海の声

漆湯講義

120.どっち?

「そっか、美雨は寂しかっただろうな。俺の親は俺の心配ばっかで、逆にそれがめんどくさかったり"ウザいなぁ"とか思ったりもしてたけど、幸せだったんだな俺。でもさぁ、おじさんも美雨が心配じゃなかったらわざわざこっちに住んで一緒に暮らしたりするかなぁ?」

『それは…仕方無くだよきっと!!身内がおじさんしか居ないんだもん!!それも周りの目を気にして…』

「そんな事ないんじゃねーの?俺がもしおじさんの立場だったらそこまでしないと思う。だっておじさんだってその島で仕事してたんだろ?その島の知ってる人達と別れて、仕事まで辞めてここまで来るって、周りの目を気にするだけじゃなかなかできないんじゃない?俺の父さんだって言ってた…ってまぁ、母さんと話してたの聞いただけなんだけど、"新しい土地や職場に慣れるのは、俺が子どもの頃転校した時よりもフクザツで大変だよ。誠司の為じゃなかったらできなかった"って。」

ん?俺の為?あん時はあんまり気にしてなかったけどどういう事なんだろ…

『でもッ…それまで別にあのヒトと会ったりしてた事も無いし、ボクもいい子じゃないしッ…とにかくッ!!あのヒトは心配なんてしないって!!』

『誠司くんって意外とオトナなんだねッ♪』

「えっ?!何?何でっ?!」

『えっ?何でって…』

「あっ、違う!!美雨じゃなくて…」

『分かるよーに言えよッ!!』

「っていちいち喋るたびに名前付けて言えってのかよメンドクセー!!」

『だったらボクの方見て海美ねぇと喋んなし!!人の目見て話せって教わってナイの??』

「あーはいはいっ、分かりましたよッ!!こっちは真面目に相談乗ってやったのに。」

『乗って"やった"って何だよ!!こっちは話して"やった"の!!』

『ふふッ♪喧嘩するのは仲のいい証拠だよっ♪』

美雨に聞こえるように態とらしく大きな溜息を吐き、月明かりが煌めく海に目をやった。
遠く海原の方に船の小さな光がひとつだけそっと揺れている。それはまるでこの島に置き去りになってしまった俺たちのようだった。









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