転生しました。本業は、メイドです。
ー白銀のラプソディアー
乙女ゲーム『白銀のラプソディア』
分岐の多さ、攻略難易度の高さ、スチルの多さから
ガチなやり込み女子から人気が高い乙女ゲーム。
ストーリーは、簡単に言うと主人公が虐められたり殺されかけたりしながら自分を磨き強く美しく成長しモテモテになる定番な物語なのだが、乙女ゲームには珍しくヒロインを鍛練させて肉体的に強くすることができる。そして強くさせ過ぎると主人公が強すぎて結婚できないBADENDになってしまったり、何もしないとひ弱で病弱になってしまったり、強さの度合いによって攻略対象との親密度の上がり具合も結構変わったりする。『この攻略対象を落とすならこのくらいの強さ』みたいな。すごいアバウトだけど、その曖昧な匙加減もやり込み女子からすればハマる要素なのかもしれない。
そんな難易度高めな乙女ゲームのヒロインの名前はシルヴィア=グランベール。
宰相の令嬢で銀色の髪と青い瞳の美少女。
強くすればラスボスにもなれちゃうくらいの才能を秘めている上に、性格も容姿も◎。
3つ上に同じく銀髪美男子でシスコンの兄を持つ。
天は彼女に何物与える気だと思わずにはいられない程の最強ヒロイン。
そして悪役キャラは割と多く、ヒロインの成長と共に現れ、そのまま残るキャラもいれば途中退場するキャラもいる。
そんな中、悪役なのにゲームが発売してしばらくしてから何故か人気が出たキャラがいた。
その悪役キャラの名は『メル』。
右目に眼帯をした黒髪の少女。
シルヴィア付きのメイドで、シルヴィアが拾ってから4年間いつも側にいたが、実はある組織から送り込まれた工作員だったのだ。この事実はメルのプロフィールには載っていなかった。
チュートリアルキャラとして最初に登場して以来、シルヴィアとの絡みも姉妹みたいでほっこりするし、眼帯メイドって所はこれから過去の話とか出てきて理由が明らかになるのかなぁなんて期待してたのに、ある日突然メルは反旗を翻した。
そしてシルヴィアに自分の素性を全てを話し、シルヴィアに手をかけようとした所をナイスタイミングで駆けつけたシルヴィアの兄に心臓を刺され死んでしまうのだ。
ちなみにこれは皇太子攻略ルートで、この後姉の様に慕っていたメルに裏切られ、失ったショックから塞ぎ込んだシルヴィアを攻略対象の皇太子が励まして支える的なラブイベントが入ってきたり、メルの代わりに攻略対象の騎士が入ってきたりと物語は進んで行く。
こうして噛ませ犬としてお役御免になったメルはどのストーリーでも序盤であっさりといなくなってしまうのだが、ゲーム発売後しばらくして公式が発表した脇役達のスチルのメルver.3枚が反響を呼んだ。
1枚目は、メイド姿で影からシルヴィアを優しげに見守る姿
2枚目は、殺された時の姿
3枚目は、黒い服に包み、鋭い眼差しを向けるアサシン的なメルの姿
シルヴィアへの優しい眼差しのスチルと
事切れた後の光を失った目から涙を流し微笑むスチルを見たユーザーは
『絶対シルヴィアの事大切にしてたんじゃん!』
『生きててほしかった!』
『尊い!』
などの声が上がり、
3枚目の写真に対しては
『かっこいい!』
『メルの過去の話希望!!』
『メルの目の謎は!?』
などの声が上がった。
これに対し公式は待ってましたとばかりにメルの過去話を発表し、
メルの人気に火が着いたのだ。
ゲーム時の私は、メルの死よりも攻略対象の優しさにキュンキュンする気持ちの方が勝ってしまっていた。
もちろん、裏切りシーンはショックだったし、メルは只の噛ませ犬役だったのか……と、少し残念に思ったりもしたけど、所詮ゲームだと割りきってその後は全然気にしなかった。
でも、あのスチルと過去話を読んでメルへの気持ちが変わった。
スチルを見たのがフルコンプ後で良かったと心底思った。
プレイ中だったら完全にメル死ぬとこで号泣して、それ以降プレイできなくなっていただろう。
公式もそれを見越しての事だったのかもしれない。
次回作発表があってすぐの事だったから次に気持ちを切り替えさせる為の策略だった可能性もある。
ちなみにメルはどのストーリーでも必ず『シルヴィアに自分の素性を話した後』死んでしまう。
メル死亡エンドをなんとか回避できないかとがんばってみたが、
決められたエンドを回避することは出来なかった。
きっとメルはシルヴィアが大好きなんだろうな。。
所詮ゲームなのに、私はメルに思いを馳せた。
引きこもりだったから考える時間はたくさんあった為、
感情移入し過ぎて妄想が爆発した。
きっとシルヴィアと一緒に生きたかった。
辛かっただろうな。
メルを助けてあげたかったな。
シルヴィアのTRUEENDを側で迎えたかっただろうな。
どうしてメルは諦めちゃったんだろう。
もしも私がメルだったら……絶対に諦めないのに。
私がメルだったらどんな手を使ってでも
シルヴィアと生きてみせるのに。
って、考えてたら
本当にメルになっちゃうなんて思ってもみませんでした。
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