海の声

漆湯講義

135.誤解?

『せっかくだで好きなもん食べや。』

おじさんはそう言って車を降りて行く。

『セイジ良かったなっ♪ここめっちゃ美味いんだ!!…海美ねぇにも食べてもらいたかったケド。』

「何とかして海美も一緒に食べよっ!!」

そう言って海美に顔を向けると、少し元気が無い様子で『あ…うん。けどあんましお腹空いてないかも。』と小さな笑みを浮かべた。

「海美も食べるって!!なっ、せっかくご馳走になるんだからさっ♪」

『そっか♪オススメはねぇー…』

店内に入るとカウンター席におじさんが座って、店主らしきお爺さんと雑談していた。

『お前たちはそっちでゆっくり食べなさい。』

おじさんの気遣いだろうか。俺たちはカウンタの反対側に3つだけある座敷へと上がる。

『これで海美ねぇもなんとか食べられそうだなッ♪』

『沖さん、特上定食2つ、1つは大盛りにしてやってくれ。』

おじさんがお爺さんにそう言うと、『なんでぇ、美雨ちゃんのボーイフレンドけぇ?』とお爺さんがニヤニヤした顔で小さく言っているのが聞こえてくる。

なんでそうなんだよっ、特上定食ってのは楽しみだけどさ。

おじさんがなんて答えるのか聞き耳を立てていると、『美雨がそう言うのだからそうなるな。』なんて言っている。

「はぁ?!どういうことだよっ!!」と小さく声を上げ、美雨を見ると、『言葉の誤というか成り行きというか…しょーがないじゃん。』そしらぬ顔でお冷を啜っている。

『えっ?!誠司くん美雨ちゃんと付き合ってるの??』

驚いて唖然と俺を見つめる海美に"んなわけねぇじゃん!!だって美雨でしょ?"と小声で言うと"ガンッ"と音を立てて一枚板の座卓に美雨のコップが置かれた。

『聞き捨てならんッ。』

「冗談に決まってんだろばーか。」

俺がそう言うと美雨は"えっ"と仄かに頬を染めた。





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