海の声

漆湯講義

52.美雨ルート

美雨と海岸沿いの道を歩いている。容赦なく降り注ぐ夏の日差しが暑い…いや、痛い。

「お前さぁ…」

『なんだ東京モンっ。』

「るせーよ。俺は誠司だッ。ま、なんでもない。」

『はぁ?意味わかんない。言いかけたなら言えよ!オトコだろ?』

なんだよそれ。

「ったく…お前さぁ、笑えば可愛いんだからムスっとしてばっかじゃなくてニコニコしてみりゃいいのに。」

威勢のいい返事を期待していた訳ではないが、急に静かになってしまった美雨に目を向ける。

「え?なに?」

『何でもないッ!!』

少し歩いて行くと崖の下に何隻かの船が停まっているのが見えた。
そこから崖までは広くコンクリートに舗装され、トタン屋根の大きな開放的な建物が2つほど並んでいる。

『あそこが沖洲漁港。アレが坂下さんの船であっちのが宮本さんの。』

「へぇー…詳しいんだな。さすが島民。」

『ま、まぁね♪ボクもよく…いや、島の人ならみんな知ってる。』

「なに?よく漁とか出てたとか??」

『…別にカンケーないだろ。』

またこいつ"カンケーない"とか。口癖か?
まぁ会ったばっかだし関係ないってのもその通りなんだけどな…

すると漁港から声が聞こえた。

『おーい!!美雨ちゃん!!今日も来たんけー?ちょうど生きのいい魚いっぱい揚がったでちょっと食ってきな!!』

下を見下ろすと真っ黒に日焼けした、ねじり鉢巻のおじさんがこっちに向かって手を振っていた。

『…しょんないなぁ、せっかくだしオマエにも沖洲の味でも食べさせてやるヨ。ほら、こっち。』

そう言って美雨はガードレールの隙間を抜け、急な崖を軽快に下り始めた。

「おい、こんなとこ降りんのか??」

『置いてくぞー、オトコならついて来いッ!!』

ったく島民の近道かこりゃ…うわっ、怖…
しょんねー…行くか…

…うわっ!!


「ってぇー…うまく降りられてたんだけどなぁ…」

最後の所で躓いて派手にすっ転んでしまった俺を美雨と漁師らしき人がニヤニヤと見下ろす。

『大丈夫か少年っ!!あそこは美雨ちゃんの特別ルートだかんなぁ。島のガキもあんま使わねぇんだ。ははは!!そこまで降りれりゎ大したモンだ!!』

「美雨てめぇー…痛っ…」

『ま、ギリ合格にしたげるよ。カッコ悪かったなオマエ♪』

一言文句を言ってやりたかったが、全身の痛みで、美雨を睨みつけてやるくらいしかできなかった。
すると仰向けになった俺に向かって美雨の手がそっと伸びてきた。

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