命の重さと可能性の重み

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第五十六話

「だから、木に使えばいいんだよっ。木にねっ」

俺はあたりをみまわしながら、適当に何本かの木を指でさす。

「木…とは、あたりいちめにはえている………たとえば、こちらの木でかまわないと?」

「そのとおりだよっ。木なら何でも大丈夫だよ?」

「そう…なんですの」

「そうそうっ。…それで?どの木にアイスエンドを使う?」

「いえ、その…ねぇ?エリカ…?」

「そうね。私たちには、木が生きているとは信じられないわ」

「なんで?俺としては、木が生きている事を知らない方がビックリなんだけど…」

「当たり前でしょっ!…だって、動かないじゃないっ!」

「エリカの言うとおりですわ。わたくしたちの常識では、「木はそこにあるもの」であり、生き死にの対象じゃありませんから…」

「なるほど…確かに、動いてないし…それに喋らないからね。生き死にで考えられないのも、こっちのレベルじゃ当たり前なのかな…」

「こっちのレベル…ですか?」

「うん。こっちのレベルだよ。…俺がいた世界だと、魔法が無いかわりに技術が発展していたからね。色々なことやものが研究されていたよ」

「様々なことやもの…ですか」

「そう。…その調べられたものの中に、自然も入っているんだ。…今回の場合、より正確にいうなら植物についてだね」

「植物…ですか」

「そう。植物だよ。木とか草のことだね」

「そんなもん調べてなんになるのよ?」

「例えば…麦や米を研究する事で、収穫量を上げたり、品種改良で強くしたり。他には…病気にきく花や実を研究する事で、必要な成分を他の花や実からも見つけだしたり、効能だけを取り出した薬にしたりだね…」

「そんなことが…盛んにおこなわれていましたの?」

「そうだね。結構色々な人が色々な所で研究していたよ」

「そう…ですか」

「それで?それのどこが木が生きていることの証拠になるの?」

「じゃあ逆に聞くけど、生きてもいないのに葉がつくのは何故だと思う?…花や実をつけるのは?枝を切っても、しばらくするとまたはえてくるのは何故?」

「そ、それは…」

「確かに…「生きている」と考えた方が無難…という結論になりますわね。…むしろ、今までそう考えていなかったことの方が、おかしい気がしてきますわ…」

「…それはしょうがないと思うよ。こっちの世界は一度文明が閉ざされたんだろ?」

「それはそうですけど…」

「俺たちの世界でも、研究がちゃんとおこなわれて、ちゃんと世間に認識されるようになったのは、結構最近の事だもん。…こっちの世界が立ち直ってから何年目かは知らないけど、俺たちの世界で戦争がなくなってから百年もたってないんだぜ?こっちの世界には魔法があるんだし、もっと数が増えれば自然とそういうのに興味を持つ奴が出てくると思うよ」

「そう…ですか?………そうかもしれませんわね」

「そうそう、気楽にいきましょ?」

「そうですわね。…たかが木が生きている事を知った程度、どうということではありませんわよねっ」

「そうよねっ。たいしたことじゃあないわよねっ」

「そうそう」

「「「ハハハハハハ」」」

俺たちは互いを見ながら笑いあった。

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