海の声

漆湯講義

13.過去の記憶"綴る勇気"

そして夏休みまであと1週間を切った日の昼休み。教室の隅から気にせずにはいられない女子達の会話が耳に飛び込んできた。

『里奈ちゃん転校しちゃうんだって!!』
『えっ?!なんでー??いつー??』
『夏休みに北海道?に引っ越すんだって。』
『いいなぁー…涼しそうで。』

そんな…杉田が転校…

俺は心の何処かで、当然のように一緒に2年生になり、そのまま3年生を迎えられるモノだと思い込んでいた。

それ故に、それまでに少しでも里奈との距離が縮められれば嬉しいな、なんて呑気な事を思い描き、こんなにも突然に手の届かない場所へ行ってしまうなんて事はこれっぽっちも想定していなかったのだ。

俺はその瞬間から心臓に絡みついた荊に苦しめられる事になる。
何も手につかない状況が2日程続いたとき、俺はある決意をした。

これから先ずっと後悔して生きていくなんて嫌だ…
せめて俺は自分の気持ちを伝えたい。たぶん…いや絶対にフラれる。だけど…この気持ち、伝えたい。

タクヤの事が頭にチラついたが、はっきりと"杉田が好き"とは聞いてないし…そう自分に言い聞かせて俺は立ち上がった。

そして近所の100円ショップで便箋を買うと、アパートへと戻り自分の気持ちを紙へと綴った。
エアコンが効いているにも関わらず絶えず滲み出てくる変な汗を拭って何回も完成させては書き直してを繰り返す。
途中"やっぱりやめようかな"と何度も思ったが、震える手にめいいっぱい力を込めてやっと1枚の"ラブレター"を完成させた。

そこには初めて見た時から気になっていたこと、それからもずっと好意を寄せていたこと、そしてこれからも"ずっと好きだと思う"ということ…そして最後には"良かったら俺と引っ越すまででもお付き合いをしてくれませんか?返事待ってます。"と付け加えた。
改めて読み返すと思わず破り捨てたくなるような恥ずかしい内容だが、ぐっと我慢して丁寧に折りたたむとそーっと封筒へしまった。


布団に入ってからも、ドクドクと激しく脈打つ心臓や手の震えは治らず、身体のフワフワとした感覚が一晩中俺に付き纏った。

このまま夜が明けなければいいのに…

しかし無情にも太陽はいつも通りにやってくる。

…もう、朝だ。



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