海の声

漆湯講義

68.理由(ワケ)

「まぁ…もうすぐって言ってもあと2週間くらいだけど。」

『すぐだよ。2週間しかないんだよ?』

特に楽しみって訳でもないからか、2週間という日数はかなり先の事と思えた。

「まぁ…というか"渡し子"ってなにやんだろ。練習とかそういうの何にもしなくていいのかなぁ?」

『まぁ…ただ神主さまに海石を渡すだけだからね。だけど、がんばるんだよっ?』

それはそうだけど…
それよりも気にかかるのは海美の態度だ。

「わかってるよ。てか…なんか元気ない?どうかした?」

『そう?私はいつも通りだよ♪…でもなんか怖いのかも。』

「えっ、何が?」

『ううん、多分私の考えすぎだから。気にしないで♪』

そう言って見せた笑顔はなんだか寂しそうで…俺はその時、"海美が心から笑ってくれるように力になりたい"そんな感情が芽生えた。
海美が喜ぶような話題を探したが生憎そんな話題を俺が思い付くワケもなく…海美と共通の話題とかないかなぁなんて考え始めた時にふと浮かんできたのが美雨の顔だった。

「あ!そういえば美雨って知ってるよね?」

『えっ、美雨ちゃん?なんで?』

俺の口から出たその名前に海美は目をまん丸くした。…まぁそうだろうな、俺もまさかたまたま会ったアイツが海美と仲がいいなんて思わなかったし。

「この前色々あってさ、ちょっとだけ…仲良くなったんだよ。"海美ねぇ海美ねぇ"ってうるさかったからさぁー。」

海美に自然な笑顔が戻った。俺の緊張がふっと解け、俺にも自然と笑みが零れた。

『ふふ♪そーなんだぁ、意外っ♪美雨ちゃん可愛いでしょ?私の大切な妹なんだから♪』

そう言って海美は満面の笑みで天井を見上げた。やっぱりこっちの方が好きだ。いやっ、好きって言ってもそういう訳じゃない。こっちの方がいいって意味で!!

「可愛くなんてねーよー…生意気だし、口は悪いし、あいつ自分の事"ボク"なんて言うから最初男だと思ってたしさ!!」

『えぇー?そんな事ないよっ、美雨ちゃんは優しくて可愛くて一緒に居てすっごい楽しかったもん♪まぁ…ボクって言うのは昔からだからっ、それも可愛いでしょっ?』

「そうかなぁー…まぁいいやっ、そーいえばさぁ、海美は最近美雨とは会ってないの??」

すると海美は急に笑顔が消え、少し元気が無くなったように見えた。

『うん…会いに行ったんだけど、美雨ちゃんとは話せてないんだッ。』

「そう…なんだ。あ、それじゃぁ今から会いに行こーぜっ♪あいつも海美に見せたいもんあるみたいだしさっ♪」

『ダメだよ…それはできない。』

「え…なんで?」

『ダメなのッッ!!私…できないのッッ!!』

俺に訴えかけるようなその瞳には涙が溢れ、ブラウスの裾をギュッと力強く握った両の拳を見て、俺は尋常ではない何かを悟ったのだった。

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