海の声

漆湯講義

130.言い伝え

村長が話したのは、この島の人口、特に若い世代が次々と島外へと出て行ってしまっている現実。
シニア世代ばかりが島に残ってもこの島はいずれ"無人島"と化してしまうと懸念されている事実。
そしてリゾート開発によって生まれる莫大な収益と若年層の雇用枠、それに伴う若い世代の定住見込み世帯数の増加。なんだか難しい話ばかりだったけど、そんな未来の話なんて関係ないと思っていた俺の意識を変えるには充分過ぎる内容だった。

建設予定の娯楽施設を聞いては"はしゃぐ"美雨とは打って変わって真剣な眼差しで村長の話を聞く海美。

たぶん、表情から察するに海美の気持ちにも大きな変化があった筈だ。

ひと通りのリゾート開発についての話を聞き終わる頃には時計の両針が真上を少し過ぎたところだった。

『まだまだ話し足りんなぁ…こんなに真剣に私の話を聞いてくれるとついつい喋ってしまう老人の悪い癖ですわ。』

そこで海美が"ハッ"と気づいたように俺の肩を叩く。

『私のコトっ!!聞いてないッ!!』

やべぇ、そうだった。元はと言えばそれが本題なのに。

「あの、もう一つ聞きたいんですけど…」

村長はニコニコとしたまま片方の眉を上げた。

「あのー、変なこと言いますけど、この石って何か不思議な力とか、そういうのあったりするんでしょうか?あのっ魔法とかそういうのじゃなくても古くからの言い伝えとかなんかその…」

『海の声が聞こえたのか?』

その"意外な答え"に俺は少し前のめりに「海美の声?」と返事をする。

『そう、沖洲の海の声だ。』

俺は息をのみ言葉の続きを待つ。

『いやすまんね、この歳になると信仰深くなってしまってこの島の言い伝えやなんかも信じたくなってしまうんですわ。』

「その言い伝え…聞かせてもらえませんか?」

『この爺に話をさせると長くなるぞ?』

村長はニヤリと微笑みお茶を口に含むと、物語を語るように静かにその口を開いた。





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