♪』

一人嬉しそうな海美と顔を下に向け足を進める二人の間を生温い潮風が通り過ぎていった。


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