【旧版】諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む
幕間: 前世、そして誓い 2
 ハルトナイツが僕に触れたその瞬間、一気に色彩が目の前に溢れた。空の水色が、遠くまで広がる平野の緑が、そこらじゅうで自由に駆け回っている精霊達の色が、そして今僕達がいる白亜の城の白が。
 戻ってきた色達に、僕は思わず息を呑んだ。こんなにも世界は色に彩られていたのかと、少し愕然とするような気持ちになる。
 今僕達がいるのは、どうやら城のテラスのようだ。城から少しはみ出るように作られたここでは、心地よい風が肌を撫でていった。
 それにしても、ここの空気はすごく澄んでいるように感じる。まるでカイルの"駆け落ちの森"のようだ。
 しばらく戻ってきた五感でこの世界を堪能していると、笑い声が聞こえてきた。
『ははっ、僕よりこの世界の風景か』
「…いや、すまない」
『構わないよ』
 そう言って笑うのは、よもぎ色の髪に橙色の瞳を持つ優しそうな青年だ。腰には剣らしきものを差していて、白地に青と金色が入っている、騎士服のような服を着ている。
 会ったのは初めてだ。それは確実なのに、なぜか既視感のような、親近感のような感情を感じるのはなぜだろう。
「……っ!!ひょっとして、お前…」
『あぁ。────僕は君の前世、大地の高位精霊、ハルトナイツだ。ちゃんとした自己紹介が遅くなってすまないね』
「…いや、大丈夫だ。言いにくいだろうし」
『ありがと。僕の生まれ変わりは性格が良いみたいだね』
「ふっ、どうだかな。というか、大地の精霊なのか…」
『うん。あ、そうそう、高位精霊の権威…あぁ、司っているもののことなんだけど、それは受け継がれていくんだ』
「そうなのか……じゃあ、僕は今の大地の精霊とは関わりはないのか。お前が、僕の前世だけれど」
『そうなるね』
 僕は、ハルトナイツ前世だ、と告げられてもあまり驚かなかったことに驚いていた。それでも普通に会話できているのは、僕の神経が太いからか、それともハルトナイツが気遣ってくれているからか。
『そうだ。突然だけど、君はこの世界をどう思う?』
 本当に突然だな。しかも、質問の内容はかなり重大な事だろう。いきなり、前フリもないしに話すか、普通。
「この世界って………精霊達が見えるこの世界の事か?」
『精霊界だけじゃなく、君の住んでいた世界、人間界も含めてね。あぁ、人間界は物質界と魔素界、両方合わせた総称なんだけど…』
「魔素、界…………魔法概念のみに縛られているあの世界の事か?」
『そうだよ。その二つの世界を、僕達は"リアルワールド"と呼んでいる』
「リアルワールド……不思議な響きだ」
『アイカが考えたんだ。現実世界、という意味らしい』
「へぇ」
 まるで、現実じゃない世界があるかのようだ。後でアイカにあったら、名付けの理由を聞いてみよう。
「リアルワールドのついてどう思う、って事だが……それは、どういう観点で聞いているんだ?それに、僕は精霊界に行ったことがない」
『ここが精霊界だよ。観点については、そうだね……好きか、嫌いか。もっといえば、この世界のために命を賭けられるか否か』
「いきなり重いな」
 思わず苦笑する。けれどハルトナイツは真剣な顔でいるから、僕も表情を引き締めた。
「僕は………僕は、愛する人や大切な人達がいる世界を守るためなら、命を賭けても構わないと思っている」
『……うん、いい返事だ。それでこそ僕だね』
 満足そうに笑うハルトナイツを見て、ふと疑問が浮かんできた。
「……なぁ、聞きたいんだが、僕達は存在が重複しているんじゃないか?どうして僕達が同時に、同じ場所にいられるんだ?」
『あぁ。だって僕は、あくまで君の中にいるハルトナイツを映し出した存在だもの。もっと正しく言うと、君の中にある僕の残滓と僕の記憶を君が写し出し、具現化した存在かな。いや、本来なら幽霊みたいに漂ってるだけなはずの僕の魂の残りが、君の中に眠る僕の記憶と共鳴して………ごめん、うまく言えないや』
「いや、大丈夫だ。軽くだけど理解出来たから」
 実はさっきハルトナイツに触れられてから、思考がクリアになってきていた。周りの気配にも鋭敏なようだし、どうやら演算能力も上がっているようで、今ならどんな魔法でも使えるような気がする。もしハルトナイツが許すのなら、前まで自分の能力が足りないがために使用を断念した魔法を使ってみたい。
 ただ、そういった高揚感のようなものだけでなく、ずっと頭に違和感を感じていた。かなり不快感がある。それも、さっきからその違和感のある部分が疼く。まるで、「気付け」とでも言っているように。
『……大丈夫?顔色が優れないみたいだけど』
「頭に変な感覚を感じるんだ。そこまで痛くはないのだけれど、疼いている」
『へぇ、なるほどね………僕でよければそれを治せるけど、どうする?』
 一瞬の逡巡。
「……何に悩んでいるんだ」
 そうだ。まだ、アマリリスを害する者達の脅威が去ったわけではない。しかも、それ以外にも面倒事はありそうだ。だったら僕がすべき事は、自分の最善の状態である事。
「頼む」
 短く言うと、ハルトナイツは嬉しそうに頷いた。
『流石僕、なんてね。────痛いから、覚悟しといて。絶対に自分を見失わないで』
 どういう事か確認する前に、ハルトナイツが僕の額に触れた。
 その瞬間、一気に膨大な情報が頭に入ってくる。
「くっ、うっ、あ!」
 あまりの情報量の多さ、そしてそれに伴う感情の量に、自我を保つのさえ辛くなってくる。
 目の前をよぎる、記憶の一枚一枚。
 ハルトナイツの、いや、僕の前に立つ、白銀の艶やかな髪に美しい琥珀色の瞳の少女が微笑んでいる。
 僕の手と重なる仲間達の手。
 迫り来る悪魔、そして倒れていく同胞。
 黒く染まっていく少女の瞳。
 痛いほど悲しみが伝わってくる叫び。
 一人で対峙した宿敵。
 意識が消えゆく中で見つけた一つの光。
 閉ざされた世界。
「………はっ、はぁ、はぁっ!」
『…ラインハルト、大丈夫?』
「ん、あ、あぁ。大丈夫、だ」
『全然大丈夫じゃないでしょうに。ほら、座って。お茶を出すから』
 半ば強引に僕を座らせたハルトナイツは、どこからかティーポットを取り出すと、これまたどこからか現れたティーカップに注いだ。
 お茶の香りが、未だにする頭痛を和らげてくれたように思う。
『飲んで』
「ありがとう」
 飲んで驚いた。これはさっき思い出した記憶にあった、僕が開発した茶葉から作られたお茶だ。
「なんだか不思議だな。君と僕は違う存在なはずなのに。アマリリスも、こんな感覚だったのか……」
『あぁ、アマリリスさんは違うと思うよ?』
「………え?」
『あぁ、ごめん。えっとね、アマリリスさんは前世の記憶……ニホンという国にいた頃のアイカの記憶は、知識としてしか思い出していないんだ』
「本当か?正直、彼女は記憶を取り戻してから変わったように思えたが……」
『それはきっと、アイカという人間の人生が衝撃的だったからじゃないかな。僕もリリエルからアイカの人生について教えてもらった時は、すごい驚いたからね……って、ラインハルトは僕の記憶を知ってるからわかるか』
「あぁ。………リリエル、さん、はアイカの記憶を話す時すごく辛そうだった。僕も、アイカの最期を知った今では、彼女の笑顔の裏に何かを見つけそうで、少し怖いな」
 リリエルさんは、アイカの記憶を完璧に保持して生まれた。アマリリスとは違って。
 それにも、アイカの意図が絡まっているのではないか…と、ハルトナイツの記憶を思い出した今では思う。
「それにしても、ハルトナイツの記憶のお陰で、かなりわかりやすくなった。
 アマリリスがリリエルさんの転生者で、ユークライ兄上がユークライさんの転生者で」
『アイカは僕達が生まれる前よりも、ずっと昔から生きてて』
「そのアイカはリリエルさんと出会って危機感を感じて、アマリリスには感情を伴わない、しかもところどころ思い出せないようんしたニホンの頃の記憶を取り戻させていて」
『そして、アイカは……おっと、もう時間みたいだね』
 えっ、と思わずハルトナイツを見て、僕は声を上げてしまった。
「どうして、体が透けているんだ?」
 下位精霊だと体が透けている事はよくある。なぜなら、彼らにはちゃんとした自我、もしくは十分な魔力がないからだ。
 しかし高位精霊の…第二位精霊のハルトナイツには、それらの条件は当てはまらない。
 …いや、心当たりがある。
「もう、限界なのか」
『うん。君が思い出したし、もう僕はいらないんだ』
 ハルトナイツはそう言って微笑む。
『じゃあ、もうお別れかな』
「結構あっさりしているんだな」
『まぁね。あまりここには未練もないし』
「そうか」
 手を差し出す。それを見て、ハルトナイツは怪訝そうな顔をした後、すぐに理解したように笑顔になった。
「元気でな……って、死んでいるはずのやつに言ってもな」
『ははっ、そうだね』
 ハルトナイツは力強く僕の手を握る。
『ラインハルト、三つ頼みたい事がある』
「わかった。なんだ?」
『一つ目は、アマリリスさんと二人で呪いに打ち勝つ事』
 当たり前だ。
 僕が頷くのを見て、ハルトナイツは満足そうな表情になった。体はどんどん透けていっている。
『二つ目は、悪魔を退ける事』
 ハルトナイツ達が、できなかった事だ。絶対に、成し遂げてみせる。
『三つ目は、幸せになる事だ』
「幸せに、なる事?」
 思わず聞き返してしまう。
 ハルトナイツの体は、もう反対側が見えるほどまで透けていた。
『僕達が、途中で諦めてしまった、諦めさせられた夢だ』
 自然と、手に力を込めた。
 もうハルトナイツは感じられない。彼のいたところに光の粒子があるだけだ。
『僕達が諦めていた人生の続きで、君達は幸せを掴んでくれよ────』
「………あぁ。言われなくても」
 ここにいない最愛の人に誓おう。
 呪いに打ち勝ち、悪魔を退け、そして絶対に幸せを、共に掴む事を。
 世界が再び暗転する。ただ、そこに恐怖を感じたりはしなかった。
 僕はひとりじゃない、なんて言葉は陳腐だけれど、僕の読みが正しければアイカかユークライ兄上が動いている。
 だから、そう遠くない未来で、きっとハルトナイツの願いを叶えられるだろう。
 僕達の手で、幸せを掴むんだ。
 幕間、ラインハルト視点でした。
 一話の予定でしたが、詰め込んでしまい長くなり、2つに分けさせて頂きました。
 ラインハルト視点だと、なぜか長くなるんですよね……不思議です。
 さてさて、ここから物語は大きく動いていく……と思います(前もこんな事言った気が)。
 ですが、しばらくはアマリリスとラインハルトの出番がないかもです。二人を待っている方々、本当にすいません!! あ、一応登場はする予定です。会話がないだけで…
 これからも、拙作をよろしくお願い致します!
 戻ってきた色達に、僕は思わず息を呑んだ。こんなにも世界は色に彩られていたのかと、少し愕然とするような気持ちになる。
 今僕達がいるのは、どうやら城のテラスのようだ。城から少しはみ出るように作られたここでは、心地よい風が肌を撫でていった。
 それにしても、ここの空気はすごく澄んでいるように感じる。まるでカイルの"駆け落ちの森"のようだ。
 しばらく戻ってきた五感でこの世界を堪能していると、笑い声が聞こえてきた。
『ははっ、僕よりこの世界の風景か』
「…いや、すまない」
『構わないよ』
 そう言って笑うのは、よもぎ色の髪に橙色の瞳を持つ優しそうな青年だ。腰には剣らしきものを差していて、白地に青と金色が入っている、騎士服のような服を着ている。
 会ったのは初めてだ。それは確実なのに、なぜか既視感のような、親近感のような感情を感じるのはなぜだろう。
「……っ!!ひょっとして、お前…」
『あぁ。────僕は君の前世、大地の高位精霊、ハルトナイツだ。ちゃんとした自己紹介が遅くなってすまないね』
「…いや、大丈夫だ。言いにくいだろうし」
『ありがと。僕の生まれ変わりは性格が良いみたいだね』
「ふっ、どうだかな。というか、大地の精霊なのか…」
『うん。あ、そうそう、高位精霊の権威…あぁ、司っているもののことなんだけど、それは受け継がれていくんだ』
「そうなのか……じゃあ、僕は今の大地の精霊とは関わりはないのか。お前が、僕の前世だけれど」
『そうなるね』
 僕は、ハルトナイツ前世だ、と告げられてもあまり驚かなかったことに驚いていた。それでも普通に会話できているのは、僕の神経が太いからか、それともハルトナイツが気遣ってくれているからか。
『そうだ。突然だけど、君はこの世界をどう思う?』
 本当に突然だな。しかも、質問の内容はかなり重大な事だろう。いきなり、前フリもないしに話すか、普通。
「この世界って………精霊達が見えるこの世界の事か?」
『精霊界だけじゃなく、君の住んでいた世界、人間界も含めてね。あぁ、人間界は物質界と魔素界、両方合わせた総称なんだけど…』
「魔素、界…………魔法概念のみに縛られているあの世界の事か?」
『そうだよ。その二つの世界を、僕達は"リアルワールド"と呼んでいる』
「リアルワールド……不思議な響きだ」
『アイカが考えたんだ。現実世界、という意味らしい』
「へぇ」
 まるで、現実じゃない世界があるかのようだ。後でアイカにあったら、名付けの理由を聞いてみよう。
「リアルワールドのついてどう思う、って事だが……それは、どういう観点で聞いているんだ?それに、僕は精霊界に行ったことがない」
『ここが精霊界だよ。観点については、そうだね……好きか、嫌いか。もっといえば、この世界のために命を賭けられるか否か』
「いきなり重いな」
 思わず苦笑する。けれどハルトナイツは真剣な顔でいるから、僕も表情を引き締めた。
「僕は………僕は、愛する人や大切な人達がいる世界を守るためなら、命を賭けても構わないと思っている」
『……うん、いい返事だ。それでこそ僕だね』
 満足そうに笑うハルトナイツを見て、ふと疑問が浮かんできた。
「……なぁ、聞きたいんだが、僕達は存在が重複しているんじゃないか?どうして僕達が同時に、同じ場所にいられるんだ?」
『あぁ。だって僕は、あくまで君の中にいるハルトナイツを映し出した存在だもの。もっと正しく言うと、君の中にある僕の残滓と僕の記憶を君が写し出し、具現化した存在かな。いや、本来なら幽霊みたいに漂ってるだけなはずの僕の魂の残りが、君の中に眠る僕の記憶と共鳴して………ごめん、うまく言えないや』
「いや、大丈夫だ。軽くだけど理解出来たから」
 実はさっきハルトナイツに触れられてから、思考がクリアになってきていた。周りの気配にも鋭敏なようだし、どうやら演算能力も上がっているようで、今ならどんな魔法でも使えるような気がする。もしハルトナイツが許すのなら、前まで自分の能力が足りないがために使用を断念した魔法を使ってみたい。
 ただ、そういった高揚感のようなものだけでなく、ずっと頭に違和感を感じていた。かなり不快感がある。それも、さっきからその違和感のある部分が疼く。まるで、「気付け」とでも言っているように。
『……大丈夫?顔色が優れないみたいだけど』
「頭に変な感覚を感じるんだ。そこまで痛くはないのだけれど、疼いている」
『へぇ、なるほどね………僕でよければそれを治せるけど、どうする?』
 一瞬の逡巡。
「……何に悩んでいるんだ」
 そうだ。まだ、アマリリスを害する者達の脅威が去ったわけではない。しかも、それ以外にも面倒事はありそうだ。だったら僕がすべき事は、自分の最善の状態である事。
「頼む」
 短く言うと、ハルトナイツは嬉しそうに頷いた。
『流石僕、なんてね。────痛いから、覚悟しといて。絶対に自分を見失わないで』
 どういう事か確認する前に、ハルトナイツが僕の額に触れた。
 その瞬間、一気に膨大な情報が頭に入ってくる。
「くっ、うっ、あ!」
 あまりの情報量の多さ、そしてそれに伴う感情の量に、自我を保つのさえ辛くなってくる。
 目の前をよぎる、記憶の一枚一枚。
 ハルトナイツの、いや、僕の前に立つ、白銀の艶やかな髪に美しい琥珀色の瞳の少女が微笑んでいる。
 僕の手と重なる仲間達の手。
 迫り来る悪魔、そして倒れていく同胞。
 黒く染まっていく少女の瞳。
 痛いほど悲しみが伝わってくる叫び。
 一人で対峙した宿敵。
 意識が消えゆく中で見つけた一つの光。
 閉ざされた世界。
「………はっ、はぁ、はぁっ!」
『…ラインハルト、大丈夫?』
「ん、あ、あぁ。大丈夫、だ」
『全然大丈夫じゃないでしょうに。ほら、座って。お茶を出すから』
 半ば強引に僕を座らせたハルトナイツは、どこからかティーポットを取り出すと、これまたどこからか現れたティーカップに注いだ。
 お茶の香りが、未だにする頭痛を和らげてくれたように思う。
『飲んで』
「ありがとう」
 飲んで驚いた。これはさっき思い出した記憶にあった、僕が開発した茶葉から作られたお茶だ。
「なんだか不思議だな。君と僕は違う存在なはずなのに。アマリリスも、こんな感覚だったのか……」
『あぁ、アマリリスさんは違うと思うよ?』
「………え?」
『あぁ、ごめん。えっとね、アマリリスさんは前世の記憶……ニホンという国にいた頃のアイカの記憶は、知識としてしか思い出していないんだ』
「本当か?正直、彼女は記憶を取り戻してから変わったように思えたが……」
『それはきっと、アイカという人間の人生が衝撃的だったからじゃないかな。僕もリリエルからアイカの人生について教えてもらった時は、すごい驚いたからね……って、ラインハルトは僕の記憶を知ってるからわかるか』
「あぁ。………リリエル、さん、はアイカの記憶を話す時すごく辛そうだった。僕も、アイカの最期を知った今では、彼女の笑顔の裏に何かを見つけそうで、少し怖いな」
 リリエルさんは、アイカの記憶を完璧に保持して生まれた。アマリリスとは違って。
 それにも、アイカの意図が絡まっているのではないか…と、ハルトナイツの記憶を思い出した今では思う。
「それにしても、ハルトナイツの記憶のお陰で、かなりわかりやすくなった。
 アマリリスがリリエルさんの転生者で、ユークライ兄上がユークライさんの転生者で」
『アイカは僕達が生まれる前よりも、ずっと昔から生きてて』
「そのアイカはリリエルさんと出会って危機感を感じて、アマリリスには感情を伴わない、しかもところどころ思い出せないようんしたニホンの頃の記憶を取り戻させていて」
『そして、アイカは……おっと、もう時間みたいだね』
 えっ、と思わずハルトナイツを見て、僕は声を上げてしまった。
「どうして、体が透けているんだ?」
 下位精霊だと体が透けている事はよくある。なぜなら、彼らにはちゃんとした自我、もしくは十分な魔力がないからだ。
 しかし高位精霊の…第二位精霊のハルトナイツには、それらの条件は当てはまらない。
 …いや、心当たりがある。
「もう、限界なのか」
『うん。君が思い出したし、もう僕はいらないんだ』
 ハルトナイツはそう言って微笑む。
『じゃあ、もうお別れかな』
「結構あっさりしているんだな」
『まぁね。あまりここには未練もないし』
「そうか」
 手を差し出す。それを見て、ハルトナイツは怪訝そうな顔をした後、すぐに理解したように笑顔になった。
「元気でな……って、死んでいるはずのやつに言ってもな」
『ははっ、そうだね』
 ハルトナイツは力強く僕の手を握る。
『ラインハルト、三つ頼みたい事がある』
「わかった。なんだ?」
『一つ目は、アマリリスさんと二人で呪いに打ち勝つ事』
 当たり前だ。
 僕が頷くのを見て、ハルトナイツは満足そうな表情になった。体はどんどん透けていっている。
『二つ目は、悪魔を退ける事』
 ハルトナイツ達が、できなかった事だ。絶対に、成し遂げてみせる。
『三つ目は、幸せになる事だ』
「幸せに、なる事?」
 思わず聞き返してしまう。
 ハルトナイツの体は、もう反対側が見えるほどまで透けていた。
『僕達が、途中で諦めてしまった、諦めさせられた夢だ』
 自然と、手に力を込めた。
 もうハルトナイツは感じられない。彼のいたところに光の粒子があるだけだ。
『僕達が諦めていた人生の続きで、君達は幸せを掴んでくれよ────』
「………あぁ。言われなくても」
 ここにいない最愛の人に誓おう。
 呪いに打ち勝ち、悪魔を退け、そして絶対に幸せを、共に掴む事を。
 世界が再び暗転する。ただ、そこに恐怖を感じたりはしなかった。
 僕はひとりじゃない、なんて言葉は陳腐だけれど、僕の読みが正しければアイカかユークライ兄上が動いている。
 だから、そう遠くない未来で、きっとハルトナイツの願いを叶えられるだろう。
 僕達の手で、幸せを掴むんだ。
 幕間、ラインハルト視点でした。
 一話の予定でしたが、詰め込んでしまい長くなり、2つに分けさせて頂きました。
 ラインハルト視点だと、なぜか長くなるんですよね……不思議です。
 さてさて、ここから物語は大きく動いていく……と思います(前もこんな事言った気が)。
 ですが、しばらくはアマリリスとラインハルトの出番がないかもです。二人を待っている方々、本当にすいません!! あ、一応登場はする予定です。会話がないだけで…
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