転生しました。本業は、メイドです。

岡パンダ

ー25ー襲撃の後




「ふふふ、『メル』って名前を聞いたとき……もしかしてって思ったのよねぇ……。それにしても今回のターゲットの家のメイドがメルで、メルがあの子だったなんて……もう、すごい偶然………むしろ……必然かしら。」

森の奥まで移動した若い男は黒い獣に背を預けながらニヤリと笑みを浮かべた。
男の目の前には先程回収した男達が黒い靄にまとめて拘束されており、気絶している者もいれば、恐怖でガタガタ震えている者もいた。
一人、リーダー格の男だけは恐怖に顔をひきつらせながらも意識を保ったまま若い男を睨み付けている。

若い男は誰に話しかけるでも無く、ただ独り言のように話続けた。

「……あの子に会えたのは良かったけど、プラマイ0って感じねぇ~この体ももう使い物にならなそうだし、シャドーウルフも一体消されちゃったし、この子も弱っちゃたし。」

ハァとため息をつき困った様な顔をした若い男は背にしている獣を撫でると、目の前の男達に視線を向けた。
そして、こちらを睨み付けているリーダー格の男と目が合うとニコリと笑い今度は男に向けて言葉を発した。

「依頼主の所とあなた達の所を足してもこの子の回復と強化で終わっちゃうわね。」

「お、俺達を………どうするつもりだ……。」

「……どうするって、決まってるじゃない。」

「!?」

突然女の声が聞こえた。艶っぽいその声はどうやら若い男の後ろの方から聞こえてきたようだった。
聞こえた直後若い男はガクリと項垂れ動かなくなり、背にしていた獣はスっと立ち上がった。背もたれを失った若い男は目を見開いたまま仰向けで倒れる。

「シャドーウルフ、もうその体食べちゃって良いわよ。ボロッボロでもう使えないから。」

また同じ声が聞こえると、シャドーウルフは大きな口を開け若い男を一気にひと飲みにした。

「ヒィッ」

その光景に、拘束されている男達が小さく悲鳴をあげる。

「あら、そんなに怯えて可愛いわねぇ。うふふ。」

クスクスと声が聞こえ、森にゆっくりとシルエットが浮かびあがると、妖艶な笑みを浮かべながら長いウェーブのかかった金髪の女が現れた。

「お前……は、まさか、魔女……。」

リーダーの男が押し殺したような声で呟くと、女はニィッとゾッとするような笑みを浮かべた。

「うふふ、正解。この美しい瞳の色は魔女の証、そして誇り……。まぁ、普段は違う色にしてるけど。」

「じゃ、じゃあさっきの奴も……」

さっきの奴とはメルの事を指していた。メルの瞳も赤く輝いていたから。

「……そうねぇ、でもあの子は完全ではないの。うふふ……さ、もうお話はおしまい。ごめんなさいね。……シャドーウルフ。」

魔女が呼ぶと、シャドーウルフが彼女の隣に移動した。
それを確認した彼女は、優しくシャドーウルフの頭を撫でた後パチンと指を鳴らす。

その瞬間シャドーウルフは男達に襲いかかり、そして先程の若い男の時と同様に一人ずつ丸飲みにしていった。

「わぁぁぁ!!」
「やめてくれぇぇ!」
「死にたくないぃ!」

男達の悲痛な叫びが森に響き渡る。
1人、また1人と飲み込まれていく光景を愉快そうに眺めなが、魔女はまだ喰われていないリーダーの男にまた声をかけた。

「どうして?って顔ねぇ?あなたは使い魔の作り方しらないのかしら?」


いつの間にか残っているのはこの男だけになり、シャドーウルフは魔女と男が話をしていると理解しているのか、話が終わるのを待つように男の横に腰を下ろした。

男は恐怖で声も出ず、涙を流しながらただただ魚の様に口をパクパクさせている。

「使い魔を作るにはね、人間の命がたくさん必要なの。あなたはこれから私の可愛い使い魔の一部になるのよ。」


「い、いやだ……死にたく……ないっ……。」

「ふふふ、その恐怖に震えた顔………たまらないわぁ……でも、ごめんなさいね?私、人間が大嫌いなの。さようなら。」


魔女がニコリと笑い手を振った瞬間、シャドーウルフが最後の男を飲み込んだ。

「ふふふ、片付いたわね。さて、どうしようかしら。シルヴィア=グランベールはあの子のお気に入りみたいだしもう少し一緒にいさせてあげるとして、依頼主は消した方がいいわね。きっとたくさん使用人がいるわよ?楽しみねぇ。」

愉快そうに笑った女は獣の背中に腰を下ろすと空を仰いだ。
「メル……今はせいぜい大切な人との幸せな時間を楽しむといいわ。私が全てを壊してあげるその時まで……ふふ…あはははは。」


彼女は声高に笑いながら煙の様に消えた。

その場には何も残っていない。
まるで初めから何もなかったかのように。




ーーーーーー本屋・情報拠点

「オヤジさん……メルさんの事教えて下さい。」

拠点に戻ったリトはオヤジさんの帰りを待ち単刀直入に言った。
リトの真っ直ぐに見つめてくるその瞳に、オヤジさんは何かを感じ取ったのか彼に座るように促した。

そしてゆっくりと話し始めた。


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