海の声

漆湯講義

90.提案と功績

『セイジくん、海美ねぇは見えない。分かるかね?』

完全に"何か"になりきっているドヤ顔が、なんか…ウザいわ。

『だが、海美ねぇが触ったモノは浮かんで見える。そうだね?ワトソンくん?』

…うわ、コイツが何やってんのか分かったわ。だけどめんどくさいからスルーしよう、うん。

「どうでもいいけど何だよ?」

『って事は海美ねぇに服を着せればボクにも見えるんじゃナイッ???』

美雨がキラキラと目を輝かせてピンと伸ばした人差し指を俺に突き立てる。

「確かにッ!!お前、天才じゃん!!」

たまにはまともな事言うじゃん!!確かにそれなら美雨にも海美の行動が分かる!!

『ん…?ちょっと待てよ?…ってコトは海美ねぇは今、裸ってコトなのかァッ?!どーなんだよセイジッ!!答えによっては浮気だぞッ!!』

興奮状態の美雨によって勢いよく俺の服の胸ぐらが絞り上げられる。
俺は呆れて力なくぶら下がった手で美雨の頭をふわりと叩いた。

「海美はちゃんと服着てるっての。じゃなかったらその…俺もまともに…見れねぇし。大体浮気って何だよ?俺とお前は恋人か?」

すると服の締め付けが緩んだ。

『そんなんじゃナイ。あと、服着てるなら問題ナイから…』

ったく変なヤツ。

「俺の服着てみる??」

俺が尋ねると、海美は嬉しそうに頷き、『着てみるッ!!』と答えた。

早速シャツを取り出すと、海美の小さな肩へと掛けた。

『おぉーッ、海美ねぇッ!!分かるよッ♪海美ねぇが分かるッ♪』

そう言って美雨が海美の元へと駆け寄って行き、その勢いのまままま海美へと抱きついた。と、同時に美雨の目から零れた雫が海美の羽織った服へと染み込んでいく。

『海美ねぇ…海美ねぇだ。分かるよ、ボク。』

海美の目は、夕陽を映す透き通った湖面のようにオレンジ色の光を反射させている。
その姿を見ていたら、なんだか俺まで涙腺が緩んでしまいそうになった。

『私も…分かるよ。』

海美の声が小さく響いた。

「アレッ?!なんで触れてんの?!」

俺は、ふと頭に浮かんだ疑問を口にしていた。『そんくらい、コップのコトから分かるだろッ!!』美雨の微かに震えた小さな声が海美の懐から聞こえたが、俺にはよく分からなかった。どういうコトなのか詳しく聞こうとしたけどやめた。今、2人の邪魔はできないって思ったから。


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コメント

  • 漆湯講義

    ありがとうございます(。>ω<。)ノ
    感想嬉しいですッ!!!(。TωT。)

    0
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