【旧版】諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

30話: 最適な手段

「アマリリス!?」
「何があった!!」

 突然苦しみ始めたと思うと、アマリリスは気を失った。
 これは、少し不味いかもしれない。さっきからおかしかった魔力の流れが、かなり危ないであろうレベルまでになっている。さっき魔力を流した時に調べてみたが、彼女が自分で生み出している魔力が彼女自身を蝕んでいるみたいだ。


 私が色々考えている間に、アマリリスが床に倒れる。既視感を覚える目の前の光景に、私はごく自然に彼女の体に入ろうとして思いとどまった。
 あぶないあぶない、ここにはアマリリスの御両親もいらっしゃるじゃん。

 という訳で、私は崩れ落ちるアマリリスの体を、風魔法を使ってゆっくり私の腕の中に下ろした。横に抱き抱えているから、俗に言う「お姫様抱っこ」の状態になっている。

 ごめんねラインハルト、と一応脳内で謝っておく。婚約者だもんね。
 もっとも、今はちょっと危険な・・・状態なんだけど。

「アマリリス様…?」

 アマリリスの顔色を見て、エスが不安そうな声を上げる。

『エス、大丈夫だから落ち着いて。
 ────すぐ戻るよ。ちょっと失礼』

 私はエスに微笑みかけると、アマリリスもろとも一緒に部屋へ転移した。その時にアレックスを連れて行くのも忘れない。
 後ろで呆然としている面々の顔を思い浮かべると、ちょっと性急だったかな、と魔法を発動させてから思った。






 シャン、と鈴の鳴るような音がする。
 周りの景色が真っ白になったかと思うと、すぐ色が戻ってきた。

 やっぱり何回やっても、転移魔法は神秘的で面白い。
 っと、今は面白いとか言っている事態じゃない。

 私達が床に降り立つと、書き物をしていたエミーがぱっと頭を上げた。そして椅子を蹴り飛ばすように立つと、駆け足で私に駆け寄ってくる。

 昨晩いきなり部屋を飛び出したアマリリスが、私に抱きかかえられているのに、一切物音を立てなかったのは流石エミーだ、としか言い様がない。
 アマリリスの顔色、そして魔力の流れを見てエミーは青ざめる。

「アマリリス様!?アイカ様も、お怪我はございませんか!?」

『ありがと、エミー。私は大丈夫。アマリリスは……ちょっと疲れたみたいだから、休ませてあげてくれる?特に何かする必要はないから』

「…畏まりました」

 エミーはちょっと驚いたように目を見開いたが、すぐにアマリリスを寝かせる準備を始める。疲れた、というのが嘘だとはわかっているだろう。それでも指示に従ってくれるのは、本当にありがたい。
 私はアレックスとエスに目配せをして、外に出るように促した。

 カタン、と小さな音を立ててドアが閉まる。
 ドアが完全に閉じたのを見て、エミーが言葉を発した。

「あの、アマリリス様は……」

『エスの事、気になる?』

「…………アイカ様、エストレイに、私の事は話したのですか?」

『いや、話してないよ。エミーの好きなタイミングで話した方がいいと思う……話さなくても、いいよ』

「…畏まりました。御配慮に、感謝致します」

 多少憮然としたような表情を浮かべながらも、エミーは綺麗に腰を折る。きっと、私が質問に答えようとしなかった事に対して、何かしら思っているんだろう。エミーには悪いけれど、きっと彼女が聞こうとしていた「アマリリスの体調」とかに関して、私は何も言いたくない。
 あの時・・・の苦々しい記憶が思い浮かぶ。
 それを振り払って、私は笑顔を浮かべた。

『あ、そうそう、ちゃんと部屋で待機してくれてありがとね?────じゃ、私は会議に戻るから、アマリリスの事はよろしく』

 エミーは何も答えずに一礼する。私はそれを見て、転移魔法を発動させた。
 彼女のクリスト公爵家、アマリリス個人、そして私に向ける忠誠は半端じゃない。きっと上手くやってくれるだろう。

 まぁ、何も無い事を祈るけど。






 移動する時間は一瞬だ。目を開けた時には、さっきまでいた円卓の前にいた。

 さっきまで取り乱していたであろうアマリリスの両親、そしてヴィンセントは私を見て立ち上がる。
 私は彼らに笑いかけて、『寝てるだけだよ』と言った。

「そう、ですか……」

 納得はしていないようだが、ひとまず落ち着いてくれたみたいだ。

「落ち着きましたか?」

「えぇ。お恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ございません」

 フローレスが深く、そして美しく礼をする。きっと心の中はぐちゃぐちゃだろうに。

 レシアが微笑む。そして宰相に合図をすると、彼は会議の開始を告げた。

『……あれ?レイスト君は?』

「彼は先程、配下の者に呼ばれて退出しましたよ」

 私にそう教えてくれたユークライは、資料を眺めていて下を向いていたのに、立ち上がって私の椅子を引いてくれる。

「どうぞ、アイカ様」

『ありがとう』

 少しむず痒く、そして悲しくなる。これは他の人の前だから、という事はわかるが、やっぱり辛さが胸を締め付ける感じがした。

 軽く自分の手をつねって気分を切り替える。今から話すであろう事は、私だけじゃなくアマリリスにも影響する事だ。中途半端な気持ちで臨むべきではない。

「では、まずブラックダガーの話を、といきたいのですが……」

 宰相は言葉を切ってちらりとハーマイル君やレシアの方を見た。

「それよりも先に、ラインハルト殿下の様態についての話を、と思うのですが」

「……あぁ。その話を済ませておこう」

 喉が詰まっているように、苦しそうに、ハーマイル君が会議の進行を促した。
 そんな彼の様子を見て、レシアとイリスティアの二人がハーマイル君の手を握る。右手をレシアが、左手をイリスティアが。
 ハーマイル君は、健気────大人の女性に使うかはわかんないけど────な彼女達に微笑みかけると、宰相に合図を出した。

「ラインハルト殿下はつい先程医療室に運ばれました。様態はかなり悪く、原因はまだわかりませんが、体の末端から黒い何かが広がっていっているようです。王宮筆頭医師であるケークス殿が治療にあたっていますが、問題がありまして……治癒魔法が、効かないとのことです」

「…えっ?治癒魔法が?それって、無属性の方だけじゃなく、光属性もっすか?」

「えぇ」

 回復系魔法と呼ばれる魔法には、無属性と光属性の二種類がある。

 無属性は主に回復魔法と呼ばれ、相手の魔力に干渉する事で怪我や病気の回復を促すものだ。その際に自分の魔力を流す事で、より回復のスピードを速める事もできる。これは、下手に治療をするとかえって病状を悪化させる場合があるため、使い手は細心の注意を払わなくては行けない。
 光属性は主に治癒魔法と呼ばれる。光魔法の聖なる力には祝福の力が宿っていて、悪なる状態────つまり怪我や病気をしている状態を元に戻す。これは後遺症などのリスクが低いため重宝されるが、使える人材が限られている。

 さて、そんな回復系魔法の使い手としてケークスという人はすごく有名…らしい。無属性、光属性ともに長けていて、今まで治せなかった傷や病はなく、もともと平民だったのに今では貴族でも頭を下げるほどの存在だ。
 なのにそのケークスさんが治せないとなると……

「回復は、絶望的…?」

 レシアがポツリと呟く。目から透明な液体が溢れて、ゆっくりと頬を伝った。

「…姉さん、ごめんなさい……」

 レシアのか細い声は、隣のハーマイル君と私にしか聞こえなかったようだ。

『レシア、落ち着いて。まだ回復できないと決まったわけじゃない』

「だが、ケークスでも無理なのだろう?」

 『……ハーマイル君、言ったよね、上に立つ者が諦めてはならないって』

「私は、王だ。身内だけを優先するわけには────」

『あんたが王だったら、未来の王となる可能性のあるラインハルトを助けるのも重要なんじゃない?』

「可能性のないものに、時間を割けと?それは、非合理的なのではないか?」

『違うよ。私は、諦めたいのか聞いてるの』

「………しかし、諦めも肝心、と言っていたじゃないか」

『あんたは、ハーマイル君自身は、諦めたいの?』

「…………諦めたいわけがあるか!!」

 普段寡黙な王の大声に、ヴィンセントはおろか公爵や宰相までも驚いている。

 少し反省をした。今の私は、きっと冷静さを欠いている。ハーマイル君を追い詰める意味はなかった。
 無駄な事に時間を使ってしまった。それこそ、ハーマイル君が言う通り、"非合理的"なのだろう。

 私がハーマイル君に謝ろうとした時、イリスティアが声を上げた。

「失礼ですがアイカ姉様、そこまでおっしゃるとは、ひょっとして手があるのですか?」

 ハーマイル君を宥めながら、イリスティアが訊ねる。
 流石イリスティア。昔っから勘が良かったが、王妃として経験を積む中でもっと鋭くなったみたいだ。

『……………もし、あるって言ったらどうする?』

 私の言葉に、ハーマイル君とレシアが息を呑んだ。いや、二人だけじゃない。部屋中の全員が、信じられないというような顔をしている。

『正直オススメしないし、したくない。けど聞きたいっていうなら……まず会議を終わらせてから言う』

「会議を終わらせてから、か……アイカらしいね。────父上、まず会議を終わらせましょう。今は緊急時です。国の中心である我々が動かなければ」

「そう、だな。あぁ、ユークライの言う通りだ。ミレイル、進行を頼む」

「畏まりました」

 ユークライを見ると、彼は微笑んでテーブルの下で私の手を握ってくれた。さっきの力強いセリフとは裏腹に、その手はかすかに震えていて、思わず握る力を強める。

「まず被害状況ですが────」








「決定事項を確認させて頂きます。
 まず、侵入者に関しては、魔法師団と衛兵に調査を委託。報告は私を通して陛下へ。
 次にグーストへの視察ですが、延期はいたしますが行います。ですが、向かうのはイリスティア王妃殿下とユークライ第一王子殿下。
 ブラックダガーの動向については監視を続行。ただし、今回の襲撃彼らの差し金の可能性も高いため出来るだけ刺激しないように留意するという事。
 メイスト王国に対する謝罪は、外務大臣であるクリスト公爵が中心となって進める事。
 この他の小さな事は、私の方で処理をします。
 では、これにて会議を終了します。私が諸官に指示を出しますので、陛下は何もしなくていいですよ」

 相変わらずミレイル君の思いやりは分かりにくい。しかし、ハーマイル君はちゃんと理解しているから笑って頷く。


 ミレイル君が退出すると、ハーマイル君は表情を引き締めて私に真っ直ぐ視線を向けた。

「アイカ、それで方法は……」

『わかってる、わかってるって。じゃあ言うよ?────アマリリスと、ラインハルトの魂の回廊を繋げる。あんまりオススメしたくないけど、最適だと私は思うよ』

 会議室に沈黙が降りた。

 私は別に返答を急かしたりはしない。だから口を開かず、彼らが答えを出すのを待った。

「……一体それは、どのような方法なのですか?」

 意外にも、私に質問をしたのはイリスティアだった。てっきりユークライやヴィンセント、ウェッズル君あたりかと思っていたのだが。

『えっとね、簡単に説明すると……見ないと断定はできないけど、今ラインハルトは悪魔による呪いにかかっている』

「悪魔……」

 ハーマイル君が呆然としたように呟く。
 まぁ、自分の息子が伝承上での存在に呪いをかけられているなんて、簡単には信じられないだろう。

『そんでアマリリスは、悪魔の魔力と接触したせいで自分の魔力を抑えられなくなってる。理由は………アマリリスの魔力は、悪魔に対抗しうる特別な魔力と似通った性質があるから。ただあまりにも強大すぎて、ただの人間であるアマリリスには毒となってる。このままだと……死ぬかもしれない。
 この二人の間に魂の回廊を繋ぐ。すると、アマリリスの抑えられていない魔力がラインハルトに流れる。んでその魔力が呪いを打ち消して、アマリリスの魔力も量が減るから抑えられるくらいになる』

「そんな事が、可能なのかよ……」

 ヴィンセントの疑問はもっともだ。私だって、あの時・・・初めてこの方法を言われた時は信じられなかった。

『可能だよ。ただ、危険性はかなりある。例えば呪いがアマリリスにも伝染したり、ラインハルトがアマリリスの魔力に耐えられなかったり、とかね』

 再び静寂が訪れた。衣擦れの音さえもせず、緊張感と焦燥感を孕んだ空気が部屋を支配する。

 さて、どんな答えが出るのだろう。

「……………………やろう」

「陛下、しかし…」

「それしかないのだろう?それに、このまま何もせずとも二人は蝕まれていくのだ。だとしたら危険があってもやるべきだ」

 ハーマイル君の言葉は正しい。ただ、正しいからと受け入れられるか、と聞かれれば否だ。

「わたくしは、アマリリスを危険に晒したくなどありませんわ。わたくしの我儘なのでしょうけれど………あの子が第三王子殿下に殺されかけたと聞いた時、もうあの子に命の危険を感じさせたくないと、切に思ったのです」

「だとしても、このまま二人の死を待つのは嫌よ……」

 弱々しい声で、レシアがフローレスに反論する。

『…………私個人としては、できればやりたいと思う。もちろん危険もある。けど、それをどうにかする方法も、一応だけどある』

 部屋中を見渡す。

『私が────天災の精霊、そして大地の精霊、記憶の精霊が協力する。運が良ければ武器の精霊も手伝ってくれると思う。四柱の高位精霊を信用しては、くれないかな』

「……私は賛成です。父上、母上方、ラインハルトとアマリリスのためですし、もし二人の意見を聞けるのなら、二人はやると言う気が致します」

「……陛下。俺の方からもお願いします。アマリリスがこのまま死ぬなんて嫌です。それに、アマリリスもラインハルト殿下もそんなヤワじゃない。俺達がちょっと背を押してあげれば、きっとどうにかしますよ。だからお願いします」

 ヴィンセントが頭を下げる。

「私からも、陛下」

 ウェッズルも、椅子から立ち上がり深く腰を折った。
 それを見て、フローレスがウェッズルの服の裾を掴む。彼女の目は不安に染まっていて、心做しか自分の夫を非難しているように思える。しかし、ウェッズルは自分の意志を曲げるつもりは無いようだ。

 さて、ということは、賛成が私を含めて三人、反対が…レシアも多分反対だから、合計で二人。どっちつかずな態度をとっているのが二人か。

『ハーマイル君、イリスティア、どう思う?』

 私に名を呼ばれた二人は、それぞれ全く違う反応をした。
 ハーマイル君は辛そうに顔を歪め、自分の手を見つめている。
 イリスティアはというと、相変わらず笑みを崩していない。

「陛下の御心のままに」

 短くそう言い切ったイリスティアは、隣に座るハーマイル君を見つめる。その目からは彼に対する信頼が見受けられた。

「……………アイカ、他の方法はないのか?」

『ないと思いな。これまた見ないとわかんないけど、多分この呪いは術者が死んでも持続するやつだし、アマリリスに関してもあの魔力・・・・は正直言って手に余る。私の提示した案が、一番現実的で、合理的だよ』

「現実的で、合理的か……」

「……アイカ様、他の方法は、あるのですか?」

 フローレスが縋るように問いを発する。

『………ある、って言ったらあるね』

「…っ!」

 フローレスの目が希望に輝く。
 だから、この解を話すのに抵抗を感じた。けれど話すしかないだろう。そうすれば、否が応でも私が最初に提示した案しかない事を理解してくれるから。

『悪魔の長、魔王に協力を仰ぐ。そいつは、自分の下位存在がかけた呪いなら全て自分の思いのままに解除できる。それに、対悪魔の魔力を自分の魔力で相殺できる』

「そんなの……」

 フローレスは静かに首を振る。そして、小さな声で「皆様の総意に従います」と呟いた。

 後はレシアだけだ。

『レシア、あんたはどうしたいの?』

「………アイカ様、私は、ラインハルトを…姉さんの残したラインハルトを危険に晒したくない!」

『…レシア!!』

「え…?姉さんの残した、とは…レシア様、一体どういう事ですか?」

 ユークライが、語気強く問う。

 どうして言ってしまったんだ、とハーマイル君が非難の意を込めてレシアを見つめた。彼女はハーマイル君の視線に気づくと、「申し訳ございません」と謝罪する。
 彼女の目には、何かを覚悟した強い光が宿っていた。

「……そのままです。私は、姉さんの代わりに過ぎません」

「おい、レシア…!」

 ハーマイル君がレシアの腕を掴む。しかし、レシアはそれを振りほどくと立ち上がった。

「この場で言う必要があると感じ、私の独断でこの事をお伝えさせて頂きます……と言っても、ユークライとヴィンセント以外は全員知っていますが」

『レシア…』

 何を言えばいいのかわからず、伸ばした手は何も掴まずに下ろした。

「アイカ様、どうか止めないで下さい。どちらにせよ、近いうちに言う必要がありました。
 ────私は、レシア・ケーシー・ウィンドールではありません。レシアの双子の妹、リシア・ケーシーです」

「……どうして、レシア様に成り代わったのですか」

「姉さん、は、悪魔の……」

『悪魔の依り代にされた』

 言葉に詰まるリシアから説明を引き継ぐ。

『そのせいで、生命力を根こそぎとられて、しかも回復する先から悪魔の魔力の残滓に奪われて、そのせいで今は眠ってる。解決方法をずっと探してた。そんで、その糸口は見えたから、リシアはこの事実を告げた』

「糸口……なるほど、アマリリスか?」

『ヴィンセント、正解だよ』

 正確に言うと、アマリリスの魔力だ。
 悪魔の魔力に対して抗力があるアマリリスの魔力なら、レシアをどうにかできる可能性がある。

『レシアは、今も王城のある一室で眠っている。けれど、この事を公表するのは無理だ。国民に不安を与えてしまうからね。だから、レシアとそっくりのリシアに、レシアの代わりをしてもらってる』

 リシアは元々、自分と瓜二つの姉の影武者、そして護衛となるよう訓練を受けてきた。
 これはケーシー公爵家の伝統らしく、双子が生まれた場合は、後に生まれた方の存在を秘匿するそうだ。
 リシアもその例に漏れず、彼女の存在を親類以外で知っている人物は少ない。

「待ってくれ。どうして、私には真実を話してくれなかったのですか、父上?私も微力ながら手伝えたかもしれいのに」

「……もし伝えていたら、お前はラインハルトを気遣っていただろう?その前からも、ラインハルトは強すぎるその魔力から、お前達兄弟に気遣われていた。そしてラインハルトは、その事に負い目を感じていた。父としては、息子のそんな姿を見たくなかったんだ。ユークライ、すまない」

 ハーマイル君の謝罪に、ユークライは少し驚いたような顔をした後、笑顔を浮かべて頷いた。

「私の発言のせいで、余計な時間を使ってしまい、申し訳ありません。ですが私個人としては、ラインハルトを…そして、アマリリス嬢を危険に晒したくないのです。しかし、アイカ様の助力があるのでしたら……」

『なるほどね。了解したよ。さて…』

 皆の視線がハーマイル君に集中した。

『どうする、ハーマイル君。君の決断次第だよ』

「………息子と、未来の娘を、よろしく頼む、アイカ」

 その言葉は、ずしりと私の両肩に見えない何かを落とした。

 久しぶりの重圧に、押し潰されそうな不安を感じ────いや、もう私は何も感じない。ただただ、自分のすべき事を成すだけだ。

『任して。私だって、二人を絶対に救いたいから』

 今度こそは、とは言わない。それだとちゃんと、彼ら自身を見ていないようだから。

『アマリリスとラインハルトを救う。────そのために、ちょっと陛下には手伝っていただきますよ?』

 いたずらっぽく笑うと、少しぎこちないが、ハーマイル君と他の面々が笑顔を浮かべてくれた。

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