海の声

漆湯講義

140.階段の先

『あっ、トモダチとしてだよトモダチッ!!美雨ちゃんも好きだし!!』
頬を染め、慌てた様子で弁解する海美を見て、ホッとするような、落胆するようなよく分からない感情が胸を巡る。

「びっくりしたぁ!!まぁ分かってはいたけどさ…」俺は笑って自分の感情を誤魔化すと、自分に言い聞かせるように「海美が俺たちのコト好きってさ。」と美雨に話した。

『ちょっとぉー、恥ずかしいって!!』

「えぇー??だって海美が言いだしたんじゃん!!」

女同士ってそういうのは社交辞令みたいなもんじゃないの?母さんもよく近所のおばさんに"いつ見ても綺麗ですねぇ"とか"ホント羨ましいわぁ"とか言っているのをよく聞いたし。まぁ…俺は口が裂けても"好き"なんて言葉を女の人に掛ける事はないと思うけど。

『あっ階段見えたよ♪意外と近かったね!!』

海美の声に前方へと視線をやると、左手に長い石組みの階段が伸びているのが見えた。

前に海美を見つけた神社に比べればまだマシだけど、やっぱり苔やシダの葉が生い茂っている。

「こんなとこでやんのか…足滑って転ぶ人とかいそうだよな。」

『違う違う、そっちは小さなお堂があるだけ!!あっ、そうだ、ちょっと来て♪』

美雨はそう言うと何かを思いついたように石組みの階段をスタスタと駆け上がっていく。

俺は海美と目を合わせ、"なんだろう"と首を傾げ、その後を追って階段を上った。

長い長い階段が終わりを告げ用とした時、『ジャジャーン♪』という美雨の声と共に俺たちの目の前に映ったもの…
それは夏の陽射しを反射してキラキラと輝き眼下に広がるビー玉みたいな大海、そしてそこからぐんと一面を覆う澄んだ夏の空だった。



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