海の声

漆湯講義

23.タキナカ先生

『誠司くんこんにちわ。担任のタキナカです。えっと…歳は27歳で、そうだ!出身は誠司くんと同じ東京なんだ。』

笑顔が爽やかな色黒の好青年って感じのタキナカ先生は、気を使ってか"オトナ達"の事務作業が終わるまで校内を案内してくれる事になった。

『まず誠司くんの教室行こっか。』

そう言って先生に続き階段を上って行く。

…てっきりボロボロの校舎だと思っていたけど案外普通だなぁ、意外。

教室の扉をガラガラと開き、モアッと蒸し暑い熱気に包まれた教室へ入った。

「あ…」

それは見たことも想像したこともない光景だった。教室の窓から見える
果てしなく広がるエメラルドグリーンの海。まるでどこかのリゾートホテルのようだ。
そんなトコ泊まった事はないけれど。

窓を開けながら先生が言う。生暖かい潮風がフワリと教室の熱気を掻き回していく。
『綺麗だよね。先生もここに初めてきた時は感動したなぁー。東京なんて窓から見えるのはビルとか道路だけでしょ?ここに来る前の嫌な気持ちがどっか吹っ飛んじゃったよ。あははは。』

「えっ?先生もここに来るの嫌だったんですか?」

『モチロン!だって島でしょ?島って言って思い浮かべるのって石積みの家とか一面のサトウキビ畑、それに色黒の昔の格好をしたお年寄り?それと…『「シーサー!」』

俺の表情筋が緩むのが分かった。驚きと喜びで油断し切った顔で先生を見つめる。

『えっ?誠司くんも??』
簡単に気を許すもんか!と思ってはいるのだけれど、この気持ちが分かり合える人間に出会えた事が嬉しかった。
自然と表情がニヤける。

「俺もまっったく同じ事考えてました!」

『奇遇だねぇ!東京モン同士仲良くやろうね。』

この先生とは本当に気が合いそうな気がした。少なくとも"前の学校の担任"よりは。

それから校内を一通り周り、校長室へと戻った。


まだ書類は終わっていないようだったが、部屋の隅で先生と待つ事にした。

「そういえばプールが無かったですけど…」

『ああ、先生も来た時は同じこと思ったよ。なんでもこの島の子供は"海で勝手に覚えるからいいんだよ"って他の先生が言ってたよ。』

「良かったぁ…俺泳ぐの苦手なんです。」

『すぐ上手くなるよ。』


すると書類を"コンコン"と机で揃える音がした。
『それではよろしくお願い致します。』
父さんと母さんに続き校長先生も立ち上がる。

『待たせたね誠司くん。滝中先生もありがとうございました。』

こうして、先生と新学期での再会を約束し学校を後にした。

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