海の声

漆湯講義

46.朝活

    いつもより早く目が覚めた。一階のキッチンからは母さんの朝御飯の準備をする音が聞こえている。窓の外はまだ薄暗く、遠く水平線の方が僅かに光り始めていた。
俺は薄暗い天井を見つめてぼーっと考えていた。
海美…なんで黙ってたんだろ、俺に気遣ってるのかな。いいや、直接聞けばいい事だし、アイツ今日も海に来るかな?

朝から昨日の事を考えつつ一階へと階段を降りて行く

「おはよ。」

『あら、おはよう。珍しく早いわね。デート?』

ここまでシツコイと言い返す気にもならん。

「母さん仕事は??」

俺は、あえてそんな事を聞いてみる。勿論"いつになったら昼間に1人、母さんの茶化しを聞かずにのんびりさせてもらえるのか"という意味を込めてだ。

『まだ決まってなーい♪残念でしたっ♪早く彼女家に連れて来たいのッ?いいわよ気にしなくて♪』

……うざ。

俺は朝食の準備が終わるまでの間少し散歩をすることにした。

玄関で靴を履き扉を開ける。

手にはカメラ、裏の山からは頑張り屋の蝉がちらほらと"予行練習"を始めている。

まだ風は少しだけ涼しくて、島の静けさが1日の始まりを感じさせた。

さぁー!!今日も頑張るぞーッ♪
って何をだ?

ま、いっか。

俺は海岸沿いの道へと歩き出した。

水平線から太陽が少しずつ顔を覗かせて、海がキラキラ輝き始める。なんとなくだけど、この島は太陽の光を充電して維持されてるんじゃないかな、って思った。

なんだそれ。

少しだけ見慣れてきた道を進むと"いつもの階段"が視界に映る。

さすがにこんな時間に海美は居ないな。
ちょっと寂しいような、そんな事を考えた自分が恥ずかしいような気持ちがふっと浮かぶ中、俺は階段を少しだけ降りてカメラを構える。

あ…カメラの使い方また聞いてないや。

適当に色々なボタンを押していると、電子音と同時に不意に液晶が景色を映した。

おっ、なんか映ったぞ。えっと…おぉ!ズームできた!んで…これは…

"カシャ"

おぉ!撮れた!

俺はついにカメラマンだ。

興奮気味にカメラを海へと向ける。

まだ頭の先っぽだけしか見えていない太陽を睨みつけ1枚の写真を撮ると俺はテレビで見たアイドルのカメラマンを意識して独り言をブツブツ言いながら写真を撮りまくってやった。

へへーん♪海美に自慢してやろっと。

『何やってんの…?』

不意に背後から響いた声に全身に悪寒が走った。もちろんそれは羞恥心の極みによるものだ。

海美?!

恥ずかしさを押し殺しつつ後ろを振り向くと大さな瞳がじっと俺を見つめていた。


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