【旧版】諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む
幕間: 青年と精霊
 すいません。筆者の私事で更新が止まっていました…
 待ってくださった方々に感謝を!!
 俺の目の前で地図を見ている一人の女性────少女から大人の女性へと成長していく、その瞬間の美しさを切り取ったような彼女を見つめる。
 すると、俺の視線に気付いた彼女が笑みを浮かべた。そして緩やかに描かれた弧から、涼し気な声で俺に問いかける。
『どうしたの、ユークライさん?』
「いえ。お美しいと思っていただけです。」
 スラスラと歯の浮くような台詞を言って、本心を誤魔化すしまう自分に嫌気が差す。
 けれど、俺はこうでもしないと気持ちを伝えられない。
 初めて会った時、俺は彼女に何か特別なものを感じた。まるではるか昔から想っていたかのように思ったのだ。
『ありがと。ユークライさんも、相変わらず顔がいいよねー。』
 無自覚か、はたまた計算しているのか。
 飄々とした表情からは読めないけれど、それさえも好きなのだから俺は少しおかしいのだろう。惚れた弱み、というやつかもしれない。
「"さん"はいいですよ。高位精霊様にさん付けなんて、私のような若輩者には畏れ多い。」
『そう?じゃあ、敬語やめて。後、様付けもやめて欲しい。』
「では、どうすれば?」
『んー。……普通に、アイカって呼んで。』
 いきなり難易度が高いな、と苦笑する。
 高位精霊云々は事実だけれど、呼び捨てが恥ずかしいのもあるのだ。今まであしらってきた令嬢達の時は、容易く名前を呼んで機嫌をとっていたというのに。
「アイカ……さん?」
『アイカでいい。ってか命令。うん、高位精霊の命令には逆らえないよね?』
 思わず笑みを零す。
「そうです…そうだね。高位精霊の命令には逆らえない。」
『ふふっ。わかればよろしい。』
 嬉しそうにアイカは笑った。そして座っていた椅子を引くと、机に肘をつく。
 眠そうにウトウトしてる彼女を見ていると心が和んだ。それに、安心する。俺には、アイカはいつも、何かに迫られているように見えていた。常に緊迫しているようで、たとえ笑っている時でも目は常に何かを警戒していた。
 そんな彼女が幸せそうにまどろんでいる。しかも、俺の前で。自惚れなのかもしれないが、信頼されているようで嬉しかった。
 しばらく部屋に沈黙が降りる。だが、何かを喋らなければ、という焦燥感は無かった。むしろ、この静けささえ心地よい。
『んー。』
 それを破ったのは、背伸びをするアイカの声だった。
 彼女は少し気まづそうに笑うと、地図を指差す。
『ごめんね。休憩はこれくらいにして、グーストの事だけど。』
「警備は母上が手配しているらしい。私達がする事といえば、確認くらいだと思うよ。」
『了解。じゃあ、城の警備については────』
 話す事は色気も何も無い事ばかりだが、それでも俺にとっては楽しい。彼女と会話するだけでも、充足感を感じるのだ。
 出会ったばかりだとは思えない。けれど、だったらいつ出会ったのかもわからない。
 ただ俺にわかるのは、今この時間が大切なものだと言う事。それだけだ。
 しばらく話し込んだ後の事だった。
 事件が、起きたのは。
『護衛の事なんだけどさ、ここら辺に……』
 アイカが立ち上がって、地図上に置いてある護衛に見立てた駒を動かそうとする。しかし遠かったようで、指が駒を弾く。
 机の端の方にあった駒は、ゆらゆらと今にも落ちそうだ。
『やばっ!』
 駒は水晶でできているから、このまま落ちては割れてしまうだろう。俺の場所からは手が届くのだが、今手に持っている書類の束達が大変な事になってしまう。
 俺が逡巡している間に、アイカが椅子を蹴って駒のある方────俺の座っている所の奥────へ手を伸ばす。ところが、バランスを崩したようで倒れ込んだ。
 このままでは、俺が座っている椅子にアイカがぶつかってしまう。そう考えた瞬間、椅子をひいていた。
『ひゃぁ!』
「アイカ!!」
 そして俺は思わず、彼女を受け止めた。
 アイカが、俺の胸の中にいるような形になってしまう。
 それだけならまだしも、俺は彼女を抱きしめてしまっていた。
『ふわぁっ!?』
 感じた温もりを────精霊に体温があるのか少し不思議だったが────離したくなくなる。彼女の暖かさが、俺の奥底にあった冷たい何かを溶かしてくれているように思えた。
 つい腕に力を込めると、彼女はびっくりしたように肩を震わせる。
『え、ちょ、待って、えぇ!?』
「…ごめんね。嫌なら、無理矢理逃げて。」
 我ながらひどいな、と思う。
 俺は、彼女の優しさに漬け込んでいる。
 アイカはきっと、嫌だなんて言わないだろう。だから逃げるはずがないのだ。それをわかっていてあんな事を言ったのは、きっと卑怯なんだ。
 けれど、俺は自分の言葉を撤回しようとはしなかった。
『……ユークライ。』
「…………なんだい?」
『私は……私は精霊で、ユークライは人間。』
 突然、何の話だろう。
『ただの人間じゃなく、王族で武器の精霊の愛し子。』
 どうしてそれを、と口の中で呟く。
 闘いの精霊の下位存在である、第三位精霊の武器の精霊から加護を貰っている事さえ、知っているのはわずか一部だけだ。
 そして、俺が武器の精霊の愛し子である事は誰も知らない。母上や、父上でさえも。
『ただの王族ならともかく、国防においても大きな力を発するユークライを、国はきっと手放したりしない。私達は……結ばれない。』
「……っ!」
 彼女の言わんとする事を理解して、思わず息を呑む。
 そう、俺がいくら彼女が好きでも。
『ユークライ、私はあなたの事が好き。』
 周りは、俺達を取り囲む人々はきっと俺達を許してくれない。
「……俺も、君の事が好きだよ。」
 報われない恋だけれど、俺はこの恋に恋するのをやめられない。
 焦がれるほど熱い俺の心の中に眠る気持ちは、きっと彼女を諦めたりはしないだろう。
 俺の告白を聞いたアイカは押し黙っている。彼女は俺に顔を押し付けているから、表情を見ることも出来ない。
 しばらくどちらも口を開かず、部屋の中には物音一つ無かった。
『……ごめんね、ユークライ。私がもし、普通の女の子だったら。貴族の令嬢だったら、良かったのに。』
「俺こそ。俺がもし精霊だったら、普通の人間だったら。」
 ありえない"もし"の話。
 考えるだけ虚しさが増す気がする。
 再び沈黙が降りた。
『……ユークライってさ、一人称は俺、なんだ。』
 かなり唐突で、我慢出来ずに吹き出してしまう。
「突然だね。うん、俺。私って言うのは、王族としての俺の時。」
『じゃあ俺って言うのは?』
「俺……ユークライ・ウィンドールが、ただのユークライの時。」
 アイカは、それだけで理解したようで何も言わなかった。それに安堵して息を吐く。知らず知らずのうちに緊張していたようだ。
 優秀な第一王子と呼ばれているのにこのザマか、と心の中で笑った。アイカはそれほど、俺にとって大事な存在らしい。
『……そういえば、いつまでこうするの?』
 アイカの言葉でやっと、彼女を抱きしめていた事に気付く。
 慌てて腕を離すと、アイカは少し残念そうな顔をする。
『別に、やめてって事じゃないのに…』
「………可愛い。」
『うわっ、いきなり抱きつかないで!心の準備っていうか、心臓に悪いっていうか……』
 アイカは、俺の胸に顔を埋めるようにする。その動作が可愛くて、気付けば額に唇を落としていた。
 こんな事をするのは初めてだ。
『ふわぁっ!な、何するんですか!!』
 抗議するように、アイカが俺の腕から逃げる。追いかけようとは思ったが、彼女が空中に浮くのを見て諦めた。
『いや、確かに両片思い的な状態からふつーの両思いに昇格したけど、いきなりキスはしないよね!?』
「……嫌、だった?」
 俺が尋ねるとアイカは笑う。そしてだんだん床に近づいていき、俺の前に降り立った。
『そんなわけないじゃん。ったく、美形はずるいよ……』
 アイカは溜め息をつくと、俺の服の首元を掴む。
 服が引っ張られて前屈みになった。
『二千年も待たされたんだからね。』
 彼女はそう呟くと、背伸びして俺の唇に自分の唇を重ねる。
 驚いて目を開いたが、俺はすぐに目を閉じた。そうすると、俺が彼女に触れている場所だけが俺の世界になる。
 王子とか精霊とか、しがらみを全部忘れて二人だけになる。
 俺達だけの世界。この時間がずっと続けばいいと、本気で思った。
 あれ、おかしいですね…なんで主人公達よりイチャイチャしてるんでしょう?
 身長差カップル…(ボソッ)
 19センチ差ですよ!!
 待ってくださった方々に感謝を!!
 俺の目の前で地図を見ている一人の女性────少女から大人の女性へと成長していく、その瞬間の美しさを切り取ったような彼女を見つめる。
 すると、俺の視線に気付いた彼女が笑みを浮かべた。そして緩やかに描かれた弧から、涼し気な声で俺に問いかける。
『どうしたの、ユークライさん?』
「いえ。お美しいと思っていただけです。」
 スラスラと歯の浮くような台詞を言って、本心を誤魔化すしまう自分に嫌気が差す。
 けれど、俺はこうでもしないと気持ちを伝えられない。
 初めて会った時、俺は彼女に何か特別なものを感じた。まるではるか昔から想っていたかのように思ったのだ。
『ありがと。ユークライさんも、相変わらず顔がいいよねー。』
 無自覚か、はたまた計算しているのか。
 飄々とした表情からは読めないけれど、それさえも好きなのだから俺は少しおかしいのだろう。惚れた弱み、というやつかもしれない。
「"さん"はいいですよ。高位精霊様にさん付けなんて、私のような若輩者には畏れ多い。」
『そう?じゃあ、敬語やめて。後、様付けもやめて欲しい。』
「では、どうすれば?」
『んー。……普通に、アイカって呼んで。』
 いきなり難易度が高いな、と苦笑する。
 高位精霊云々は事実だけれど、呼び捨てが恥ずかしいのもあるのだ。今まであしらってきた令嬢達の時は、容易く名前を呼んで機嫌をとっていたというのに。
「アイカ……さん?」
『アイカでいい。ってか命令。うん、高位精霊の命令には逆らえないよね?』
 思わず笑みを零す。
「そうです…そうだね。高位精霊の命令には逆らえない。」
『ふふっ。わかればよろしい。』
 嬉しそうにアイカは笑った。そして座っていた椅子を引くと、机に肘をつく。
 眠そうにウトウトしてる彼女を見ていると心が和んだ。それに、安心する。俺には、アイカはいつも、何かに迫られているように見えていた。常に緊迫しているようで、たとえ笑っている時でも目は常に何かを警戒していた。
 そんな彼女が幸せそうにまどろんでいる。しかも、俺の前で。自惚れなのかもしれないが、信頼されているようで嬉しかった。
 しばらく部屋に沈黙が降りる。だが、何かを喋らなければ、という焦燥感は無かった。むしろ、この静けささえ心地よい。
『んー。』
 それを破ったのは、背伸びをするアイカの声だった。
 彼女は少し気まづそうに笑うと、地図を指差す。
『ごめんね。休憩はこれくらいにして、グーストの事だけど。』
「警備は母上が手配しているらしい。私達がする事といえば、確認くらいだと思うよ。」
『了解。じゃあ、城の警備については────』
 話す事は色気も何も無い事ばかりだが、それでも俺にとっては楽しい。彼女と会話するだけでも、充足感を感じるのだ。
 出会ったばかりだとは思えない。けれど、だったらいつ出会ったのかもわからない。
 ただ俺にわかるのは、今この時間が大切なものだと言う事。それだけだ。
 しばらく話し込んだ後の事だった。
 事件が、起きたのは。
『護衛の事なんだけどさ、ここら辺に……』
 アイカが立ち上がって、地図上に置いてある護衛に見立てた駒を動かそうとする。しかし遠かったようで、指が駒を弾く。
 机の端の方にあった駒は、ゆらゆらと今にも落ちそうだ。
『やばっ!』
 駒は水晶でできているから、このまま落ちては割れてしまうだろう。俺の場所からは手が届くのだが、今手に持っている書類の束達が大変な事になってしまう。
 俺が逡巡している間に、アイカが椅子を蹴って駒のある方────俺の座っている所の奥────へ手を伸ばす。ところが、バランスを崩したようで倒れ込んだ。
 このままでは、俺が座っている椅子にアイカがぶつかってしまう。そう考えた瞬間、椅子をひいていた。
『ひゃぁ!』
「アイカ!!」
 そして俺は思わず、彼女を受け止めた。
 アイカが、俺の胸の中にいるような形になってしまう。
 それだけならまだしも、俺は彼女を抱きしめてしまっていた。
『ふわぁっ!?』
 感じた温もりを────精霊に体温があるのか少し不思議だったが────離したくなくなる。彼女の暖かさが、俺の奥底にあった冷たい何かを溶かしてくれているように思えた。
 つい腕に力を込めると、彼女はびっくりしたように肩を震わせる。
『え、ちょ、待って、えぇ!?』
「…ごめんね。嫌なら、無理矢理逃げて。」
 我ながらひどいな、と思う。
 俺は、彼女の優しさに漬け込んでいる。
 アイカはきっと、嫌だなんて言わないだろう。だから逃げるはずがないのだ。それをわかっていてあんな事を言ったのは、きっと卑怯なんだ。
 けれど、俺は自分の言葉を撤回しようとはしなかった。
『……ユークライ。』
「…………なんだい?」
『私は……私は精霊で、ユークライは人間。』
 突然、何の話だろう。
『ただの人間じゃなく、王族で武器の精霊の愛し子。』
 どうしてそれを、と口の中で呟く。
 闘いの精霊の下位存在である、第三位精霊の武器の精霊から加護を貰っている事さえ、知っているのはわずか一部だけだ。
 そして、俺が武器の精霊の愛し子である事は誰も知らない。母上や、父上でさえも。
『ただの王族ならともかく、国防においても大きな力を発するユークライを、国はきっと手放したりしない。私達は……結ばれない。』
「……っ!」
 彼女の言わんとする事を理解して、思わず息を呑む。
 そう、俺がいくら彼女が好きでも。
『ユークライ、私はあなたの事が好き。』
 周りは、俺達を取り囲む人々はきっと俺達を許してくれない。
「……俺も、君の事が好きだよ。」
 報われない恋だけれど、俺はこの恋に恋するのをやめられない。
 焦がれるほど熱い俺の心の中に眠る気持ちは、きっと彼女を諦めたりはしないだろう。
 俺の告白を聞いたアイカは押し黙っている。彼女は俺に顔を押し付けているから、表情を見ることも出来ない。
 しばらくどちらも口を開かず、部屋の中には物音一つ無かった。
『……ごめんね、ユークライ。私がもし、普通の女の子だったら。貴族の令嬢だったら、良かったのに。』
「俺こそ。俺がもし精霊だったら、普通の人間だったら。」
 ありえない"もし"の話。
 考えるだけ虚しさが増す気がする。
 再び沈黙が降りた。
『……ユークライってさ、一人称は俺、なんだ。』
 かなり唐突で、我慢出来ずに吹き出してしまう。
「突然だね。うん、俺。私って言うのは、王族としての俺の時。」
『じゃあ俺って言うのは?』
「俺……ユークライ・ウィンドールが、ただのユークライの時。」
 アイカは、それだけで理解したようで何も言わなかった。それに安堵して息を吐く。知らず知らずのうちに緊張していたようだ。
 優秀な第一王子と呼ばれているのにこのザマか、と心の中で笑った。アイカはそれほど、俺にとって大事な存在らしい。
『……そういえば、いつまでこうするの?』
 アイカの言葉でやっと、彼女を抱きしめていた事に気付く。
 慌てて腕を離すと、アイカは少し残念そうな顔をする。
『別に、やめてって事じゃないのに…』
「………可愛い。」
『うわっ、いきなり抱きつかないで!心の準備っていうか、心臓に悪いっていうか……』
 アイカは、俺の胸に顔を埋めるようにする。その動作が可愛くて、気付けば額に唇を落としていた。
 こんな事をするのは初めてだ。
『ふわぁっ!な、何するんですか!!』
 抗議するように、アイカが俺の腕から逃げる。追いかけようとは思ったが、彼女が空中に浮くのを見て諦めた。
『いや、確かに両片思い的な状態からふつーの両思いに昇格したけど、いきなりキスはしないよね!?』
「……嫌、だった?」
 俺が尋ねるとアイカは笑う。そしてだんだん床に近づいていき、俺の前に降り立った。
『そんなわけないじゃん。ったく、美形はずるいよ……』
 アイカは溜め息をつくと、俺の服の首元を掴む。
 服が引っ張られて前屈みになった。
『二千年も待たされたんだからね。』
 彼女はそう呟くと、背伸びして俺の唇に自分の唇を重ねる。
 驚いて目を開いたが、俺はすぐに目を閉じた。そうすると、俺が彼女に触れている場所だけが俺の世界になる。
 王子とか精霊とか、しがらみを全部忘れて二人だけになる。
 俺達だけの世界。この時間がずっと続けばいいと、本気で思った。
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 19センチ差ですよ!!
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コメント
あおい
なにこれ尊い