海の声

漆湯講義

148.心配のタネ

『花火、一緒に見たいなって。』

予め用意されていた言葉のようにすぐに出たその答えは、思っていたよりもずっと簡単なモノだった。

「そんな…コトでいいの??」

『うんッ、だって私がずっとしたかったコト、もう一杯叶ったから。』

「えっ、そうなんだ。…例えば??」

『それはいいのッ、だって恥ずかしいもん。だから強いて言うなら花火が見たいくらいしかないの。』

海美の叶ったしたかったコトって何だったんだろう。特に何もしていない気がするけど…海美が俺たちの居ないところで少しずつ"やりたいコト"してたのかな。
ま、花火見るってのは最初から決めてたコトだし、渡し子ってやつ終わらせたらみんなでゆっくり見ればいいよな。

「てか、身体はもう大丈夫なの??」

『うん…あの時急に力が抜けちゃって、気付いたらそこに寝てて、身体は何ともないし…疲れてたのかな??けどもうホントに平気だよッ♪あの…運んでくれてありがとね。…重くなかった??』

「いや、あん時は必死で重さなんて考えてる余裕無かったし、まぁ…何ともないならホント良かった…けど暫くは出掛けずにゆっくりしたほうが良さそうだね。」

安堵したところで急に空腹感が顔を覗かせてきた。同時に小動物が鳴くような可愛らしいお腹の音が海美から聞こえる。
「晩御飯、持ってくるね。」
ホントは一分一秒だって海美から目を離したくは無いけど、あんなんなったのに晩御飯取り行くのにわざわざ着いてきてもらうワケにもいかず、恥ずかしそうに謝る海美から視線を剥がし取り部屋を出た。

キッチンへ入るとリビングのソファーからジットリとした視線を感じる。

「晩御飯もらってくね。」

『え、アンタ部屋で食べるの??…まぁいいけど何か悩み事あるなら何でも言ってよね。私達はアンタの親なんだから。』

いきなりなんだよ…と思いつつ、少し前の
自分の態度を思い出し納得する。
つってもこんなコト相談できねーよ。

「ありがと、でも解決したから心配しなくていーよ。それじゃぁいただきます。」

そう言って"変な罪悪感"みたいな気持ちに包まれつつ俺は急いで部屋へと戻ったのだった。

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