海の声

漆湯講義

141.ボクの穴場

そんなに古くない転落防止の手摺がぐるぐると設置されたバスケットコート程の敷地。そしてその中心にぽつんと置かれた小さなお堂には、背面の樹々が開けたところから夏の陽射しが燦々と降り注いでいる。それはまるで…この小さなお堂に住む神様に後光が差しているようだった。

『すっごいいい眺めー♪』

そう言って海美が崖の角に立てられた手摺へと駆け寄る。

「海美危ないよっ!!」

海美は、そんな俺の言葉など耳に入っていない様子で、手摺から身を乗り出し目の前に広がる沖洲の自然を眺めている。
ったく…海美も落ち着いてるようでまだ子供なんだな、って俺が言える立場じゃないか。

「それにしてもめっちゃ景色いいじゃん。」

『でしょ??』

そう言って美雨は鼻の下を指の背で擦る。

『ここねぇ、ゼッタイ祭りの花火よく見えるよっ♪』

その会話に海美が反応して目を輝かせながらこちらを向く。

『ホントっ??楽しみぃー♪へぇー♪』

「何でそんな事分かんの??どこで花火上げるなんて知らないじゃんっ。」

俺がそう言うと美雨は被ってもいない帽子のツバを指で押し上げて自慢げに言った。

『その手の人物から情報を得たのだよ。』

「それおじさんだろ、どーせ。」

『んにゃっなんだよ、ほんとツマンナイ!!』

そう言って"エア帽子"を地面に叩きつけると、『あそこで花火上げるんだって♪たぶんここ穴場だよきっと♪』とまた無邪気な笑顔を見せる。

『けど沖洲のヒトならココ知ってるんじゃない?混みそうだなぁ…』

海美の心配を"通訳"しようとした時、『しかも当日は地元の人もここには近づかないからダイジョーブだッ!!』と俺に腕を伸ばし、ピンと親指が立った。

「えっ、なんで??なんかあんのココ…」

純粋な疑問だろ。地元の人すら近づかないってなんかありそーじゃん。なんかすごい古いお堂だし…

『知ると後悔するぞ??むふ♪』

…むふ??いや、後悔?!「言えよ!!めっちゃ気になるし…」

すると美雨がニヤニヤしながら口を開いた。


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