海の声

漆湯講義

104.出発

窓のすぐ側から聞こえる蝉の声に目を覚ますと2人は既に身支度を終え"筆談"をしているようだった。

『セイジおはよ!!おっそいなぁー、やっと起きたよ。』

おいおい誰のせいだよ…ったく結局全然寝れなかった。

『誠司くんおはよ♪今日はヨロシクねッ。』

「おはよ、俺こそよろしく。うまくいくといいな。」

母さんの用意してくれた朝食を部屋で食べた後、母さんに一言"この前話したトモダチのお見舞い行ってくるから多分遅くなる"と告げてから家を出た。
万が一帰りが遅くなった時にまた探し回られても困るしな…

「ってか今更だけどどーやってフェリー乗り場まで行くの??」

『はぁ?知らないの?バスあるじゃん。』

『そーそー、バスだよバス♪』

バス…?俺はこの島に来て一度も見たことが無いんだけど…

『まぁ1日に1本しか走ってないからまだ見たことないかもねぇ。ボクだって見ること少ないし。』

「それってどんだけ田舎なんだよ…てかバス停すら見たこと無いんだけど。」

すると美雨が立ち止まって朽ち果てたベンチを指差した。

『コレ。バス停。』

道端に置かれた、座ることすら躊躇するようなこのベンチが…バス停…なのか…
なんか小ちゃいきのこ生えてるけど…

『バスまだかなぁ??なんか楽しくなってきちゃうよね♪』

「ま、まぁね。もしかして海美ってバス初めてなの??」

『だってずっと外出たことなかったし…けどね、窓からバスは見てたんだよっ♪』

こういう話を聞くたびに、海美が寂しそうにベッドから窓の外を見つめる様子を想像してしまう。
もし今日海美が"元に戻ったら"本当に今までのように外へ出たり俺の家に行ったりして遊ぶことができるのか…そんな不安すら覚える。

「ねぇ、海美は"部屋にいた頃"と"今の状態"ってどっちが幸せ??」

俺は突然そんな事を聞いてしまう。どっちが"幸せ"かなんて恥ずかしい事聞いちゃった…

すると海美は"うーん"と少し悩んでこう言った。


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