海の声

漆湯講義

108.○○なヒト

海鳥の声と船の音だけが辺りを包んだ頃には、もう沖洲の島は一つの緑色の点になっていた。

『綺麗だねぇ…本当に綺麗。やっぱり私は沖洲が好き。』

潮風に靡く長い髪に見惚れていると、船内から美雨が姿を現した。

『なぁセイジ、海美ねぇがずっと返事してくれないんだけど寝ちゃったのかなぁ?』

俺が口を開こうとすると、海美が口元に人差し指をあて、ウィンクを飛ばした。

「あ、海美は…うん、寝てるみたいだなっ
…」

『やっぱりそぉかぁー…じゃぁヒマだし、セイジの話し相手になってやろーかな。』

美雨はめんどくさそうにそう言いつつこちらへやってきて、海を背に俺の横へと並んだ。海美は寝ていることになっているが、実際は美雨の隣で海を眺めている。海美が海を…つまんなすぎてシャレにもなんないな。
美雨はそんことも知らずにそっと口を開いた。

『海美ねぇはね、ホントはすごい不安だと思うんだ。だからボクとセイジで助けてあげなくちゃ。』

案外コイツも気づいてんだな、なんて考えつつも俺は"あぁ、そうだな"と答える。
風に靡く肩ほどまで伸びた髪が美雨の表情を隠し、美雨の感情が読み取れない。

『あのさぁ、海美ねぇが元に戻れたらセイジはどうしたいの??』

「どうって…昨日もそんな事言ってたよな?」

『あれはアレッ、今聞いてるのは元に戻ってどうしたいかだからッ…!!』

俺にはその言葉の違いが良く分からなかったが、特別どうしたいかなんて考えていなかったから俺は頭を悩ませた。

「そんなの別に、普通にみんなで遊ぶ…みたいな?よくわかんねーよそんなん。」

『じゃぁさぁ、セイジは今………ヒトいる??』

タイミングよく現れた海鳥が鳴いたせいで肝心な部分を聞き逃してしまったが、そのニュアンスからすると、もしかして"好きな"ヒト??




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