海の声

漆湯講義

112.葛藤と答え

自動ドアを抜け、広いロビーが目に飛び込んでくる。そして面会受付で海美の入院する部屋を聞くと、エレベーターを待った。

『おいっ、海美ねぇ大丈夫かっ??』

美雨に裾を引っ張られ、海美の顔を見る。

『私は大丈夫、大丈夫だよッ♪だって自分の身体に入るだけでしょ??別にうまくいかなくたって死んじゃうワケじゃないし…そうだよね?きっと。』

笑顔を作る口元が強張っているのが分かる。そうなんだよな…こんなことやってどうなるかなんて分かんないし。
えっ…もしコレで海美がどうかなったら…
そう思った瞬間、急に恐怖が押し寄せてきた。
もし何かあったら俺のせいだ…
やっぱりやめる?けど…海美は?海美はどうしたいんだろう…もしかして俺が無理矢理連れてきちゃっただけなのか?
そんなんでもし…

『セイジッ!!何やってんだよ。とっくにエレベーター来てるぞー!!』

「あっ…ごめん。」

俺は頭に黒いモノがぐるぐると渦巻くままエレベーターへと乗り込んだ。

頭上の数字は俺の気持ちと裏腹にどんどんと移り変わっていく。
"ピーンッ"
とうとう目的の階へと到着してしまった。

エレベーターのドアが開いた時、手に柔らかな感触が伝わった。

海美…?

そこには俺の手を握り微笑む海美が居た。

『怖いけど頑張るよ、私。』

そこで俺は思った。"1番怖いのは俺じゃない、海美なんだ"。

俺はグッと歯を食いしばり大きく息を吸った。

「大丈夫ッ、俺たちがついてるから!!」

海美の手が俺の手をギュッと握ると、『うんッ。』という言葉と共にスッと離れていった。

俺が狼狽えてどうすんだ、少しでも海美を不安にさせないように頑張らないと!!

…廊下の突き当たりの部屋の入り口。
"赤嶺海美 様"
そこに海美の名前があった。

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