転生しました。本業は、メイドです。
ーメルの過去②ー
殺人ドールと化した私は、その名の通り「感情を持たない殺しの人形」だった。
本人の私でさえ、この時期の記憶がほとんどない。
両手は血まみれ、生傷は絶えない、いつ食事を取っていたかもわからない。
ただ覚えているのは、いつも空っぽな母の部屋に帰っていたこと。
そして寝る前に絵本を読んでいたこと。
一人ぼっちの少女と妖精のお話。
暗闇をさまよっていた少女が見つけたのは輝く銀色の光。
美しい白銀の髪の妖精は一人ぼっちの少女に言う。
「私が一緒にいてあげる。」
二人は一度離ればなれになるけれど、
最後はまた一緒に暮らせるハッピーエンド。
母が読んでくれたこの絵本が大好きだった。
この絵本を読みながら母のベッドで眠った。
この部屋にいる間だけ、私は「メル」だった。
そして感情が無いまま1年が過ぎた頃、私に転機が訪れた。
貴族家への潜入が決まったのだ。
潜入先は国王の宰相であるグランベール家の屋敷だった。
潜入方法は主に2つ。
募集に対して応募するか、
同情を誘って拾われるかだ。
私の選択肢は1つしかなかった。
こんなガリガリで傷だらけで目付きの悪い子供が応募したところで採用はありえない。
幸いにも宰相のアンドレア氏は慈悲深い方らしい。なら十分自分がつけ入るチャンスはあるはずだ。
そして潜入を言い渡された日から、私はグランベール家の監視を始めた。
使用人の数も少なく、傭兵も雇っていなかったので監視するのは簡単だった。
あとは、きっかけをどう作るかだ。
その機会はすぐ巡ってきた。
アンドレア氏の仕事の一環でスラムのある町に家族で訪れる機会ができたのだ。
私は少しボロボロで汚れた服を来てスラム感を強調した。
右の真紅の瞳は、組織以外の人間には絶対に見せないように頭領に言われていた為普段から眼帯をしていたが、雰囲気を出すために包帯に替えた。
作戦は、グランベール家の長女シルヴィア嬢を迷子にさせ、そこを救って送り届け恩を着せたところで使用人になりたいと懇願するというものだ。
とりあえず何かで気を引いて迷子にさせなくてはと考えていると、シルヴィア嬢は偶然通りかかった猫を追いかけ、勝手に迷子になってくれた。
私はさっそくシルヴィア嬢の元に向かった。
昼間なのに薄暗く、日が当たらない場所に彼女はいた。
そして近付いた私はハッとした。
シルヴィア嬢の髪が微かに差し込む光で白銀に光る様が、まるであの絵本に出てくる妖精の様だったのだ。。
うずくまる彼女に声をかけると、彼女は顔を上げた瞬間泣き出した。
無理もない。私の顔と目付きは、少女には刺激が強すぎる。
ダメ元でなだめると意外にも彼女は泣き止み、さらに抱きついてきた。
「駄目っ!汚れちゃう!」
それもあるが突然の人の温もりに動揺してしまい、彼女を引き剥がした。
すると「だいじょうぶ!」と言ってまた抱きついてきた。
予想外な事でビクッとなってしまったが、彼女が離れる様子がないのでとりあえず頭を撫でた。
あとは彼女を家族の元に送り届ければいいだけだ。
改めて彼女を見ると本当に美しい銀髪と可愛らしい顔をしてる。
素直にその事を褒めると彼女は私の手をギュッと握りとても嬉しそうに笑った。
わたしも釣られて笑ってしまったが上手く笑えていただろうか。
シルヴィア嬢は歩いている間もずっとニコニコして私に話しかけてくる。私が怖くはないのだろうか。。
ほどなくしてシルヴィア嬢の家族の元に着いた。
彼女の家族はわたしを見ると恐怖の意を示した。当たり前だと思った。
しかし私が事の経緯を説明するとすぐ笑顔でお礼を言ってくれた。
怖がられたのは最初だけだった。私を軽蔑しない事に驚いた。
そしてアンドレア氏はお礼がしたいと申し出てきた。
ここで使用人にしてくれと申し出るべきだろうか。。
考えているうちに、後日改めて来させてほしいと言われてしまった。
仕方ない、来るまでにもう少しマシな身なりにしておこうと考えているとシルヴィア嬢が私に声をかけてきた。
「メルはお父様とお母様がお家で待ってるの?」
なんでそんなことを聞くんだろう。
私には誰もいない。正直にそう答えた。
するとシルヴィア嬢は少し考えるそぶりを見せ、突然私に顔を近づけ大きな声で言った。
「わたしがメルの家族になってあげる!」
ーーーわたしが一緒にいてあげる。
絵本の妖精の言葉が重なった。
私が目をパチクリしていると、シルヴィア嬢はアンドレア氏に言った。
「お父様!メルもお家に帰ります!!」
アンドレア氏は戸惑った様子で興奮したシルヴィア嬢をなだめようとするが、シルヴィア嬢はまったく聞く耳をもたず、決して私の手を離さなかった。
「メルはわたしの家族になるんです!」
あぁ。。
私はただの仕事なのに……
この人達を利用したいだけのハズなのに……
「私を……使用人にして………ください!」
彼女の側にいたいと思ってしまった。
根負けしたアンドレア氏は私を雇ってくれる事になった。
母が死んでから、嬉しいと思った事なんてなかったのに。。
この日嬉しいと思った。
私はこの日の記憶を鮮明に覚えている。
お嬢様が私の家族になってくれた日。
本人の私でさえ、この時期の記憶がほとんどない。
両手は血まみれ、生傷は絶えない、いつ食事を取っていたかもわからない。
ただ覚えているのは、いつも空っぽな母の部屋に帰っていたこと。
そして寝る前に絵本を読んでいたこと。
一人ぼっちの少女と妖精のお話。
暗闇をさまよっていた少女が見つけたのは輝く銀色の光。
美しい白銀の髪の妖精は一人ぼっちの少女に言う。
「私が一緒にいてあげる。」
二人は一度離ればなれになるけれど、
最後はまた一緒に暮らせるハッピーエンド。
母が読んでくれたこの絵本が大好きだった。
この絵本を読みながら母のベッドで眠った。
この部屋にいる間だけ、私は「メル」だった。
そして感情が無いまま1年が過ぎた頃、私に転機が訪れた。
貴族家への潜入が決まったのだ。
潜入先は国王の宰相であるグランベール家の屋敷だった。
潜入方法は主に2つ。
募集に対して応募するか、
同情を誘って拾われるかだ。
私の選択肢は1つしかなかった。
こんなガリガリで傷だらけで目付きの悪い子供が応募したところで採用はありえない。
幸いにも宰相のアンドレア氏は慈悲深い方らしい。なら十分自分がつけ入るチャンスはあるはずだ。
そして潜入を言い渡された日から、私はグランベール家の監視を始めた。
使用人の数も少なく、傭兵も雇っていなかったので監視するのは簡単だった。
あとは、きっかけをどう作るかだ。
その機会はすぐ巡ってきた。
アンドレア氏の仕事の一環でスラムのある町に家族で訪れる機会ができたのだ。
私は少しボロボロで汚れた服を来てスラム感を強調した。
右の真紅の瞳は、組織以外の人間には絶対に見せないように頭領に言われていた為普段から眼帯をしていたが、雰囲気を出すために包帯に替えた。
作戦は、グランベール家の長女シルヴィア嬢を迷子にさせ、そこを救って送り届け恩を着せたところで使用人になりたいと懇願するというものだ。
とりあえず何かで気を引いて迷子にさせなくてはと考えていると、シルヴィア嬢は偶然通りかかった猫を追いかけ、勝手に迷子になってくれた。
私はさっそくシルヴィア嬢の元に向かった。
昼間なのに薄暗く、日が当たらない場所に彼女はいた。
そして近付いた私はハッとした。
シルヴィア嬢の髪が微かに差し込む光で白銀に光る様が、まるであの絵本に出てくる妖精の様だったのだ。。
うずくまる彼女に声をかけると、彼女は顔を上げた瞬間泣き出した。
無理もない。私の顔と目付きは、少女には刺激が強すぎる。
ダメ元でなだめると意外にも彼女は泣き止み、さらに抱きついてきた。
「駄目っ!汚れちゃう!」
それもあるが突然の人の温もりに動揺してしまい、彼女を引き剥がした。
すると「だいじょうぶ!」と言ってまた抱きついてきた。
予想外な事でビクッとなってしまったが、彼女が離れる様子がないのでとりあえず頭を撫でた。
あとは彼女を家族の元に送り届ければいいだけだ。
改めて彼女を見ると本当に美しい銀髪と可愛らしい顔をしてる。
素直にその事を褒めると彼女は私の手をギュッと握りとても嬉しそうに笑った。
わたしも釣られて笑ってしまったが上手く笑えていただろうか。
シルヴィア嬢は歩いている間もずっとニコニコして私に話しかけてくる。私が怖くはないのだろうか。。
ほどなくしてシルヴィア嬢の家族の元に着いた。
彼女の家族はわたしを見ると恐怖の意を示した。当たり前だと思った。
しかし私が事の経緯を説明するとすぐ笑顔でお礼を言ってくれた。
怖がられたのは最初だけだった。私を軽蔑しない事に驚いた。
そしてアンドレア氏はお礼がしたいと申し出てきた。
ここで使用人にしてくれと申し出るべきだろうか。。
考えているうちに、後日改めて来させてほしいと言われてしまった。
仕方ない、来るまでにもう少しマシな身なりにしておこうと考えているとシルヴィア嬢が私に声をかけてきた。
「メルはお父様とお母様がお家で待ってるの?」
なんでそんなことを聞くんだろう。
私には誰もいない。正直にそう答えた。
するとシルヴィア嬢は少し考えるそぶりを見せ、突然私に顔を近づけ大きな声で言った。
「わたしがメルの家族になってあげる!」
ーーーわたしが一緒にいてあげる。
絵本の妖精の言葉が重なった。
私が目をパチクリしていると、シルヴィア嬢はアンドレア氏に言った。
「お父様!メルもお家に帰ります!!」
アンドレア氏は戸惑った様子で興奮したシルヴィア嬢をなだめようとするが、シルヴィア嬢はまったく聞く耳をもたず、決して私の手を離さなかった。
「メルはわたしの家族になるんです!」
あぁ。。
私はただの仕事なのに……
この人達を利用したいだけのハズなのに……
「私を……使用人にして………ください!」
彼女の側にいたいと思ってしまった。
根負けしたアンドレア氏は私を雇ってくれる事になった。
母が死んでから、嬉しいと思った事なんてなかったのに。。
この日嬉しいと思った。
私はこの日の記憶を鮮明に覚えている。
お嬢様が私の家族になってくれた日。
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