海の声

漆湯講義

101.俺の願い

『さっ、髪乾かさなきゃなっ♪セイジっ、ドライヤーある??』

なんだったんだよ今の…
呆然とする俺に対し、美雨は何もなかったかの様に平然とした態度だ。
これもまた"いつもの悪ふざけ"だったのかと、「今持ってくるから待ってろよ。そういえば海美も髪乾か…すんだよねっ?髪に付いた水分とかなんで見えねーんだろーなぁーあははは♪」なんて言って、今だに早まったままの鼓動を無理矢理落ち着かせた。


ドライヤーの音が室内に響いている。母さんの使わなくなった姿見鏡の前に座り込んで髪を乾かす美雨は妙に上機嫌で、鼻歌交じりに時折変なポーズをしている。それを横目に海美と"これからの事"について話した。

『とにかく、この島にリゾート施設なんて私はイヤなのッ!!』

「それはわかるんだけどさぁ…やっぱり俺たちだけじゃちょっと無理あんじゃないかなぁ…」

『そんなコト…あるかもしれないけどないのッ!!普通の中学生には無理かも知れないけど、今の私は普通じゃない…し?』

そんな困った様な笑顔で返答に困る事言わないで…そう思いふと美雨の方に目をやると、鏡越しに目が合った。
俺は慌てて視線を逸らし、海美との話を続ける。

「海美が見えないのを上手く利用してどうにかなんないかって事??」

『そうそう♪だって今の私に出来ることってそれしかないんだと思うの。せっかくこうやって不思議な力?っていうのかな、こんなコトになってるんだし、神様がその為に私をこうしたんじゃないかなって思い始めてさ。』

「そのコトなんだけどさ…」

俺は海美がふと零した"あの言葉"を聞いた時に思った事を思い切って言う事にした。

「俺は…その、別にリゾート施設を中止させる事がどうでもいいわけじゃないんだけど、俺は…その…今みたいなのじゃなくて…」

『えっ、なぁに??よくわかんないよ♪』

そう言って海美の顔が近寄ってきた。
なんて言えばいいのか分からなくて、だけどしっかりこの気持ちを伝えたくて、俺は…

『海美ねぇに元に戻ってもらいたい。違う?』

気付くとドライヤーの音は消え、静かな室内には微かに聞こえる波の音だけが月が照らす窓の外から届いていた。






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