海の声

漆湯講義

111.到着

『コ、コイツはただのお兄ちゃんなのでッ!!そーゆーんじゃ無いんで!!』

お兄…ちゃん?!って何だよッ!!なんだよッ、俺バカみてーじゃん!!

『あらヤダ、ごめんなさいねぇ!!あんまりお似合いだったから、ってそんな事言っちゃいけないわねっ、ほんとヤダわぁ♪ごめんねぇ!!あ、バス来たわっ、今日は時間ピッタリね。いつもは…』

喋り続けるおばさんの話を右から左へと流して俺は美雨に「なんだよそれっ、可愛くねぇ妹ッ。」そう言ってバスへ乗り込んだ。

席に座ってからも一向に手を離そうとしない美雨に、もしかしたら俺と一緒で離すタイミングが分からないだけなのかと思い、俺から声を掛けてやることにした。

「おい、いつまで手握ってんだよっ…」

これでいつもの美雨なら"ヘンタイ"だの"バカ"だの文句を付けて手を離す筈だ。

『嫌なのかよっ…』

「はっ?いや…別に嫌では無いんだけど…」

何言ってんだよ、美雨も俺も。

すると頬杖をついて窓の外を眺めていた美雨の目だけが俺を見た。

『どーせ海美ねぇの気遣いで無理に繋いでるだけでしょ?』

あまりに図星な一言に俺は海美と顔を見合わせた。

『バレちゃってたね、あはは♪美雨ちゃん意外と勘いいからなぁー。』

『まぁいいやっ、ハイッ。』

美雨がそう言うと俺の手から温かな感触が離れ、湿った手のひらに車内の冷気が当たりヒンヤリとした感覚が伝わる。

"次は竹島病院前、竹島病院前です。お降りの方は…"

美雨は降車ボタンを押すと、俺の隣の方へ
『次だよッ、海美ねぇ頑張ってね。』と笑顔を見せた。

『うん…大丈夫ッ、頑張るッ。美雨ちゃんに伝えて"私、頑張るから"って!!』


病院へ到着しバスを降りると、広い駐車場通って入口へと向かった。病院に来るのは"あの時"以来だな…




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