海の声

漆湯講義

81.ニュース

「病院行きたいんだけど…送ってってくれないかな。」

俺がそう言うと母さんは少し心配そうな顔になる。いつもは口煩い母親でもやはり"母親"なのだ。自分はいくら体調が悪くたって"母さんは大丈夫"なんて言っている癖に、俺の事となるといつも"この顔"をするのだ。

『あんたどっか悪いの??』

「いや、お見舞い…みたいな?」

『それって…』

俺は母さんの口から出ようとする名前に気付き、慌てて言葉を返す。

「母さんの知らない…その…"トモダチ"。」

すると母さんは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに柔らかな表情へと戻り、『いいわよ♪何処の病院??』と優しい声を返してきた。

何処のって…そういえば聞いてない。

「多分ここらへん…かな?」

『ここら辺ってドコよ?この島には診療所くらいしか無かったと思うけど。』

「じゃぁそこの診療所…じゃないかな?」

『ちょっとなんでそんなに曖昧なのよー。誰かに聞けないの??美雨ちゃんの知り合いならちゃんと美雨ちゃんに聞いてからにしなさいよ。』

確かに美雨なら知ってるよな…
俺は"そーだねー"と簡単に答えると、テレビを付け、ヒンヤリとしたソファーに横になって海美たちの話が終わるのを待つ。

ふと窓の外を見ると、先程の照りつける陽射しが姿を隠しどんよりとしたグレー色に変わっていた。

つまらないテレビショッピングが終わりコマーシャルへと移り変わった時、遠くの方から数えきれない程のマーチングタムオンリーの大行列が近づいてくるような音が家中に響いた。
その音はすぐに俺の家を包み込み、この家が激しい雨の中にいる事を理解する。

『すごい雨ねぇ…』

なんて言いながらも母さんは淡々と夕食をテーブルの上に並べている。
その時、テレビの画面に見慣れた風景が映し出された。







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